幸田露伴の名作小説を戦時中にも関わらず映画化した。
話の筋はご存知の通り、大工ののっそりこと十兵衛は腕は良いが口下手なのが玉に瑕。
大工になった以上は一世一代の仕事として五重塔建立を手がけたいと思っていた。感応寺が五重塔を立てると言うのでやらせてもらいたいと思い、自分が作った模型を持って上人さまに直談判に行く。上人さまは日頃から十兵衛のことは気にかけていたが、今回は彼の兄弟子に当たる源太親方に話を持って行ったので二人で話し合って決めてくれという。源太は十兵衛とジョイントベンチャーで作ることに納得したが、十兵衛は頑固で、一人で作りたい 二人で作るなら俺は下りるという。
源太は悩んだ末に上人さまから十兵衛を指名していただくことにした。十兵衛が話を受けてから急に親方らしく振舞うようになり塔の建設工事は進んだ。しかし源太の子分は面白くない。十兵衛に暴力を振るい工事を遅らせてしまう。源太はそれを聞いて俺の顔に泥を塗ったと子分を叱る。
その後も順調に工事は進行し五重塔は無事完成となった。ところが落成式の前夜、暴風雨が江戸の町を襲う。寺侍は気が気でならず十兵衛を呼ぶが上人さまがお呼びにならない限り動かないと言い、寺侍は仕方なく上人さまがお呼びだと謀る。
戦争末期の新派映画だ。このご時世によくこんな娯楽映画を作ってくれたものだ。
この映画は義理を重んじた任侠映画ではない。新しい建築の才能を育てようとする上人の立場から、義理人情を大切にしようとする古い世界(=源太や大工の世界)を冷めた目で眺めている映画だ。全体を犠牲にした上での個人の尊重だ。そんなものをふつう戦時中に作れるわけがない。映画会社の人間がうまく役人を言いくるめたのだろう。
五所平之助監督は、要点を掴まえてスピーディーな演出に徹した。だから原作での暴風雨の見せ場もあっさりと描いている。これが物足りないと言う意見もあるが、それは戦時中だけに時間が掛けられなかったからだろう。当時は撮影中でもスタッフが応召されていたのだから。
原作 幸田露伴
脚本 川口松太郎
監督 五所平之助
撮影 相坂操一
出演
花柳章太郎
森赫子
逢初夢子
大矢市次郎
伊志井寛
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