ある家族から見た、第三次世界大戦で人類が滅亡してゆく様を描く特撮パニック映画。
八住利雄と木村武の共同オリジナル脚本で、松林宗恵が監督。
撮影は西垣六郎。なお「モスラ(1961)」の円谷英二が特技監督を担当している。
カラー映画でパースペクタ立体音響。併映は「アワモリ君乾杯」。
主役はフランキー堺。共演宝田明、星由里子、乙羽信子、笠智衆。
あらすじ
米軍記者クラブの運転手田村茂吉は、戦後小さな家を持ち幸福な家庭を築いた。今日は七五三のお祝いで妻と次女、長男を神社に送ってきた。
朝鮮戦争休戦以来、敵対する同盟国(東側諸国)と連邦国(西側諸国)は軍拡競争を続けていた。同盟国空軍の演習中に連邦国海軍のミサイル潜水艦が領海侵犯を犯し、拿捕される事件が起きる。両陣営の間に緊張が増した。
田村が運転手を務めるワトキンス記者は来たるべき危機に対して不安を隠さなかったが、田村はまだ株価が上がる下がるか気を揉んでいた。
娘冴子と下宿している貨物船の高野通信士は結婚を約束していた。海外から帰国中の貨物船笠置丸から、夜空にオレンジ色に光る物体を見つけた高野は、海上保安庁に報告する。
地中海で軍用機が撃墜される事件が起き、両軍に一層の緊張が走る。田村はチャンス到来と株を買い増す。
日本政府は総理が腎臓病で動けずリーダーシップを使えず、国連安保理事会も何ら手が打てない。
帰国後まず高野は、笠置丸コック長の江原を見舞う。江原は胃潰瘍で船を降りて、胃の一部の摘出手術を行ったばかりだったが、退院して保母である娘早苗や保育所の子供達に囲まれ、生きる喜びを感じていた。
高野は下宿する田村家に帰ると、冴子が迎えてくれた。田村も戻って来たので、高野は居住まいを正し、結婚の許可をもらおうとすると、何と妻お由が前もって田村に吹き込んでいたらしい。そこへお由も加わり、和やかな雰囲気で結婚の許可は降りた。
ワトキンス記者は田村の家にやってきた。目当ては謎の光の目撃者高野だった。高野が、あれは一体なんですかと聞くと、ワトキンスはナトリウム弾だろうと答える。高野は、両軍の衝突が近いことを思わせた。
連邦軍本土基地(日本)で核ミサイルが機械の故障で発射されそうになった時は、上層部が気付いてあと数秒のところで止めることができた。
ワトキンス記者は、緊張高まる朝鮮半島の38度線に出張することになった。田村はそれでもなお、株が上がるか下がるかを尋ねる。
しかし三十八度線で大規模な衝突が起きた。小型核が使われ、多くの兵士が消し炭のように消え去ってしまった。
同盟軍北極基地では大陸弾道弾基地で人為的ミスから核爆弾の誘爆が起きそうになる。司令官は自分の命を賭して弾頭内部に入り起爆装置をはずした。みんなは本当は平和を望んでいた。
平和の願いはパリ首脳会談に託された。そして再び三十八度線を挟んだ争いの休戦協定が結ばれた。急に出港することになった高野を追って一張羅を着た冴子が横浜へ出てきた。冴子は、一夜を一緒に過ごして高野を心置きなく送り出したかったのだ・・・。
雑感
役者が用意できなかったので、両軍が英語を喋っているのは、なかなか草生える。
ロシア語を喋る俳優(ロシア白軍ユダヤ人)は戦後大勢いたはずなのだが、いつの間にか大部分がアメリカに移住したのだろう。
田村一家の目から見た戦争と核の恐ろしさを描いている。
宝田明と星由里子のエピソードは微笑ましかったり、最後のモールス信号のやりとりは感極まるものがあった。
右翼の側からは、核軍備をする言い訳に使えそうな話だし、左翼からも永世中立国を目指す理由づけになるだろう。
アメリカでもキューバ危機など一触即発の瞬間が度々訪れていて、似たような映画が作られていた。例えばスタンリー・キューブリック監督の「博士の異常な愛情」、シドニー・ルメット監督の「未知への飛行」が作られている。それらは政治家や戦う兵士の立場から描かれている。
日本のこの手の映画は、「生きものの記録」も然りで、どこにでもある家庭を舞台にして描いているが、脚本家が相当練らなければかなり難しい題材である。作家抜きで作るのは困難だ。
スタッフ
製作 藤本真澄、田中友幸
脚本 八住利雄、馬淵薫
監督 松林宗惠
撮影 西垣六郎
音楽 団伊玖磨
特技監督 円谷英二
特技撮影 有川貞昌、富岡素敬
合成撮影 三瓶一信、鵜飼啓一
光学撮影 徳政義行、真野田幸雄
キャスト
田村茂吉(運転手) フランキー堺
田村お由(妻) 乙羽信子
田村冴子(長女) 星由里子
田村春江(次女) 富永悠子
田村一郎(長男) 阿部浩司
高野通信士 宝田明
江原船舶料理士 笠智衆
早苗(江原の娘で保母) 白川由美
ワトキンス(日本駐在のアメリカ記者) ジェリー伊藤
焼芋屋(広島の原爆で家族を失う) 織田政雄
おはる 中北千枝子
笠置丸船長 東野英治郎
首相 山村聡
外相 上原謙
官房長官 中村伸郎
防衛庁長官 河津清三郎
自衛隊司令官 高田稔
***
その頃休戦協定中のべーリング海上空で連邦軍のF105(101)と同盟軍モク(ミグ21)編隊機のツバ競り合いから戦闘状態に入る。
日本の基地から飛び立った連邦軍爆撃機への報復として、同盟国は原子爆弾を搭載したロケットを東京に向けて発射するつもりだ。東京は我先にと逃げ惑う人で混雑していた。
覚悟を決めた田村家は家に篭った。冴子は無電機で高野のモールス信号をキャッチした。「コーフクダッタネ……」
やがて火の球が東京を包んだ。ニューヨークでもパリでもモスクワでも次々と原爆が投下され、美しかった街は一瞬で消滅した。
静かな洋上から笠置丸乗員は、東京のキノコ雲を見ていた。放射能のために生きて戻ることはで来なくても、高野は日本に戻りたいと願った。艦長は決を採り、全員で東京へ帰る道を選ぶ。