石原慎太郎原作を、先日100歳の天寿を全うされた新藤兼人が脚本化した作品。
今でこそまるで右翼と左翼で立場を異にするが、昭和31年時点では、二人とも反安保、民族自決主義で呉越同舟していた。
1951年イランが石油の国有化を宣言したことに対抗して英国海軍がホルムズ海峡を封鎖する中、1953年出光興産の日章丸がイラン(映画の中ではアラクと呼ばれている)から石油を運び出した事件を軸に、太平洋戦争で傷ついた人々が懸命に立ち直ろうとする姿を描く。
戦後、伊崎は沢田社長の息子恭の戦友で自決の介錯した間柄だったため、沢田の経営する極東興産に入社した。
しかし、生きる目標を失っていた彼は支社に左遷されそこでも心中事件を起こす。
沢田社長は石油メジャーと対立し銀行にも見放された本社へ伊崎を呼び戻す。
伊崎は沢田の娘早枝子と出会い、自らの手で死なせた恭の面影を彼女の横顔に見る。
やがて早枝子と愛し合うようになった伊崎は、民族主義の高まりを受け石油国営化を宣言してメジャーに海上封鎖を受けているアラクに興味を持ち、現地へ石油買い付け交渉に飛ぶ。
早枝子役の司葉子が美しい。
耐える女、まもる女のイメージが強い彼女だが、この映画ではそのイメージをひっくり返している。
美人は飽きやすいものだが、彼女も生きる情熱を取り戻してデートに遅刻する伊崎をつまらないと言い放つ。
そのシーンが何故か心に残った。
司葉子にそう言わせた脚本家はいなかったのではないか。
友人(水野久美)を死に追いやった伊崎を恨みに思っていた高峰役の白川由美も仕事に打ち込む伊崎を見て、別の気持ちがわいてくる。
彼女と伊崎が二人で夜の道を歩いているとき、右隣を歩いていた白川がある拍子に左隣を歩くようになる。
近づきかけていた二人の距離が結局交わらないと思い知らされる瞬間だ。
三橋達也は二人の女に翻弄されながら、日本とイランの独立に命を賭ける伊崎を好演。
「廓より」無法一代、洲崎パラダイス赤信号に続く代表作だと思う。
森雅之が出光佐三という日本の大経営者を演じるため、いつもより色黒にメイクして正義漢あふれる精悍なイメージを出していたのも新鮮で良かった。
黒澤明監督「悪い奴ほどよく眠る」(高齢の公団副総裁役)の撮影が先行していただろうから、意識して真逆な路線にとったようだ。
しかし総じて見ると、脚本と演出は成功したと言いがたい。
実話の映画化にもかかわらず上映時間が短く、はしょりすぎている。
したがって編集で相当な量がカットされているはず。
完全版があるのであれば、復活させてもらいたい。
山崎豊子「不毛地帯」(伊藤忠商事に関する実話をベースにしている)をはるかに上回る経済映画になる資格があっただけに惜しまれる。
監督 須川栄三 (「きみも出世ができる」)
脚色 新藤兼人
原作 石原慎太郎
製作 藤本真澄
撮影 小泉福造
美術 阿久根巖
音楽 佐藤勝
出演
三橋達也 (伊崎)
司葉子 (沢田早枝子)
白川由美 (高峰啓子)
森雅之 (沢田社長)
藤田進 (船長)
久保明 (内海)
志村喬
田島義文
最近、再び出光興産初代社長出光佐三(さぞう)が注目されている。
百田尚樹が伝記「海賊と呼ばれた男」を出版して、好評だ。