(◎★)母親との生活に疲れ、お遍路さんの旅に出掛けた十六歳の少女の冒険をオール・ロケで描いたロード・ムービー。
当時、覆面作家であった素九鬼子の同名小説を原作にして、監督、脚本、撮影は名作映画「約束」のコンビである斎藤耕一、石森史郎、坂本典隆が務めた。
主演は高橋洋子(19歳のデビュー作)。
共演は三國連太郎、横山リエ、高橋悦史、岸田今日子。
自殺する少女を演じた秋吉久美子のデビュー作でもある。
カラー映画。
ストーリー
「ママ、びっくりしないで。わたしは旅に出たの。ただの家出じやないの、旅に出たのよ」。新居浜に住む十六歳の少女は、母子家庭や学生生活が嫌になって、お遍路さんの真似をして四国一周の旅に出た。
宇和島の映画館で痴漢に出会い、ご飯を奢らせる。強かな少女は足摺岬で旅芸人の松田国太郎に出会い、一座に無理やり加えてもらう。少女は、女優の政子と仲良くなり、二人でパンツ一枚になり海で泳いで遊ぶ。しかし、色男役の竜次が少女に無理やりキスを強要する。父のように慕っていた松田国太郎は、何も言わず席を外す。少女は、一座から出ていくことにして、政子に別れを告げる。政子は少女を抱きしめ、自分の乳房で少女を抱きしめ、少女の服を脱がした。彼女は、バイセクシュアルだったのだ。
少女は旅を続けたが、無理が祟って道端に倒れる。そこを魚の行商人である木村に救われる。木村の家に泊まり身体を癒やすと、彼女は、次第に木村に対して男性として意識し始める。
木村が姿を消す。何故か分からない彼女は、近所の同年代である加代に慰められる。二人は小説が好きだったので、気が合った。木村が釈放された夜、少女はついに彼に迫るが、木村は何もしてくれなかった。恥をかいた彼女は、家を飛びだして泣きながら走り出す・・・。
雑感
この作品は典型的ロード・ムービーであり、16歳の主人公(女子高生)は甘いことも辛いことも経験して成長していく。高校を中退した原作者・素九鬼子の実体験に基づいているらしい。
上映当時は、新人女優が脱いだことばかりセンセーショナルに取り上げられた。今映画を見ると、愛媛県新居浜市出身の主人公(女子高生)がおしゃれではないが、決して田舎くさくなかったことに少し違和感を感じる。斎藤耕一監督は、田舎を舞台にした映画ばかり撮るが、フランス映画かぶれした、都会的な感覚の作品が多い。もし、素人臭さを大切にしたいのならば、地元の女性や地元民を使うべきだったが、そのためにはまず監督から変えるべきだった。
高橋洋子は当時、東京都立三田高校を卒業したばかりで、文学座養成所に所属していた。彼女が、TBSラジオの吉田拓郎「パック・イン・ミュージック」を聞いていると、音楽を担当することが決まったこの映画「旅の重さ」の主役オーディションについて語った。そこで応募して、彼女が選ばれた。映画出演後、1973年4月からのNHK朝ドラ「北の家族」に主演する。このドラマは、よく見ていたから当時は彼女のことを身近に感じていた。その後、頭の良い彼女のインテリ臭が鼻につくようになるが、天知茂の明智小五郎シリーズ第二弾「浴室の美女」(魔術師)に出演して、なぜこのドラマに夏樹陽子と一緒に出るの?と思った。夏樹陽子は東映期待の星であり、二人が並んだら食われるのはわかっていたからだ。1981年に小説「雨が好き」を彼女が書き中央公論新人賞を取ると、小説家に専業するようになったが、最近再び銀幕に戻ってきた。彼女もずいぶん丸くなったようだ。
この映画のオーディション二位は、福島県いわき市の県立女子高校3年生だった秋吉久美子だった。彼女もこの映画に脇役だが、出演した。彼女は翌年早稲田大学入学試験に落第して、本格的に芸能界を目指す。
オーディションでは、初めに秋吉がトップを走っていたが、高橋が遅れて登場した途端、主人公のイメージと完全に重なり逆転したと言う。確かにシラケ世代の秋吉久美子が主演したら、全く違う映画になっただろう。
スタッフ
製作 上村務
原作 素 九鬼子
脚本 石森史郎
監督 斎藤耕一
撮影 坂本典隆
音楽 よしだたくろう
主題歌 よしだたくろう「今日までそして明日から」
キャスト
少女:高橋洋子
ママ:岸田今日子
松田国太郎:三國連太郎
竜次:砂塚秀夫
政子:横山リエ
光子:中川加奈
木村大三:高橋悦史
加代:秋吉久美子
運転手:山本紀彦
漁師の若い母親:富山真沙子
漁師の老婆:田中筆子
中年の女遍路:新村礼子
痴漢:森塚敏
女中:谷よしの
乞食遍路:三谷昇
ママの愛人:大塚国夫
***
そのとき彼女は、海に飛び込んだ自殺死体を見てしまう。加代だった。彼女には、同じような境遇の加代が自殺した理由がわかるような気がした。彼女も旅に出なければ自殺していただろう。加代の葬儀が執り行われた日、少女は木村に泣き付き、抱かれた。
それ以来、少女と木村の同棲生活が始まる。母にはわずか千円だが仕送りをした。木村との生活は、いつか破綻して、終わりを告げるだろうが、それだとしても彼女は満足だった。