売春防止法改正直前の赤線地帯(原作では洲崎、映画では吉原)の様子を描いた作品。
法律ができた後に生まれた人間としては、神近市子や市川房枝が尽力したと言う話しか伝わってこない。
そういう意味でこの映画は貴重な資料である。
ミッキーが神戸から流れて吉原の特殊飲食店「夢の里」に流れ着いたところから始まる。
店の経営者は田谷夫婦で、娼婦の最年長はゆめ子、子持ちで通いのハナエ、若いのにしっかり者のやすみ、やり手婆のおたねなどが働いていた。
すでに世の中は売春反対運動真っ盛りで、田谷は国会対策に頭を悩ませている。
しかも、より江という娼婦は借金を踏み倒し足抜けして結婚してしまう。
さらにミッキーの父が娘を連れ戻すため上京するが、逆に娘に言いくるめられて追い返されてしまう。
ハナエの亭主が病気と生活苦で自殺を図るが、何とか助かる。
より江は亭主と別れ、また夢の里で働き始める。
そんなドタバタした日々の中で、やすみだけは男から巻き上げた金を元手に娼婦たちに高利で貸して、蓄えをさらに増やしていた。
しかし、逆上した男がやすみに暴力をふるい、警察沙汰になってしまう。
国会では今回も売春防止法案は否決された。
やすみはお店を辞め、蓄えで夜逃げした布団屋の権利を買って商売を始めている。
やすみの代わりに新人しず子が客を取ることになった。
彼女が生まれて初めて、お客に声を掛けるところでこの映画は幕を閉じる。
溝口健二は戦後になって現代劇をあまり撮らなかったが、この映画はリアルタイムのネタに挑戦した作品である。
この映画の公開後に溝口健二監督は亡くなったため、この作品が遺作になる。
1952年、53年、54年と三年連続でヴェネチア国際映画祭で国際賞や銀獅子賞を獲ったばかりだったから、彼を失って日本映画界の悲しみは大きかっただろう。
彼の死後二年たって、売春防止法は施行された。
しかし、女性の悲劇はそれ以後もなくならなかった。
そのことまでこの映画は、しっかり予見している。
見所は女優同士の火花散る競演ぶりだ。
溝口監督でなければ、三益愛子、木暮実千代、京マチ子、若尾文子という四世代を代表する大女優を一つ炬燵に座らせることなど不可能だった。
驚いたのは、若尾文子が娼婦役を演じていることだ。
確かに性典映画出身だったから、若い汚れ役は当時の彼女向きだったのだが、今の若尾文子の大物ぶりからは思いもつかない。
やすみ役で溝口に演技をつけてもらったおかげで、彼女は成長したような気がしてならない。
監督 溝口健二
脚本 成澤昌茂
企画 市川久夫
製作 永田雅一
撮影 宮川一夫
美術 水谷浩
音楽 黛敏郎
出演
若尾文子 (やすみ)
三益愛子 (ゆめ子)
町田博子 (より江)
京マチ子 (ミッキー)
木暮実千代 (ハナエ)
川上康子 (しづ子)
進藤英太郎 (店主田谷)
沢村貞子 (店主の妻)
浦辺粂子 (やり手婆)

赤線地帯 1956 大映

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