加藤泰(1985年没)が監督したドキュメンタリー映画。
1952年「血のメーデー事件」(独立3日後の5月1日に、学生運動デモが警察隊と衝突して死亡者が出た事件)に連座して早稲田大学を退学になった田耕は、柳田國男の異端の弟子で民俗学者宮本常一に師事し、1970年ごろから宮本の指導のもとで伝統芸能集団鬼太鼓座を育て上げる。彼らは佐渡島の小村に集団生活して、音楽や舞踊の本質を走ることと考えた(走楽論)。荒地の長距離走を中心に体を鍛え上げていたメンバー達は、1975年ボストン・マラソンに完走した直後、すぐライブを行って有名になった。(女性団員は日本人女性として公式フルマラソン初完走)
この「ざ・鬼太鼓座」はその若者の鍛え上げられた肉体美から奏でられるリズムに生命を感じ取る、究極のドキュメンタリーだ。日本列島の四季を追いながら、レパートリーに日常やトレーニングのシーンなどを折り込みながら、時にはロケで、時にはスタジオに特撮セットを組んで描かれていく。

あらすじ

楽曲ごとに箇条書きする。
初めは民間伝承中心に鬼太鼓座が佐渡の人の中に溶け込んでいることを見せる。

佐渡の鬼太鼓 伝承曲
佐渡の能楽  伝承曲
佐渡の文弥人形  伝承曲

オープニング
街の祭りでダウンタウン・ブギウギ・ファイティング・バンドと共演。

ここまでが序段。これからが本番で、走るシーンと練習シーン、演奏シーンの繰り返しが続く。

1. 鬼剣舞  カットあり、伝承曲・・・男は全員剣舞を行う。

2. 櫓のお七 スタジオ 作曲市川竹女 編曲河内敏夫・・・八百屋お七の文楽を人間を人形に見立てて行う。ATGの「心中天網島」みたい。

3. 桜変奏曲 編曲梅沢容子、琴の演奏

(ここで楽団員のガールズ・トークを挟む。結婚か演奏を続けるか悩ましいところだ)

4. 大太鼓  作曲林英哲 スタジオ収録、林英哲らが褌一丁で立って太鼓を叩く。途中で佐渡おけさを女性陣が踊り歌う。

5. モノクローム・II 作曲 石井真木 スタジオ収録
小太鼓の曲。両手バチで叩く。全員が黙々とタイムキープしているのが異様。ラストに大太鼓を床に置き、林英哲らが腹筋を使って叩く。

6. 屋台囃子  伝承曲  作曲鬼太鼓座(田耕)、ロケ
商店街で人を止めて披露。やはり林英哲が座って大太鼓を叩く。

7. 津軽じょんがら節  伝承曲、林英哲の三味線独奏、女優の踊り付き

雑感

完成後大人の事情で一度はオクラ入りになったが、1989年東京国際映画祭での特別上映、1994年ユーロスペースでの加藤泰特集上映に際して公開となった。そして2016年デジタルリマスター版が第17回東京フィルメックスで上映され、2017年1月21日より劇場公開された。

オクラになった理由は、田耕と楽団員の対立である。資金繰りをして朝日放送松竹に協力を申し出たのは田耕だった。しかし演出を任せていたために、出来上がったものは田の考えていたものではなかった。そうして田と楽団員の対立は決定的になり、ついには田が朝日放送と松竹に公開中止を申し入れる。2年間苦労して作り上げた作品の公開がなくなるのに楽団員の怒りが爆発し、田は佐渡島を追放されることになった。その代わり、鬼太鼓座の名前と楽器一式の所有権を主張して、長崎で第二期鬼太鼓座を作ることになる。佐渡に残った楽団員は「鼓童」と名乗り、楽器集めからまた始める。

田耕が亡くなって久しい。「鼓童」も中心メンバーの河内敏郎林英哲は考え方の違いから分かれ、林が太鼓奏者として独立しコンサート活動を行ない始める。鼓童も国際的に活躍するようになった。また他の集団も発生してライバルが増えた。長い時間をかけて鬼太鼓座と鼓童の関係や世の中の状況が変わっていき、生き残ったフィルムを再び上映しようという気持ちになった。それでDVD等で2K画像で今は見られるようになった。

ただ音源が問題。初めはステレオ・マトリックス対応で4チャンネル・マスターだったはず。それが無事なら5.1chサラウンドで楽しめるはずだが、そうはなっていない。あのマスターはどこへ行ったのか?やはり廃棄処分されたのか?

演奏者は林英哲を中心に見ていた。筋骨隆々で精悍な肉体、大太鼓のプロだが、小太鼓はもちろん剣舞も三味線もこなし、オールマイティだった。かつてイラストレータ志望の本人は伝統音楽は嫌いだったそうだが。
この人を失って鬼太鼓座も鼓童も苦しい立場に追い詰められただろう。それでもここまで巻き返すのだから、はじめの走楽論が如何に的確だったかということだ。

林英哲のように座って大太鼓を叩くのは、腹筋をボクサー並みに鍛えてなければできない技で、佐渡島にはない技術だった。福井の師匠に教わったそうだ。

彼らの音楽以外に一柳慧が電子音楽(シンセ)を後から加えているが、これは必要なのか?
美術監督は横尾忠則が担当していて、ずいぶんアヴァンギャルドだ。

スタッフ

監督 加藤泰 (遺作)
プロデューサー 田耕、田中康義
脚本 仲倉重郎
撮影 丸山恵司
録音 西崎英雄
電子音楽 一柳慧
美術デザイン(美術監督) 横尾忠則

キャスト(本人)

河本敏夫
林英哲
大井良明
鈴木春美
山本春枝
高野巧
梅沢容子
藤本吉利
風間正文
近藤克次
小幡キヨ子
鎌田豊数
富田和明
小島千恵子
森みつる

ダウンタウン・ブギウギ・ファイティング・バンド
佐渡島の人々

ざ・鬼太鼓座 1981 (有)デン事務所・朝日放送・松竹製作 松竹配給

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