実際に昭和13年に起きた大量殺人事件「津山30人殺し」を基にした、横溝正史の名作ミステリー伝奇小説の映画化。
喜安浩平の脚本を吉田照幸が演出した。
主役は吉岡秀隆。
共演は歌手UAの息子で新進俳優の村上虹郎、真木よう子、蓮佛美沙子。
あらすじ
1566年(永禄9年)、8人の落武者が、とある村に逃延びる。村人たちは災いになることを恐れ、武者たちを皆殺しにする。しかし首謀者田治見庄左衛門は狂死して、祟りを恐れた村人は武者たちの遺体を手厚く葬った。その後、村は「八つ墓村」と呼ばれた。
戦前に庄屋である田治見要蔵は、妻子ある身なのに井川鶴子を犯した。鶴子は辰弥を出産した。辰弥は要蔵の子ではなく亀井の子という噂を聞き、要蔵は鶴子と辰弥を虐待する。鶴子は、辰弥を連れて逃げ出す。鶴子を失った要蔵は、日本刀と猟銃で32人もの村人たちを次々と殺し、姿を消す。
戦後、辰弥が戦地から復員すると母は死んでいた。その後、新聞で彼の行方を探していた諏訪法律事務所を訪ねる。田治見家の子孫が彼を探しているという。母方の祖父井川丑松が迎えに来る。しかしその場で丑松は毒殺される。そこで未亡人森美也子によって辰弥は八つ墓村に招かれる。
田治見家には久弥と春代がいるが共に病弱なため、大伯母小竹と小梅は、辰弥を跡取りに指名した。辰弥と対面していた久弥が毒殺される。野村家に逗留する金田一耕助と岡山県警の磯川警部が登場する。
初七日の法要の席で、辰弥に秘密を明かそうとしていた梅香尼が毒殺される。
その夜、小竹小梅姉妹が夜中に地下に潜るのを見た辰弥は、鍾乳洞を探検し、様々なことを知る。翌朝、濃茶の尼が殺され、殺人予定表のような紙片を残した久野医師が失踪する。金田一は、濃茶の尼殺しは犯人の予定外の殺人だったと言う。
数日後、小梅の死体が鍾乳洞の奥で見つかり、最重要容疑者として久野医師の探索をしたところ、久野の毒殺死体が発見された。
村人たちの辰弥に対する疑惑が強まる中、辰弥は屏風の中から自分に瓜二つの亀井陽一の写真を発見し、自分が要蔵の子ではないことを知る。その夜、村人たちが一揆を起こして田治見家を急襲し、辰弥は鍾乳洞奥に逃れる。
一夜明けると、義姉春代の悲鳴が聞こえる。春代は刺されて瀕死だったが、辰弥が亀井の子であることを知っていた。春代は、最期に犯人の小指を噛み切ったことを告げて果てる。
雑感
全体として、事件を1時間30分に端折って、残り時間でしっかり心情を描写した。
松竹映画の野村芳太郎版とするとわかりやすい。NHK版はそれと比べて全く怖さが全くない。全体の公開時間が2時間弱と短いからだろう。
さらに死亡者を減らすことにより、犯人が分かった後に、残り30分ほど時間を空けた。NHKは、そこを使ってアフター・ストーリーを広げた。特に美弥子が病院のベッド上で辰弥相手に悪態をつく場面は、演技を見せたかったのだろう。でも野村監督版を見るように、鍾乳洞の落盤で殺してあげた方が良かったと思う。
村上虹郎は羽生結弦に似た小顔だが、意外と声は低い。おそらく歌も母のUA譲りなのだろう。これからも期待のスターだ。もちろん、松竹版の萩原健一の好演にはまだまだ及ばないが。
それと比べて、真木よう子は声を低く作って全く遊びがなかった。松竹版の小川真由美と比べても、犯人が誰か丸わかりだ。もう少し演技は自然で良いのではないかな。
蓮佛美沙子は、辰弥に仄かな恋心を燃やす義姉役としては、ぴったりだと思う。自己主張は全然ない役だが、その通り自然に演じられるなら、どこへも出られる。真木よう子との演技合戦には勝っていたと思う。松竹版では山本陽子が演じていたが、ファム・ファタール小川真由美に対して演技で負けていた。義姉役としては魅力的すぎたと思う。
濃茶の尼役の木内みどりは、この年の11月に亡くなった。この年に彼女は精力的にテレビと映画に出演していた。映画はまだ未発表のものがあるが、テレビドラマとしてはこれが遺作である。
スタッフ
脚本 – 喜安浩平、吉田照幸
演出 – 吉田照幸
制作統括 – 村松秀 (NHK)、西村崇(NHKエンタープライズ)、大谷直哉(ザロック)
キャスト
金田一耕助 – 吉岡秀隆
井川辰弥 – 村上虹郎
森美也子 – 真木よう子
田治見春代 – 蓮佛美沙子
田治見要蔵/久弥 – 音尾琢真(2役)
里村典子 – 佐藤玲
里村慎太郎 – 小柳友
田治見小竹/小梅 – 竜のり子(2役)
片岡吉蔵 – やべきょうすけ
駐在 – 宮沢氷魚
駐在の妻 – 佐津川愛美
井川鶴子 – 樋井明日香
新居修平 – 馬場徹
久野恒美 – 久保酎吉
尼子の大将 – 田中しげ美
田治見庄左衛門 – OKI
英泉 – 山口馬木也
梅幸尼 – 山下容莉枝
諏訪弁護士 – 酒向芳
井川丑松 – 不破万作
長英 – 津嘉山正種
濃茶の尼 – 木内みどり
野村荘吉 – 國村隼
磯川警部 – 小市慢太郎
ネタばれ
その後辰弥は、毎日弁当を差し入れに来る典子と結ばれる。、鍾乳洞の奥深くにある落武者たちの財宝探しの探検を始める。そこに現れた博労の吉蔵一行が2人を襲撃したところで落盤が起きる。2人は、そこで閉じ込められてしまう。辰弥は典子から、春代に小指を嚙み切られたのは美也子であったことを告げられる。慎太郎が田治見家を継ぐために本家を皆殺しにすることが犯行動機だと辰弥は推理していたが、慎太郎を愛する美也子の犯行だったのだ。
2人は救出され、辰弥が麻呂尾寺の長英を訪ねたところ、英泉が辰弥の実の父であることを教えられる。金田一は、関係者を集め、事件の詳細を知らせる。久野医師は商売敵の新居医師を殺したいと願望して立てたプランを手帖に書いていたのを、美也子に剽窃されたのだ。美也子は小指の傷がもとで死んだ。
辰弥は八つ墓村を後にして列車に乗り、街へ去っていくが、典子が同乗し、逆プロポーズする。