アメリカン・ニューシネマの一つ。
ハードボイルド作家ホレス・マッコイが1935年に書いた小説「彼らは廃馬を射つ」を、ジェームズ・ポー、ロバート・E・トンプソンが脚本化してシドニー・ポラック監督が映画化した、大恐慌時代のダンス・マラソンの狂気を描いた作品。
独立系映画でありながらアカデミー賞9部門でノミネートされ、助演男優賞(ギグ・ヤング)を受賞した。
主演はこの作品で演技開眼したジェーン・フォンダ、当時人気者だったマイケル・サラザン。
共演はギグ・ヤング、スザンナ・ヨーク、ブルース・ダーン、ボニー・ベテリア。
なお撮影は、「殺しの分け前/ポイント・ブラック」を撮ったフィリップ・H・ラスロップ。
あらすじ
1932年大恐慌時代、ハリウッドは失業者で溢れていた。ロバートはダンス・マラソン会場に現れる。ロッキーというプロモーターが会場で男女ペアの参加者を募っていた。参加者には、ハリウッドの失業者が集まってきた。そこに、船乗りハリー組や女優アリス組、臨月が間近いルビーと夫ジェームズなどもいた。
グロリアの男が体調不良でロバートに出場拒否されてしまう。その代わり、たまたま前を通りかかった失業者ロバートとグロリアは組むことになる。
大会の開始時間が近付き、大恐慌にも関わらず裕福そうな観客たちが集まって来た。
グロリアとロバートは、最初ギクシャクするが、何日も踊り続けるうちに打ち解けていく。スポンサーが二人に付いた。会社名を背中に書いたトレーナーを着て踊るのだ。
しかし、時間が経つにつれ脱落者も増えていった。
観客の余興のために「ダービーレース」が開催された。百組のペアダンサーに10分間の競歩をさせて、完歩しても下から3組は失格となる。ロバートとグロリアは、何とか生き残ることが出来たが、ロバートの足が攣ってしまう。グロリアは、彼を引きずって踊った。
ロバートは、グロリアから離れて一人でいると、アリスが発情してしまい、抱き合ってしまう。時間になってもなかなか二人が現れず、遅れて部屋から二人が出て来たのを見て、グロリアは全てを悟る。
次の休憩時間に入って、腹いせにグロリアは、ロッキーの部屋にこっそり入って、ロッキーを寝かしたまま風俗嬢のようなプレイをする。
休憩時間が終わると、グロリアはロバートと離れて、アリスのペアだったジョエルと新たにペアを組むと宣言し、ロバートは残ったアリスと組む・・・。
雑感
ダンス・マラソンとは1920年代からアメリカで始まった。1時間50分踊って10分休憩し、そのペースで昼夜ぶっ通しで踊り続け、脱落者を失格させ、最後に1組が残るまで何十日でも続けるものだ。
はじめは学生のチャリティ・ショーだった。ダンス・マラソンは、発祥時から貧民に慈悲を与える目的があったのだ。 それが、大恐慌時代に入ると、踊り手は失業者が勤めて、裕福な観客を集めて、興業化する。
その後、ルーズベルト大統領が行ったニューディール政策の成功により、アメリカ経済は復調した頃、興業としてのダンス・マラソンは消滅する。
しかしこの映画を見ていると、ダンス・マラソンも突き詰めると、リアリティ・ショーを見ている気持ちになる。だから、行き詰まって自殺者が出てもおかしくない。(世界中のリアリティ・ショーで、過度な演出のため自殺者が続出している)
見た感想としては、鬱になる感じはなかった。性格が残酷なのか、時間が短く感じられワクワクこそすれ、演者と同一化することはなかった。
確かに最後に主人公が死を選んだのは、意外だったが、弟ピーター・フォンダの出演している「イージーライダー」より名画だと思ってしまった。
ジェーン・フォンダもスザンナ・ヨークもいつもスクリーンで見ている顔と全く違う。34年前のファッションを意識してのことだが、女性は化けるのが上手い。
ギグ・ヤングはドリス・デイのコメディー路線に多く出演していたから、何度か見たことがある。渋い俳優と思ったが、この作品でアカデミー助演女優賞を受賞した。
さらにルビーとジェームズの夫婦役を演じたボニー・べデリアとブルース・ダーンは、新人だったがともにスターになった。
スタッフ
監督 シドニー・ポラック
脚本 ジェームズ・ポー、ロバート・E・トンプソン
原作 ホレス・マッコイ
製作 ロバート・チャートフ、アーウィン・ウィンクラー
製作総指揮 セオドア・B・シルズ
音楽 ジョニー・グリーン
撮影 フィリップ・H・ラスロップ
キャスト
グロリア ジェーン・フォンダ
ロバート マイケル・サラザン
ロッキー(主催者) ギグ・ヤング
アリス(女優) スザンナ・ヨーク
ハリー(水兵) レッド・バトンズ
ルビー(妊婦) ボニー・ベデリア
ジェームズ(ルビーの夫) ブルース・ダーン
マックス アート・メトラーノ
ネタばれ
しかしそのペアも、ジョエルに俳優の仕事が付いたので、解消されてしまう。仕方なくグロリアは一人で踊り続ける。数時間経って、ハリーの相手が伸びてしまい、ドクター・ストップになる。すかさず、グロリアはハリーと組む。
しかし2回目のダービーレースでグロリアと組んだハリーが、倒れて搬送される。ハリーが倒れ込んだ時、受け止めたアリスはハリーが死んだものと思い込み、控室で着衣のままシャワーを浴びて、ヒステリーを起こした。正気を失ったアリスは、ロッキーにより失格となる。そしてロバートとグロリアが、再びペアになった。
観客がだれて来たことを見て取ったロッキーは、寄りを戻したロバートとグロリアに余興として結婚しろと勧める。グロリアが渋ると、ロバートは2人に経費の請求書の束を見せ、どうせダンス・マラソンの勝者は大会経費を全額負担するから、何も残らないという裏話まで聞かせる。
大会に担がれたと知ったグロリアは、怒って荷物をまとめて会場を出ていき、ロバートも後を追う。疲労困憊して鬱になった彼女は、銃で自殺しようとするが、出来ない。そこで彼に銃を渡して、最後の助けを求めた。彼は彼女の頼みを聞き入れ、彼女の頭を拳銃で射つ。逮捕した警官に、彼は子供時代に故障した愛馬を射殺された時の記憶を思い出し、「廃馬は射ち殺すんでしょう」と答えた。