戦後の忠臣蔵映画で二回目のカラー映画化(一回目は東映)。人形浄瑠璃、歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」を基に作られているが、役名は史実に合わせていて、歌舞伎の大星由良之助は大石内蔵助に戻っている。前半と後半に分かれる三時間映画だが、エピソード数は少なく浅野内匠頭の刃傷松の廊下から始まって、大石内蔵助の赤穂城明け渡し→山科の別れ→江戸の本筋以外はお軽勘平、加古川本蔵ぐらいしかエピソードがない。それだけじっくり描かれている。
主演は二代目市川猿之助(初代市川猿翁)、共演者は妻おりくに初代水谷八重子、息子主税に三代目市川團子(三代目市川猿之助、二代目市川猿翁)、以下その許嫁(瑳峨美智子)、その父加古川本蔵(六代目坂東蓑助、八代目坂東三津五郎)、その妻(山田五十鈴)、お軽(高千穂ひずる)、早野勘平(高田浩吉)、さらに近衛十四郎、八代目松本幸四郎など。
監督は時代劇の大曽根辰夫、脚本は井出雅人。
あらすじ
浅野内匠頭の刃傷シーンから始まる。あっさり切腹となり赤穂城は右往左往の大騒ぎ。城代家老の大石内蔵助は殉死を唱えると、意気地のない藩士は逃げ出す始末。内蔵助は残った同志に討ち入りを行うと本心を明かす。内蔵助は城を明け渡し、三々五々浪士は東へ旅立つ。
早野勘平は内匠頭が刃傷を起こしたとき、恋人のお軽と逢引をしていた。その咎で浪人となり、山科のお軽の実家で猟師となったが、討入り資金を用立てれば同志に加えてもらえると聞き、間違って撃ち殺した男の懐から財布を抜き取る。しかし家に帰ると、お軽が遊郭に売られて父親は殺されていた。そして勘平が持ち帰った金須は、父親がお軽を遊郭に売った金だった。その金で婿に一旗上げてもらいたいと思ったのだ。義母に義父殺しと詰られて勘平は腹を切るが、そこへ同志がやって来て、撃ち殺した男に義父は斬られたと伝える。これで勘平は金須を同志に討ち入り資金として手渡すことができた。連判状に名を加えられて勘平は喜び、静かに息を引き取る。
遊郭へ出たお軽を内蔵助が身請けをすると言う。それを聞いた兄寺坂平右衛門は妹を斬ろうとする。内蔵助は、お軽が一党の秘密を漏らすといけないから、始末していると寺坂は考えたのだが、あわやのところを内蔵助に止められる。そして寺坂平右衛門を同志に加えてやり、軒下で赤穂浪士の連判状を見ていた吉良の間者を捕える。
山科の大石家に加古川家の戸無瀬、小浪母娘が訪れて、主税との婚儀をりくにお願いするが、りくは浅野内匠頭の願いを加古川本蔵が遂げさせなかったことを挙げてこの約束を反故にしようとする。そこへ現れたのが加古川本蔵本人で大石主税に討たれてやり、短い間でも娘を妻にしてやって欲しいと頼み、吉良屋敷の絵図面を大石に手渡す。
そして大石内蔵助一行は垣見五郎兵衛に化けて東下りをするが、関守橘右近にバレてしまう。しかし赤穂義士大石内蔵助と知り、関所を通してくれる。
江戸で内匠頭の未亡人瑞泉院のもとに挨拶に行った内蔵助は、女中に間者が混じっているのを知り、帰り際に戸田局に打ち明け、戸田は見事にこれを召しとる。間者が狙ったのは、大石の持参した巻物だったが、大石を嫌っていた瑞泉院は見てもいなかった。巻物を開けると赤穂義士の連判状だった。
そして討ち入り当日、清水一学の手助けもあり、ついに吉良上野介を討ち取った。赤穂義士はそれぞれ大名旗本にお預けとなり、順次切腹して果てた。
雑感
3時間映画の割に少ないエピソードながら、まるで歌舞伎のような所作が素晴らしく、堪能させられる。
とくに二代目猿之助演じる大石内蔵助(垣見五郎兵衛)と関守橘右近(演:八代目松本幸四郎)の段は、凄くいい。
一方、現二代目市川猿翁の主税との現二代目松本白鴎の矢頭右衛門七は、非常に若くまだまだアラだらけだったw。とはいえ当時は御曹司だから、周りはうまく合わせていた。
早野勘平を高田浩吉が演じているのは、違和感があった。
八代目坂東三津五郎(当時蓑助)の加古川本蔵は、貫禄があった。中間管理職の苦労をよく表現していた。
りく役の初代水谷八重子は、加古川家から押しかけ女房に来た山田五十鈴と瑳峨美智子の実の母娘パワーに押されていた。
スタッフ・キャスト
監督 大曾根辰保
製作 白井和夫
製作総指揮 城戸四郎
脚本 井手雅人
撮影 石本秀雄
音楽 鈴木静一
美術 大角純一
配役
大石内蔵助 初代市川猿翁
大石主税 市川団子 (二代市川猿翁)
大石おりく 初代水谷八重子
早野勘平 高田浩吉
早野おかる 高千穂ひづる
加古川本蔵 八代目坂東三津五郎
戸無瀬 山田五十鈴
小浪 瑳峨三智子
橘左近 初代松本白鸚
矢頭右衛門七 六代目市川染五郎 (二代目松本白鸚)
浅野内匠頭 北上弥太朗 (8代目嵐吉三郎)
あぐり 有馬稲子
清水一角 大木実
吉良上野介 石黒達也
桃井若狭介 森美樹
与市兵衛 小川虎之助
おかや 毛利菊枝
戸田の局 小夜福子
鷺坂伴内 小林十九二
おくら 高木雅代
落合与右衛門 七代目嵐吉三郎
寺岡平右衛門 近衛十四郎
片岡源五衛門 名和宏