写真に写った姿を撮るだけで人を殺せるカメラが、小さな村に巻き起こすブラック・コメディ。
監督はロベルト・ロッセリーニ、製作はロッセリーニとルイジ・ロヴェレ。
エドゥアルド・デ・フィリッポとファブリッツィオ・サランザーニの原案を基にしてセルジオ・アミディ、ジャンカルロ・ヴィゴレッリ、フランコ・ブルザーティ、リアナ・フェッリらが脚本化した。
主演はジェンナロ・謳歌ピサノ、共演はジョバンニ・ベアト、マリリン・ビュファード。
白黒映画で、カトリック教会が問題にしたのであろうか、製作後4年経ってから、公開された。
あらすじ
イタリア南部の漁師町では、いまだに警察署長が戦時中のファシスト党のように権力を握り、人々を苦しめていた。特に写真屋チェレスティーノは、署長に対して義憤を抱く。すると、彼の店に貧しい身なりをした老人が訪ねて来る。老人は、憎い相手の写真を壁に貼って、商売で用いるカメラで撮影すると、相手を殺すことのできると言う。試しに警察署長の写真を写すと、署長は突然石のように固って死んでしまった。署長の家に行き死亡を確かめ、店に戻ると既に老人は消えていた。チェレスティーノは、老人こそ町の守り神である聖アンドレアに違いないと考える。
彼は次に下町の貧民を苦しめる、高利貸しの老婆マリアの写真をカメラで撮ってしまう。マリアの家に行くと、危篤になったと大騒ぎになっている。やがて亡くなった。チェレスティーノは、少しだけ良心の呵責を感じた。
しかし、遺言書により遺産の相続人が村で最も貧しい3人と指定されていたため、町の有力者はその遺言書を隠してしまう。その様子をチェレスティーノは覗いていた・・・。
雑感
ロベルト・ロッセリーニ監督は、様々な映画を作っていた。
この映画の出だしは、イタリアにして珍しいブラックユーモアだと思った。どうせ最後は報いが死刑執行人チェレスティーノに下ると思っていた。
ところが、寓話らしいハッピー・エンディングだった。
ロミオとジュリエットは、チェレスティーノの友人なのだが、駆け落ちを企てては、失敗して連れ戻され、引き離される。彼らの親が街の二大有力者だった。しかし、マリアの遺産を貧乏人に渡すのが嫌なばかりに、マリアの遺言書を盗み出す。それを見ていたのがチェレスティーノであり、市長に告発するが聞き届けられない。結局チェレスティーノは、カメラを使って二人を始末するが、今度は貧乏人同士がいがみ合い、ロミオとジュリエットまで喧嘩を始める。
結局、過激な方法(暗殺)を使って世の中を変えようとしても、何も変わらないことが言いたかった。
英国映画「血を吸うカメラ」の元ネタは、この作品だろうか。
スタッフ
製作、監督、脚本 ロベルト・ロッセリーニ
製作 ルイジ・ロヴェレ
原案 エドゥアルド・デ・フィリッポ、ファブリッツィオ・サランザーニ
脚本 セルジオ・アミディ、ジャンカルロ・ヴィゴレッリ、フランコ・ブルザーティ、リアナ・フェッリ
撮影 ティノ・サントーニ、エンリコ・ベッティ・ベルッティ
音楽 レンツォ・ロッセリーニ
キャスト
チェレスティーノ ジェナーロ・ピサロ
アメリカ人旅行客の娘 マリリン・ビュファード
アメリカ人旅行客の夫 ウィリアム・タブス
アメリカ人旅行客の妻 ヘレン・タブス
町長 ジョバンニ・アマト
ジウレッタ・デル・ベロ クララ・ビンディ
ロマノ ジャコモ・フリア
***
実は、村にアメリカ人がやって来ていた。有力者たちは、アメリカ人に資本を出させて観光地として開発しようと考えていた。
町長は、県からの補助金が降りることになったので、どのように分配するか計画を練っている。遺言書に関するチェレスティーノの告発について町長は、取り上げようとしない。
そこで、チェレスティーノはカメラを使って有力者たちを次々と始末して、遺言書を一般に公開する。
貧しい人間から三人が選ばれて遺産が分配されるが、彼らは毎日の飲み食いに使うだけだ。格差社会は一向に解決されない。
チェレスティーノの援助で一時駆け落ちしていたロミオとジュリエットまでが、仲違いする始末だ。
そこへ、彼の前に例の老人が現われ、実は自分は悪魔だと告白する。慌てたチェレスティーノは、彼に十字の切り方を教える。すると悪魔は改心して、有限の人生を生きることを選択する。カメラは、もう人を殺すことはないだろう。