終身刑を宣告された囚人が、一生独房に入れられたが、小鳥の研究を始め、ついには鳥類学の権威となったロバート・ストラウドの実話の映画化である。
トーマス・E・ガッディスのドキュメンタリー作品を、ガイ・トロスパーが脚本化しジョン・フランケンハイマー が監督した伝記映画。 白黒映画。
主演はバート・ランカスター、共演はカール・マルデン、セルマ・リッター、ベティ・フィールド。
バート・ランカスターがヴェネツィア国際映画祭男優賞と英国アカデミー賞主演男優賞を受賞した。
あらすじ
1909年、学のないロバート・ストラウドは、ぽん引きだったが、商品である娼婦に乱暴した男を殺した罪で、刑務所に入れられていた。そこでも母を馬鹿にした囚人を負傷させ、レヴンワース刑務所へ移された。
刑務所長は、出世を望むシューメイカーという男である。規則にうるさい男だ。言い換えれば、融通の効かない奴だ。
ストラウドの母エリザベスがアラスカから息子に会いに来たが、クレイマーは面会日でないからと追い返す。食事時にクレイマーから逆上させられたストラウドは、フォークでクレイマーの心臓を刺す。弁護士は、正当防衛を主張するが、最高裁で絞首刑の宣告が下りた。しかし母エリザベスがウィルスン大統領夫人に嘆願したのが、功を奏し終身刑になる。
ストラウドは危険人物なので、独房に入れられた。ある日、彼は中庭で雨中の運動をしていた。そこで嵐に打たれズブ濡れになった雀を見つけ、ランディと名付けて育てることにした。シューメイカーは転任していて、優しい看守コムストックは、ストラウドが独房中でカナリヤを飼う許可を与えた。そこから彼の鳥類学への興味が強くなった。何年か経ち、彼は鳥類学の権威となり、カナリヤの命取りともなる腐敗熱の治療法を発見し、その論文を発表した。
ある日、ステラ・ジョンスンという未亡人が彼を訪ねてきた。彼女は、例の論文の通りにしたら小鳥が助かったので、お礼を言いに来た。二人は意気投合し、彼はステラと鳥の薬製造販売に関する共同事業を行うことにした。
連邦刑務所の管理方針が変わり、鳥の飼育が禁止されそうになった。移送されそうになったストラウドは、ステラにプロポーズして獄中結婚し、世論を味方につけて仮釈放を勝ち取ろうとした。しかしそれまでストラウドを支援してくれた母がステラと対立してしまい、息子と縁を切る事態になってしまう・・・。
雑感
ストラウドの最初の犯行は、相手が気を失ったところを殺したそうだ。確実に一級殺人(故殺)だ。また二つ目の犯行は、看守が最初に殴りかかったとしても、フォークで刺し殺すのは過剰防衛に見える。最高裁に合わせ技で死刑を求刑されても文句を言えない。
ストラウドは、被害者の家族には申し訳ないと言っているが、被害者に謝罪の言葉がないのは、非常に心証が悪い。例えば、のちにストラウドが刑務所内で商売を始めるのだから、その一部を被害者への慰謝料として支払えばいいのではないか。
しかし、ろくに小学校も出ていないストラウドが、独房内で数年勉強しただけで一流の鳥類学者になる。いかに彼が生来の天才だったかよくわかる。倫理観が欠けたのは、父親がアル中であり母親が甘やかしたからだろう。
このストラウドの母エリザベスが、出演者の中で一番の曲者だ。ウィルソン大統領夫人への献身的な嘆願運動で死刑の御社を受けたのも結局、息子を自分のために縛り付けたいだけだったと思う。そもそも息子に最初から正しい教育を与えていれば、息子は殺人犯にならないだろう。セルマ・リッターが、ホモセクシャルに特有のおかしな母をうまく演じている。
映画が公開された1962年にアルカトラズ刑務所で、映画「アルカトラズからの脱出」の元になった脱走事件が起き、翌1963年にアルカトラズ刑務所は廃止される。
ストラウドは、映画公開の後、1963年11月21日に病死した。ケネディ大統領が暗殺される前日のことである。
実は、ストラウドはホモセクシュアルであった。そこが気持ち悪がられて、刑務官に嫌われてパワハラを受けたのが真相だ。彼が風紀を乱さないために、独房に入れられたのだ。
これを人権問題として扱って良いかどうかは、時代により見方が変わってくるだろう。
だから、映画の中みたいな妻との別れがあったとは思えない。あくまで、仮面夫婦を条件にビジネスの利益を半分ずつ分ける契約結婚だったのだから。
ジョン・フランケンハイマー監督らしい硬派の映画だ。バート・ランカスターとテリー・サバラスは、前作「明日なき十代」に次いでのフランケンハイマー映画への登場。次回作は、フランク・シナトラの「影なき狙撃者」である。やはり、母子の異常な愛情が描かれる。
スタッフ
製作 スチュアート・ミラー
製作、脚本 ガイ・トロスパー
監督 ジョン・フランケンハイマー
原作 トーマス・E・ガディス
撮影 バーネット・ガフィ
キャスト
ログバート・ストラウド バート・ランカスター
ハーヴェイ・シューメイカー(刑務所長) カール・マルデン
エリザベス・ストラウド(母) セルマ・リッター
ステラ・ジョンソン(妻) ベティ・フィールド
ブル・ランソン(看守) ネヴィル・ブランド
トム・ガディス(原作者) エドモンド・オブライエン
ロイ・カムストック(理解のある看守) ヒュー・マーロウ
フェト・ゴメス(友人) テリー・サヴァラス
獣医エリス(鳥類学者としてのストラウドを尊敬している) ウィット・ビッセル
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結局ストラウドは、酒を密造して飲んでいた事実が明らかになり、規則に違反した罪でアルカトラス刑務所に移送された。シューメイカーは、ワシントンから左遷されアルカトラズで刑務所長をしていた。鳥の飼育は禁じられたので、ストラウドは法律を勉強した。そして刑務所の歴史についての論文を書く。しかしシューメイカーは、立場上その原稿を没収する。ステラとは、釈放の見込みがなくなったことにより離婚した。
1946年、囚人が首謀者になっての暴動「アルカトラズの戦闘」が起きる。シューメイカーは、軍に出兵を依頼する。しかし、ストラウドは犯人二名が銃撃戦で死んだことを確認し、看守が奪われた銃をシューメイカーに引き渡す。
シューメイカーは、この事件の後、体調を崩し亡くなる。ストラウドは、1959年に病が悪化してミズーリ州の連邦囚人病院に移送される。そこで原作者トム・ガディスと会っている。今度行く病院は、個室に外から鍵をかけられない自由な環境だそうだ。