グレアム・グリーン原作「拳銃売ります」を映画化。クレジット順ではヴェロニカ・レイク(サリヴァンの旅)ロバート・プレストン(大平原)が上でアラン・ラッドは新人扱いだが、事実上の主演である。ヴェロニカは奇術の腕前を披露するが、歌の方は吹替らしい。


サンフランシスコのボロ・アパートに身を沈めるレイヴンの正体は殺し屋。今日の標的は企業を脅迫していたベイカーで愛人と一緒に射殺する
早速、依頼人のゲイツに報告に行くが、何故か報酬として10ドル札の束をくれる。実はゲイツはナイトクラブを経営しながら、ニトロという化学メーカーの役員をしていた。そしてニトロの経理部長ベイカーが出張中に殺され、現金が奪われたと警察に通報していた。警察のクレイン刑事は早速奪われた現金の通し番号を各署に手配した。レイヴンが使った10ドル札の番号が手配番号に該当していて、ゲイツに嵌められたと気付くも遅く警察に追われてしまう。
その頃クレインの恋人であり歌手兼マジシャンのエレンが、ロスアンジェルスにゲイツが新たに開くナイトクラブの出演者オーディションに合格する。実はある上院議員がゲイツのナイトクラブこそ国際スパイが密会する場だと考えて、エレンをスパイとして送り込ませただった。
エレンはシスコからロスに夜行列車で行く。エレンが座っていた席の隣にゲイツを追うレイヴンが座る。翌朝ロスに着くとゲイツが警察に通報していて降りる客を一人一人検問している。そこでエレンを脅迫してカップルに見せて、難を避ける。さらにエレンを廃墟に連れ込み殺そうとするが、工事労働者に騒がれてエレンに逃げられてしまう。
エレンはナイトクラブ歌とマジックのショーのリハーサルに参加した後、ゲイツに誘われて屋敷に連れて行かれる。しかしゲイツは列車でレイヴンと一緒にいたエレンを一味と考えて監禁してしまう。ゲイツが去った後に現れたのが、ゲイツを敵として追うレイヴンである。レイヴンは猿轡をかまされているエレンを発見し、助ける。そこに至って二人の共通の敵がゲイツであると知って共闘する。
ゲイツはニトロ社の役員会に出席して社長に状況を報告する。実は車椅子の社長がすべての黒幕で毒ガスを日本軍に売るためにゲイツにナイトクラブを経営させて密会の場を提供させている。経理部長には毒ガス輸出の秘密を握られ、レイヴンに始末を依頼したのだ。そのゲイツがいる社長室に、レイヴンが警察の警戒網を突破してついに突入してきた。彼は社長とゲイツから自白のサインを取ったうえで射殺する。そして警察に追われる最中エレンに目配せをしてから、最後は射殺される。

このシナリオは名脚本家が二人掛かりで仕上げている。こういう場合、大概一旦脚本家が仕上げたシナリオを買い取り、それをさらにブラッシュアップするのに他の脚本家を起用するケースがあるが、これもそれだろう。矛盾があちこちに見られるが、そこまで手を入れる暇がなかったのだろう。例えばゲイツがレイヴンを警察に逮捕されたら、警察でペラペラ喋れて、自分の身が危なくなるのに、何も考えていない。
イギリス人グレアム・グリーンの原作は読んでいないが、当然対ドイツ作戦だったものを急遽日本軍に置き換えるため、相当なテコ入れを施したとみられる。

こういう穴だらけの脚本にやる気がなかったのか、「サリヴァンの旅」の同じ撮影監督なのに、ヴェロニカ・レイクの映りが異常に悪い。カメラマン自身がやる気を失ったようだ。
ロバート・プレストンはどう見ても悪役顔なのだが、ここでは全く良い所のない刑事を演じている。全く本筋に関わらない役だ。

そんな四面楚歌の中、新人くんのアラン・ラッドはよく頑張っている。背は1m68cmと小柄なのだが、ヴェロニカ・レイクが輪を掛けて小さいので良いコンビになっている。
彼は冷酷に人を殺せる殺人鬼だ。でも猫を部屋に入れてやり餌を与える優しさを持ち合わせている。また掃除婦が猫をつまみだそうとすると、彼女の服を剥いでまで部屋から追い出してしまう。しかし暗殺の報酬を得て一番に買ったのは彼女のための服だった。その代金に番号の知れた札を使ったばかりにサンフランシスコを追われる羽目になる。
こういう複雑そうな役をアランは演じきっている。たしかに初の実質的主演だからガチガチだけど、ヴェロニカ・レイクのブルックリン訛りの棒読みより遥かにマシだろう。

アメリカではこの映画や後続の作品で、戦時中に一気にアラン・ラッドの名前が知られるようになって新しいハードボイルド・スターの座を射止める。西部劇に転じたのはもっと後の話である。

ところが日本でアラン・ラッドといえば西部劇の「シェーンなのは、戦中作がいろいろ問題があって上映できず、「シェーン」を国内でまず封切って大ヒットしてしまったからである。

アラン・ラッドというとアメリカ人は後輩のジェームズ・ディーンに通ずる影のある青年なのだろう。それが証拠に映画「ジャイアンツ」でジェット・リンク役のオファーが来るが何故か断る。代わりに抜擢されたのはジェームズ・ディーンだった。

ヴェロニカ・レイクも戦中派の繋ぎ役になってしまったが、ローレン・バコール以前の名ヴァンプ役である。

監督:フランク・タトル
製作:リチャード・ブルメンタール
原作:グレアム・グリーン
脚本:アルバート・マルツ
   W・R・バーネット
撮影:ジョン・F・サイツ
音楽:デヴィッド・バトルフ
出演:ヴェロニカ・レイク
   ロバート・プレストン
   アラン・ラッ

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ただしこの「拳銃貸します」は完全版ではなく換骨奪胎された短縮版だと思っている。フィルムの一部がなくなったか、プロデューサーが勝手に手を入れたのだろう。

 

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