大映の「黒」シリーズ第一弾。
梶山季之の原作を増村保造が映画化。
のちの「黒」シリーズは川崎敬三や宇津井健が主演したこともあったが、やはり「黒」のシリーズといえば、田宮二郎かな。
しかしこの作品では真の主演は高松英郎だと思う。
高松が付け狙い最後に倒す強敵が、関東軍上がりの菅井一郎だ。
田宮二郎は二人の死闘の傍観者に過ぎないと思う。

タイガー自動車は、路上で試走を行うが、車は横転し炎上する。
しかもタイガー自動車の企画部長高松英郎はライバル・大和自動車にその情報をスパイされていることを知る。
逆に高松は大和自動車の新車情報をスパイしようと企てる。
しかし大和自動車にはベテラン企画本部長菅井一郎がおり、一筋縄で情報を取れない。
仕事の鬼であった、企画部員田宮二郎は恋人叶順子を菅井に抱かせて、彼が入浴している最中に新車の価格情報を盗み出させる。
しかし田宮は自分のやってることに次第に疑問を抱きはじめた。
タイガーの新車はついに発売され、好調な売れ行きだ。
そこへ業界紙の上田吉次郎がとんでもない情報を持って飛び込んできた…

他に出演は船越英二
 
関東軍特務機関上がりのベテラン菅井一郎に、おそらく終戦時下士官ぐらいの高松英郎がスパイ合戦を挑み、最終的に決定的勝利を収める。
高松英郎が業界でもナンバー1のスパイになったわけだ。
多分出征しなかった田宮二郎はそんな汚い産業スパイの世界が嫌になったのだろう。

 

昔の会社は軍隊並みのバイタリティを持っていた。
モーレツ社員、会社人間、今から考えるとすべてが遠い昔話だ。
でもこういう時代はあったのだ。
元軍人が企業戦士として戦っていた時代。
これが高度成長時代なのだ。
昔のモーレツ社員が企画部員の名で産業スパイをしていたことは想像に難くない。

 

そんな時代も団塊の世代が幅を利かせ始めて、いつの間にか終焉を迎える。
この映画のような形で会社に帰属している連中なんて絶滅して久しい。
大きな産業スパイ事件も有名コンピュータ会社がIBM相手にやって以来、聞かなくなった。

 

一方70年代以降、公害トラブルのもみ消しなど、企業とアングラ業界との癒着がすすみ、企業舎弟がはびこっている。
他社の情報が欲しい場合、社員を動かすより、企業舎弟にスパイのアウトソーシングした方が効率が良いのではないか。
今では総務関係部員がそういう企業舎弟の窓口になっている。
こんなことをやるためにこの会社に入ったわけではないぞ!と言いながら、毎日嫌な仕事を押しつけられているのだろう。

 

叶順子はいつもながら暗い女をやらせたら、大映じゃ右に出るものはいない。
魅力的だ。
顔じゃなくて、全身から醸し出す雰囲気が魅力的。
松竹の炎加世子と比べて良いかわからないが、炎加世子は何かしでかすかわからない魅力だ。
しかし叶順子はアンニュイなんだな。
言われない限り自分から動こうとしない。それも魅力。