花実と書いて「かじつ」と読む。報われない恋の森深くに入ってしまった男の話。2017年には東山紀之と中山美穂の共演で2時間ドラマ化された。
映画の方は1965年の1月公開で、前年開通した東海道新幹線のシーンがある。大阪から西は機関車だった。
主演はこの年で32になる女盛り若尾文子。
変態ストーカーなのに探偵役を演ずるは松竹から客演の園井啓介。彼は昔から探偵とか新聞記者役が似合うから好きだった。NHK「事件記者」で有名になり、松竹映画「あの橋の畔で」4部作で菊田一夫メロドラマの主役を務めあげる。佐田啓二没後の後継者と目されるも、テレビ司会者に転向し株投資に手を出して失敗するならまだしも、成功したばかりに脱税で起訴されて引退。本当に勿体無い。
それから船越英二、田村高廣がやはり犯罪に重要な役割を持つ変態ストーカー役で出てくる。どちらも顔芸が凄いが、とくに田村のサイコぶりが嬉しいw。田村正和も一時期サイコな方へ行きかけたが、兄の演技力には敵わない。やはりニヒルこそが正和さんの生きる道だ。
主要な男性俳優全員が若尾文子の美貌に狂わされて頭がおかしくなっている役という、大映東京にありがちな設定である。
あらすじ
山道を運転していた梅木は、車がエンコしたと女二人に呼び止められ、ホテルまで送り届けた。翌日、二人の内の一人から手帳を社内に置き忘れたと連絡があった。早速届けた梅木は、彼女の熟れた魅力に当てられてしまった。翌日、彼女に引き寄せられるように再びホテルを訪ねた梅木は、浜田と名乗る男に会った。浜田も彼女を探していた。
数日後梅木は雑誌の写真で彼女を見つけ、隣に写っていた楠尾元伯爵を訪れたが、楠尾は何も知らないと言った。
数日後梅木は雑誌の写真で彼女を見つけ、隣に写っていた楠尾元伯爵を訪れたが、楠尾は何も知らないと言った。
梅木は彼女と同乗していたデザイナーの山辺女史に会い、女も名前を聞き出した。彼女は江藤みゆきと言い、楠尾の妹だった。やがてみゆきを発見し、二人でホテルに入った。彼女は田舎で半身不随の男と結婚生活を送っているが、たまに上京して性の鬱憤を晴らしていると語った。たしかに若い燕と別荘に暮らしていたり、庶民的な姿で村岡というやくざな男に甲斐甲斐しく世話を焼く姿を見る。
梅木は、恋人節子をお手伝いとして楠尾邸に住みこませた情報を収集した。ある日、村岡というやくざが殺された。梅木は楠尾を疑ったが数日後、楠尾が殺される。みゆきにはアリバイがあった。
葬儀を終え、みゆきは山口の夫の元に帰る。忘れられない梅木は後を追った。嫁ぎ先の造り酒屋を訪れた梅木は、主人の顔を見て愕然とする・・・。
社会派推理作家が原作だが、この作品にまったく社会性はない。それどころか探偵小説の部類に入る。
原作と映画は、犯人を変えている。とはいえ脚本は大作家舟橋聖一の弟舟橋和郎である。松本清張の脚本チェックを通っているから、筋も通っている。作者にアナザーバージョンとして認められたのだろう。
犯人は簡単に分かる。引き算すれば自然と導かれる。オープニング・クレジット順を考えても分かる。肝心なところで助平心が邪魔をして本質が見えない探偵だけが分かってない。ラストでまんまと犯人の罠にハマる。そこからは追う身が追われて、少しだけスリルとサスペンスを楽しませてもらえる。
撮影の意味だけはよく分からなかった。撮監の小原譲治さんは松竹大船サイレント時代からのキャメラマンだ。この人はもう亡くなったが、作曲家小原礼の父君であり、だから生きていれば尾崎亜美の舅になっていた。撮影の方はもう晩年に当たっていたからかも知れぬが、ちょっと合わなかった。
スタッフ
監督 富本壮吉
原作 松本清張
脚色 舟橋和郎
撮影 小原譲治
音楽 池野成
原作 松本清張
脚色 舟橋和郎
撮影 小原譲治
音楽 池野成
出演者
若尾文子 江藤みゆき
船越英二 浜田
園井啓介 梅木
田村高廣 楠尾
江波杏子 節子 (若い!)
角梨枝子 山辺
若尾文子 江藤みゆき
船越英二 浜田
園井啓介 梅木
田村高廣 楠尾
江波杏子 節子 (若い!)
角梨枝子 山辺
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花実のない森 1965 大映東京 松本清張原作のメロドラマ・ミステリー