2018年「このミス」・週刊文春ミステリーベスト10・本格ミステリーベスト10において第一位を獲得し、第十八回本格ミステリ大賞まで受賞して国内ミステリ4冠を達成した今村昌弘の同名原作小説を早速映画化したもの。俳優と声優、二足の草鞋を履く神木隆之介をワトソン役(主役)に、人気の浜辺美波を探偵役に起用している。他に中村倫也。監督はテレビドラマ「TRICK」の演出を勤めた木村ひさし。
あらすじ
ミステリー小説オタクの葉村と、ミステリー愛好会の会長で八年生の先輩明智は、同じ大学の探偵剣崎比留子から、謎の脅迫状が届いたというロックフェス研究会合宿へ誘われる。
合宿先はロックフェス研のOB七宮の別荘(紫湛荘)だ。その夜、近くで行われたロック・フェスティバルでゾンビが発生する。二名の女子と明智がゾンビに捕まってしまった。残った合宿参加者は紫湛荘に篭城せざるを得なくなる。携帯もつながらなくなり、外界と連絡不能になる。
合宿の参加者ではないが、出目、高木、静原もこのフェスティバルに参加していて紫湛荘に避難する。その夜、出目がうめき出し自室から出てきた。様子を見に行くと、既にゾンビになっていた。このゾンビは脳を破壊すると死んでしまう。比留子は出目の足に注目して紫湛荘に入る前に既に他のゾンビに噛まれていたことを明かす。部屋の外で大騒ぎをしながら、ロックフェス研部長の進藤がいつまで経っても出てこない。マスターキーで踏み込むと、彼もゾンビになっていた。部員高木が頭を潰すと、彼は動かなくなる。入り口すぐ外には「ご馳走様」と書かれたメモがあり、室内には「いただきます」と書かれたメモも発見された。ゾンビは字を書くことができるはずがない。進藤は人間によって密室内部でゾンビにされたのだろうか?
翌日、ペンションの入り口がゾンビによって破られる。皆は一階を捨てて、バリケードを張り二階に立てこもることにする。翌朝、七宮の友人立浪がエレベーター内で死んでいるところを発見される。しかも死体の近くに「あと1人食いに来る」というメモが残される。立浪は一階にわざわざ降りてゾンビに噛まれたところを殴り殺されたのだろうか。それとも昨晩食後に急に眠気を感じたことは関係あるだろうか?
ゾンビは二階への階段に押し寄せてくる。七宮が篭った部屋をノックしても返事がない。マスターキーで開けると、七宮もゾンビになっていた。七宮に招いてもらった静原が目を槍で貫いて殺す。
(ここからネタバレ注意)
残ったメンバーは二階のラウンジに立て籠った。そんな時でも静原は比留子に犯人は誰か尋ねる。
進藤はゾンビに噛まれたGF星川を匿っていて、その後ゾンビになった星川に襲われ、彼もゾンビ化した。星川自身はベランダから落ちてゾンビの仲間たちに加わった。
そこから真犯人は行動を開始する。立浪をエレベーター内で昏倒させ、一階へ送り出しゾンビになった後、二階でトドメを刺したのだ。
七宮には目薬を貸していて、その目薬にゾンビの血液を入れていたので、彼をゾンビ化することができた。
では真犯人は誰か?簡単な消去法で静原であることが証明される。静原はあっさり自白する。姉が前年にロックフェスに参加して七宮と立浪に乱暴されて首を吊ったのだ。
その時、ゾンビがバリケードを突き抜けて侵入してきた。皆は屋上に避難するが、静原だけ遅れて足を噛まれてしまう。屋上で静原は皆に迷惑をかけた謝罪を述べて、首を槍で貫き、そのまま真っ逆さまに地面に叩きつけられ、死んでしまう。
すぐ自衛隊の救援ヘリがやってくる。そこへ明智が近寄ってくるが、やはりゾンビ化していて可愛い後輩葉村に抱きつく。その瞬間、比留子の槍が明智の目を貫く。
雑感
ゾンビが出てきたことで評価が下がっているが、それは間違っている。今から31年前の1989年に山口雅也がゾンビ推理小説「生ける屍の死」を著して「鮎川哲也賞」を受賞してから、ゾンビは推理小説での重要なテーマの一つになってしまった(ただしそれを本格ミステリーとは言いたくないのだが)。低評価する人がミステリー=二時間ドラマと勘違いしているだけなのである。行きがけのバスの中で出てきた老婆の「おはんでございます」と言う台詞(1977年映画「悪魔の手毬唄」、原作ではおりんである)に笑えなかった人には無理である。
構成は尻切れとんぼになっており、本当の大量殺人犯は別のところにいる。おそらく続編で比留子と葉村が解き明かすのだろう。
しかしこの映画の最後のトリックは些か卑怯だと思う。もし被害者が○○○○を使わなかったらどうするのだ?手書きメモを犯人が遺したことも重要な手がかりなのに、比留子は問題にさえしない。
プロットやトリックに弱い点はあったが、それを跳ね返してしまう程、浜辺美波は(タッパはないが)順調に育っているようだ。何しろ「咲ーSaki」「君の膵臓が食べたい」に続き、ゾンビ・ミステリーまで制覇してしまった。早くもセンスは事務所の先輩沢口靖子を超えたと言っても過言ではない。やはり沢口のように「ゴジラ」なぞに若いうちから出すものではない。
神木隆之介くんは、いつもながら上手いなあ。ただし(現在27歳だから)年齢的にも後2、3年で曲がり角が来るだろう。その時は声優専業になれば良い。
キャスト
監督 木村ひさし
脚本 蒔田光治
原作 今村昌弘
音楽 Tangerine House
製作 市川南
撮影 葛西誉仁
スタッフ
葉村譲 神木隆之介
剣崎比留子 浜辺美波
明智恭介 中村倫也
進藤歩 葉山奨之
重元充 矢本悠馬
名張純江 佐久間由衣
静原美冬 山田杏奈
下松孝子 大関れいか
星川麗花 福本莉子
出目飛雄 塚地武雅
高木凛 ふせえり
管野唯人 池田鉄洋
立浪波流也 古川雄輝
七宮兼光 柄本時生
プロレスラー 永田裕志