1977年、空前の横溝正史ブームのまっただ中、出遅れるなと松竹が「砂の器」監督、脚本コンビで製作したのが映画「八つ墓村」。
原作はおどろおどろしい戦国時代の尼子の落ち武者伝説と「津山三十人殺し」という歴史に残る大量殺人事件を基にして、現代(1977年)に再び連続殺人事件が発生する。
原作の金田一耕助シリーズの中では、冒険小説の色が濃く、珍しく金田一が脇にまわって解説役になる作品。
主演は萩原健一、小川真由美、山本陽子。この三角関係をベースに見るとわかりやすい。
助演は渥美清、山崎努など。とくに市原悦子は怪演。
監督はミステリを撮らせたらこの人の右に出る人がない野村芳太郎。脚本も松本清張から信任の厚い橋本忍。そして荘厳な音楽は芥川也寸志が担当する。
Synopsis:
寺田辰弥は新聞の尋ね人欄に呼び出されて諏訪法律事務所を訪ね、母方の祖父井上丑松と会う。母鶴子は辰弥が小学生の時、辰弥の故郷も父親も明かさず亡くなった。ところが、そこで丑松は何者かに薬に毒を仕込まれて殺害される。
その後辰弥は森美也子という女性の案内で、生まれ故郷である岡山の田舎町八つ墓村に車で向かった。美也子は関西で事業を経営しているやり手未亡人だが、辰也の父の実家から依頼されて、やって来たらしい。
見晴らしの良い場所で車から降りて美也子が八つ墓村の由来を語る。戦国時代、毛利家に追われた尼子義孝と一行はこの村の近くに居着いたが、毛利から落ち武者狩りの命令が下り、義孝ら一行を祭りに招いた上でだまし討ちにした。そこで所領が辰也の先祖庄左衛門に下される。その後、庄左衛門は気が狂い自ら首をはねて死んでしまい、村民は祟りを恐れて八人の落ち武者の墓を村内に建てた。
祖父丑松の葬儀が済んで、辰弥は兄久弥、姉春代、双子の伯母小竹、小梅に引き会わされた。しかし久弥は小竹の手から薬を飲んだ途端、血を吐いて亡くなった。身内のひとり久野医師は興奮したための病死だという。
翌日、早速葬儀が行われるが、岡山県警の磯川警部と名探偵金田一耕助が現れ、司法解剖すると言って死体を引き渡させる。結果は丑松同様に硝酸ストリキニーネによる毒殺だった。
午後、辰弥は屋敷に地下鍾乳洞に至る秘密の入り口を発見する。その洞窟には兄にそっくりな父多治見要蔵のミイラが座っていた。
それを姉春代に伝えると、春代は意を決して過去の恐るべき事件を語る。
多治見家の当主要蔵は鶴子を強姦して妾として監禁してしまった。鶴子は辰也を産むが、気に入らない要蔵は辰也に焼きごてを当てて折檻する。あまりのことに鶴子は辰弥を連れて逃げた。その直後、要蔵は発狂し、村民三十二人を一夜で猟銃と日本刀で惨殺した。要蔵はそれきり消えてしまったが、鍾乳洞で命を果てたのか。
しかし金田一耕助は調査の結果、辰弥は要蔵の子ではないと言う。ところが工藤校長が、宴席で毒殺された。辰弥の実父の秘密を知る唯一の人物だったのだ。さらに「祟りじゃー」といつも叫んでいた濃茶(こいちゃ)の尼がやはり毒殺される。
その夜、伯母のひとり小梅が鍾乳洞の沼から手だけを出しているところを辰也は発見する。金田一は考察のようだと言う。さらに久野医師も毒殺される。久野医師は硝酸ストリキニーネを入手可能な人物として重要参考人に挙がっていた。
村民が辰也を出せと騒ぎ出したので、金田一は辰弥に鍾乳洞にしばらく隠れているように指示する。
暗黒の世界にひとり取り残された辰也の元に美也子が食糧を持ってきてくれる。美也子は極限状態にあった辰也と自然と結ばれる。
美也子が去った後、鍾乳洞の入口で春代は襲撃され瀕死の重傷を負った。そして「犯人は指を怪我している、辰也は血の繋がった弟でない」と言い残すと、息絶える。
再び美也子がやって来る。その時、美也子が指先をケガしてるのに、辰也は気付く。
Impression:
誰が犯人か、推理を楽しむ映画ではない。戦国時代の落ち武者狩りシーンや大量殺人事件、派手な毒殺シーンや、鍾乳洞での鬼女との追いかけっこを楽しむ映画だ。しかし現代に舞台を移しているため、時代考証の甘い部分があったことは否めない。市川崑版「八つ墓村」は昭和24年の岡山が舞台である。
¶
1970年は国鉄が山陽新幹線開通と合わせて、西日本の地方線にも個人旅行客や女性客を集めようとして「ディスカバー・ジャパン」というキャンペーンを始めた。
それに便乗した角川春樹(当時角川書店社長)が1976年から横溝正史原作の一連の推理小説を東宝、東映で映画化した。
松竹だけは角川春樹が製作から外れ、野村芳太郎監督が製作に名を連ねている。
横溝正史は現兵庫高校、現大阪大学薬学部を卒業して英語の読み書きは堪能な人であったが、戦後になって外国かぶれする時代に一人反発して古い日本の因習の中で起きる殺人事件を描いた。
この「八つ墓村」という作品は一連の金田一耕助・岡山シリーズの中でも異彩を放つ。
- 鍾乳洞殺人事件という発想は、戦前に横溝正史が翻訳した海外小説を元にしている
- 金田一耕助の出番が少なく、主人公は別にいる冒険小説である
ただ原作と比べると映画は、若い里村典子という事実上のヒロインの存在自体をカットしてしまった。それゆえ、結婚経験のあるお姉様二人に囲まれた独身の主人公という構図になってしまった。ある程度、年齢層を高めに設定していたのだろう。その点だけは1996年の市川崑版東宝映画「八つ墓村」の方が優れている。演出がヘボだからと言って見捨てるわけにはいかない。
Staff/Cast:
監督 野村芳太郎
製作 野村芳太郎 、 杉崎重美 、 織田明
原作 横溝正史
脚本 橋本忍
撮影 川又昂
音楽 芥川也寸志
出演
萩原健一 寺田辰弥
小川真由美 森美也子
山崎努 多治見要蔵、 久弥二役
山本陽子 多治見春代
市原悦子 多治見小竹
山口仁奈子 多治見小梅
中野良子 井川鶴子
加藤嘉 井川丑松
井川比佐志 井川勘治
花澤徳衛 磯川警部
綿引洪 矢島刑事
下絛アトム 新井巡査
夏八木勲 尼子義孝
田中邦衛 落武者A
稲葉義男 落武者B
橋本功 庄左衛門
大滝秀治 諏訪弁護士
藤岡琢也 久野医師
下絛正巳 工藤校長
任田順好 濃茶の尼
渥美清 金田一耕肋
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