リチャード・コネル原作小説「最も危険なゲーム」の最初の映画化作品。
孤島で、人間狩りを趣味とする伯爵の獲物にされてしまった男女は果たして逃げ切れるのか。
デビッド・セルズニック製作総指揮、映画「キングコング」の監督コンビ、アーネスト・B・シュードザックとメリアン・C・クーパーが製作して、アーヴィング・ピッチェルとアーネスト・B・シュードザックが共同監督を務めた。白黒映画。
主演は後に西部劇スターとして大成するジョエル・マクリー、共演は「キングコング」のフェイ・レイ、英国の名舞台俳優だったレスリー・バンクス。
あらすじ
ボブは乗っていた船が座礁によって沈没する。乗客や乗組員がサメに食われる中、必死に泳ぎ切って孤島にただ一人たどり着く。そこには一軒のお屋敷があって、ロシアから亡命したザロフ伯爵が従僕を従えて暮らしていた。驚いたことに先客の兄妹がいて、歓待を受けていた。しかし妹のイブは伯爵の態度に気味の悪いものを感じていた。
ある日、兄のマーティンが消える。マーティンの遺体を伴って、伯爵が外から戻ってきた。マーティンを獲物にして人間狩りをしていると、マーティンが湿地帯で溺れ死んだと言う。ここに至って、イブの心配が事実となった。次はボブが獲物になる番だ。ボブが一日、生き残ればイブ共々命を助けると伯爵は約束する。
ボブはイブを連れて逃げ出すが、島は狭くて逃げ場所がない。トラップを用意して、伯爵を陥れようとするが、伯爵は罠の場所に気付き、ついには猟銃を持って二人を追い出す。ついに追い詰められたボブは犬と一緒になって打ち殺され、滝壺に落ちていった。
イブを連れて屋敷に戻った伯爵は上機嫌だったが、背後の扉が閉まる音がした。振り返ると、死んだはずのボブは犬を弾除けに使って生きていたのだ。ボブは拳銃を取ろうとするザロフに飛びかかりザロフ所有の矢をザロフの背中に突き刺す。そしてボート小屋への鍵を奪い、ボートにイブと乗り込み島を後にする。
雑感
この映画は「キングコング」と双子の映画である。
「キングコング」を「髑髏島(コモド島)」シーンを撮影している時、夜の間に「猟奇島」のジャングルのシーンを撮影したそうだ。一つのセットでパラレルに二つの映画を撮影することがあった。そして「キングコング」は制作にかなりの時間を要したので、おまけの映画の「猟奇島」が先に公開されてヒットしてしまった。ちなみにこの映画で用いられた門は「風と共に去りぬ」でも使用され、「アトランタの大火」シーンで燃え尽きてしまった。
以後、原作「最も危険なゲーム」は数回にわたって映画化される。最も日本人に知られているのは、リチャード・ウィドマーク主演の「太陽に向かって走れ」で、これは三度目の映画化である。同じようなタイプの映画は何度も作られているし、同じ原作の作品に限っても2016年と2017年にも一度ずつ映画化されている。このように「マンハント」は昔インディアン狩りをしていたアメリカ人男性の好む主題なのだ。
この作品は西部劇の大スター、ジョエル・マクリーの初めての主演作である。前作「南海の劫火」でも主役級だったが、女優ドロレス・デル・リオの名前が上だった。のちにアルフレッド・ヒッチコック監督の「海外特派員」(1940)に主演する。
レスリー・バンクスは英国の舞台俳優だが、映画初出演だったそうだ。実に名演だった。ロシアからの亡命貴族に扮していて、ロシア語を使いこなしているからてっきりロシア人だと思ってしまった。のちにヒッチコック監督「暗殺者の家」(1934、ジミー・スチュアート主演「間違えられた男」はリメイク)に主演する。
原作と原題「最も危険なゲーム」のゲームとは狩りの獲物を指している。この場合、獲物=人間つまりマンハントを意味している。ゾディアック事件という劇場型連続殺人事件(未解決)が1969年からアメリカ・カリフォルニア州で起きたが、その最初の事件で犯人から新聞社などに送られた暗号文にこの「最も危険なゲーム」からの一節が引用されている。デビッド・フィンチャー監督の映画「ゾディアック」(2007)にくわしい。
原作を読んだことはないが、映画脚本はシャーロック・ホームズが登場するアーサー・コナン・ドイル原作推理小説「バスカヴィルの犬」を参考にしている。あの猟犬たちはハロルド・ロイドの飼い犬だそうだ。
スタッフ
製作 アーネスト・B・シュードサック、メリアン・C・クーパー
製作総指揮 デヴィッド・O・セルズニック
監督 アーネスト・B・シューザック 、 アーヴィング・ピチェル
原作 リチャード・コネル
脚色 ジェームズ・アシュモア・クリールマン
撮影 ヘンリー・ジェラード
キャスト
探検家ボブ・ランスフォード ジョエル・マクリー
イヴ・ロウブリッジ フェイ・レイ
ザロフ伯爵 レスリー・バンクス
兄マーチン・ロウブリッジ ロバート・アームストロング
従僕タルタル スティーヴ・クレメンテ
従僕イヴァン ノーブル・ジョンソン
船長 ウィリアム・B・デイヴィッドソン