1960年代を舞台にして、息子がある町を訪れ父の死の謎を探る内に意外な事実を知るまで。
ホルヘ・ルイス・ボルヘスの原作「裏切りと英雄のテーマ」を基にベルナルド・ベルトルッチとマリル・パロリーニとエドゥアルド・デ・グレゴリオが脚色した。製作はジョヴァンニ・ベルトルッチ、監督はベルナルド・ベルトルッチ。
主演はジュリオ・ブロージ、
共演は大女優のアリダ・ヴァリ。
あらすじ
1960年代のある夏の日、タラ駅にアトス・アニャーニという若い男が降り立つ。男の父アトス・マニャーニはアンチ・ファシストとして権力と戦った。
しかし1936年6月15日の夜、劇場で何者かに射殺されたのだ。その場では、ヴェルディのオペラ「リゴレット」が上演されていた。
息子アトスは、父の愛人だったドライファの屋敷へ行く。彼女はアトスに父の死の真相を探れと言う。劇場に入れば命はないという脅迫状や、ジプシーが父の死を占ったという話が、シェークスピアの引用臭い。
その夜、アトスは納屋に閉じこめられそうになる。翌朝には見知らぬ男に襲われる。
彼を自動車に拾ったのは、父の三人の同志、肉屋のガイバッツィ、元教師ラゾーリ、映画館主コスタの話を順に聴く。
アンチ・ファシストのリーダーである父は、町の劇場にムッソリーニが来ることになる。父がムッソリーニ暗殺を提案した。しかし、何者かがその計画を漏らしたため、ムッソリーニの町への訪問は中止される。
しかしアトスは、三人の同志が口裏を合わせているのではないかとドライファに疑念を伝える。
翌日アトスはドライファから再度、父の話を聞く。その夜、ガイバッツィら三人の同志がファシスト派だった地主ベカッチャを「お前がアトスを殺したのだろう」と詰っているのを聞く。地主はそれに対して何も言わない。
翌日、ベカッチャは劇場へ呼んだアトスに、父を殺したのは自分ではないと断言する。その後アトスはガイバッツィに連れられ、廃トラックのある場所に行く。ところがラゾーリとコスタがそこに待っていたため、身の危険を感じたアトスは逃亡する・・・。
雑感
舞台はトスカーナ州にある、人口千人ほどの実在の町タッラである。
映画の内容は政治的であり、ミステリーのようであり、ドンデン返しの結末さえ真実かどうかわからない幻想感がある。微妙なふわふわ感があるが、気味の悪さは全くない。
ベルナルド・ベルトルッチは、原作の無味乾燥な解説口調から一転して謎めいた設定に置き換えた。ラストの線路云々も原作にはない。
原題は「蜘蛛の計略」という意味を持つ。「暗殺の森」も原題はイタリア語の「日和見主義者」(国内配給パラマウント)だった。フランス映画社の営業マンが暗殺という言葉を使って真似たのだろう。オペラは劇中で「リゴレット」が重要な役割を果たす。
原作はアルゼンチンの作家で欧米のみならず日本でも愛されたホルヘ・ルイス・ボルヘスの短編小説「裏切り者と英雄のテーマ」だ。小説の舞台はイタリアでなくアイルランドである。
ボルヘスは生涯にわたり短編小説だけを描き続けた。右掛かっていたので、左翼国家スウェーデンのノーベル賞は取れなかったが、その資格は十分にある人だった。
スタッフ
製作 ジョヴァンニ・ベルトルッチ
監督・脚色 ベルナルド・ベルトルッチ
脚色 マリル・パロリーニ、エドゥアルド・デ・グレゴリオ
原作 ホルヘ・ルイス・ボルヘス
撮影 ヴィットリオ・ストラーロ、フランコ・ディ・ジャコモ
音楽 ジュゼッペ・ヴェルディ、アルノルト・シェーンベルク、ミーナ
キャスト
アトス・マニャーニ(父子二役) ジュリオ・ブロージ
父の愛人ドライファ アリダ・ヴァリ
映画館主コスタ ティノ・スコッティ
肉屋ガイバッツィ ピッポ・カンパニーニ
教師ラソーリ フランコ・ジョヴァネッリ
***
アトスは駅に逃げ込むが、列車がなかなか来ないので、劇場へ再び行ってみる。するとアトスの前に父の同志三人が再び現れ、真相を告白する。
父がムッソリーニ暗殺計画を密告したのだ。三人に事実がばれたとき、父は自分を同志に暗殺させ、ファシストによるものに見せかけた。芝居めいた筋書きは、父アトスが思いついたと言う。
命日に父をしのぶ集会に集まった人に対して、アトスは演説をするが、死の真相を語れなかった。
彼は町を去ろうと駅に行った。しかしパルマ行きの列車は来なかった。線路は、草に覆われていて何年も列車が走った後はなかった。