アンジェラ・アキが2008年に発表した曲「手紙〜拝啓 15歳の君へ〜」が紅白歌合戦歌唱曲や全国学校音楽コンクール課題曲になって話題になったことから、テレビ・ドキュメンタリーになった。これを見た中田永一が2011年に書いたジュニア小説を、新垣結衣主演で映画化した作品。

監督は、三木孝浩
主演は新垣結衣。共演は、木村文乃、桐谷健太、恒松祐里、渡辺大知。

あらすじ

美人コンサート・ピアニストだった柏木ユリは、恋人を失ったショックでピアノを弾けなくなった。
生きる屍になったユリに、長崎県五島列島で共に育ったハルコが出産するため、自分の代わりに母校で働くように依頼する。
親友のハルコにだけ逆らえないユリは、ピアノが弾けないことを言わずに代理教員を引き受ける。

中学三年生のナズナは、合唱部部長である。今年の課題曲「手紙〜十五歳の君へ〜」は彼女の大好きな歌なので、何としても県大会の壁を突破したいと思っている。
ユリが、一学期始業式最初の朝礼で新任のあいさつに立ったが、どこか不貞腐れていた。朝来てみたら、合唱部の顧問を任されていたからだ。
ユリのそういう冷たい態度がクール・ビューティに見えてしまう男子学生たちが、合唱部に入部する。それまで男子は入ったことがなかったため、女子部員は戸惑う。
さらにナズナは、動画配信でユリがコンサート・ピアニストであったことを知る。
しかし、ユリは生徒の前でピアノを弾こうとしなかった。

男子新入部員の中には、中三だが体の小さなサトルもいた。彼は、ボーイソプラノの持ち主だったため、ユリは男子の中でも別格視していた。
しかし彼は、部活が終わると急いで帰宅する。サトルは、自閉症の兄アキオを迎えに行く仕事を父親から課されていた。
しかしサトルが出迎えに行くのが遅くなり、兄はユリにより保護される。父親はサトルを叱りつけるが、母親が週3回の出迎えをしてくれることになり、サトルは部活に残留することができた。

合唱部は、慣れないユリの補助として陸上部顧問の塚本教諭も筋トレ担当として加わり、男女部員の練習を開始した。
一方ユリは、課題曲「手紙 〜拝啓 十五の君へ〜」によせて、15年後の自分に手紙を書く、という課題を出した。歌詞の意味を各自で考えさせようとしたハルコの入れ知恵だった。

次第に練習が進み、合唱部の結束が固まり始めた。
朝礼で、校歌斉唱のピアノ担当の生徒が休んだので、ユリは伴奏を頼まれたが、結局弾かなかった。
部活に行ったナズナは、なぜピアノを弾いてくれないのか、とユリに詰め寄った。ユリは踵を返し、音楽室を出て行った。
ナズナは、ハルコにその話をしに行った。その時、ハルコはユリがトラウマで弾けなくなったことにやっと気づく。
ハルコは、一年前にユリの恋人が亡くなったことを伝える。

ユリは、サトルに課題の原稿用紙を返した。そこにあったのは、彼の出生の理由だった。両親が死んだ後に自閉症の兄が一人にならないようにと願って、サトルを作ったのだ。
サトルは、兄がいなければ自分は生まれていなかったと感謝すると同時に、兄を疎ましいとも思うこともあると書かれてあった。

ナズナの別れた父親が、何年振りかで帰宅した。父親が女を作って別れたおかげで、母は苦労させられ、早死にしたのだ。それでも、ナズナは父と縁側で一緒にスイカを食べた。
ところが、翌朝目覚めると、父は祖母も財布を盗んで消えてしまう。

登校したナズナは、音楽室のユリを訪ねて、ピアノを弾いてほしいと懇願する。ユリが拒否したら、ナズナは母親の思い出を語って聞かせた。
母は、教会のオルガンで汽笛がドの音だと教えてくれて、この音を聞いたら前進あるのみだといつも言っていた。
さらに自分を妊娠しなかったら、母はヤクザな父と結婚することもなかったと嘆き、屋上に駆け出して行った。

重い言葉に突き動かされて、ユリは15年前に卒業文集に残した言葉を思い出す。
「ピアノの音で誰かを幸せにしていますか?」
一年振りにピアノを弾く彼女が、ナズナに向けて奏で始めたのは、ショパンの「別れの曲」だった。
その美しいメロディにナズナは、涙が噴き出てくる。

ユリは部員の前でピアノを弾くようになり、生徒たちも熱心に練習して、いよいよ県大会当日になる。
長崎市にフェリーで向かい、ハルコも翌日の本番には応援に来る。サトルの家族も会場に応援に来た。ただし、兄アキオは騒ぐため父親とホールの外から聞くことにした。
ところが、体質的に心臓の弱いハルコが急に産気づいて命がけの緊急出産になった・・・。

雑感

後半は、感動的ないい話だった。
ただし、原作が青春文学というより、シリアスなラノベだったから、前半は取ってつけた台詞回しとか設定の無理な省略(ユリの両親はどこにいる?)とか、がっかりするようなところが多かった。特に柏木ユリのエピソードは、原作にない。

それでも時期的にみて、ラノベ「響け!ユーフォニアム」を武田綾乃が書くうえで、当然に意識された作品である。幸い、武田綾乃は「くちびるに歌を」原作者中田永一より、文筆は立つようだ。
テレビアニメ・劇場版「響け!ユーフォニアム」は、さらにその美味しいところを抽出した形になる。

この度、星野源と結婚した新垣結衣は、6年前の作品で無難に演じていた。ピアノも数ヶ月猛特訓を受けて、様になるように仕込まれたそうだ。
でもクール・ビューティは彼女のタイプではない。それに低予算映画では、時間をかけることができず、彼女としては不満が残っただろう。
やはり新垣結衣は、テレビ向きだと思う。NHK朝ドラだって、出たいと言えば、すぐ出られたのに出なかった。それが2022年の大河ドラマに初登場ということで、心境の変化を感じた。それが結婚のせいだったわけだ。
デビュー当時から輝いて見えて、すぐこの子は朝ドラに主演するよと言ったが、ものの見事に外れてしまった。

スタッフ

監督  三木孝浩
脚本  持地佑季子、登米裕一
原作  中田永一
製作  長澤修一、水口昌彦、都築伸一郎、中村理一郎他
製作総指揮  豊島雅郎
音楽  松谷卓
主題歌 アンジェラ・アキ「手紙 〜拝啓 十五の君へ〜」
撮影  中山光一

キャスト

柏木ユリ – 新垣結衣
松山ハルコ – 木村文乃
塚本哲男 – 桐谷健太
仲村ナズナ – 恒松祐里
桑原サトル – 下田翔大
関谷チナツ – 葵わかな
仲村祐樹(ナズナの父) – 眞島秀和
仲村キヨ(祖母) – 角替和枝
仲村利男(祖父) – 井川比佐志
桑原アキオ(サトルの兄) – 渡辺大知
桑原照子(母) – 木村多江
桑原幸一(父) – 小木茂光

***

病院へ駆け出そうとしたナズナを、ユリは引き留める。我々にできることは、歌うことだけなのだ。
部員が、携帯を通してハルコに歌声を届けようと提案した。
そこで付き添いの塚本先生が、ユリの携帯電話を持って客席から病院の分娩室に中継することになった。

そうして「手紙」は、心を一つにした美しい歌になった。その歌声はハルコの耳に届けられ、彼女は安心して無事出産を終えた。
結局、県大会に優勝できなかったが、部員たちはその出来に満足した。
そのロビーで、ナズナはアキオに出会う。彼は、
「ナズナ…泣かんとよ…前進、前進…」
と呟いていた。彼が遊んでいた教会で、幼い日のナズナと母との会話を聞いていたのだ。
その時の記憶がナズナの耳に蘇ってきました。
「あんたが、おってくれて良かった」

ユリが皆を促しました。そこでナズナたちのレパートリーを、観客席に入れなかったアキオに、聞かせてあげる。次第に周囲の学生たちも唱和していき、大きなうねりのように広がっていく。

翌年ユリは、ハルコや塚本たちに別れを告げ、東京へ戻っていった。その後に、「十五歳の君へ」と題された詩が残されていた。

 

 

 

くちびるに歌を 2015 アスミック・エース製作・配給 (新垣結衣結婚記念)

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