「ロスト・ハイウェイ」のデビッド・リンチ監督が描く、美しくも妖しい魅惑的なミステリー。
映画の都・ハリウッドを舞台に2人の美女が繰り広げる二部構成の物語である。
監督・脚本は名匠デビッド・リンチ。
主演ナオミ・ワッツ、ローラ・ヘアリング。
共演アン・ミラー。
あらすじ
1950年代のハリウッドのマルホランド通り。
ベティは、大女優の美しい姪で、自らも女優を目指してロサンゼルスへやって来た。
彼女は、ココという管理人さんと出会った。ベティは、旅行中の叔母の家で暮らして、芸能界の仕事を見つけるつもりだった。
ところが、部屋の中に黒髪の女性がいることに気づく。リタ・ヘイワースの絵を見て、瞬間的にリタと名乗った彼女は、交通事故によって頭から出血し記憶を失っていた。リタに好意を持ったベティは彼女の記憶を取り戻すのを手伝う。しかしリタが所持するバッグの中には、大金と青い鍵が入っていた。
その頃、ハリウッドの殺し屋が、被害者を始末する際に、巻き添えである複数の目撃者まで殺害する事件が発生する。
映画監督アダムは、制作会社と配役でトラブルになる。ところが家に帰ると、妻は逞しいマフィアと不倫の真っ最中で、逆に家から追い出される。何らかのハリウッドの闇の部分が彼に襲いかかっているようだ。銀行口座も止められて、困ったアダムはカウボーイ風の中年男の呼び出しを受ける。カウボーイは、主役について指示を守れば、それ以外のキャストは君の自由にして良いと告げる。
一方、ベティとリタはドライブインのウィンキーズに入る。リタはそこで「ダイアン・セルヴィン」という女性の名前を思い出す。
翌日、エージェントとアダム監督のオーディション会場の様子を見学する。監督はマフィアの命令通りに配役を決めた。
ベティとリタは待ち合わせ、「ダイアン・セルヴィン」の住所を電話帳で調べ、アパートの一室に向かう。そこにはダイアン・セルヴィンらしき女性の死体があった。自宅に帰ったベティは、ショックを受けたリタを愛撫するうちにベッドを共にして関係を持ってしまう。
深夜になって、リタはベティを「クラブ・シレンシオ」に連れて行く。男が「これは全部まやかし」と言って、「泣き女」という歌手が登場する。ベティはバッグの中にあった青い箱を発見する。
帰宅すると、青い箱を見ていたベティが消滅する。リタは不審に思いながらも青い鍵で箱を開ける。ところが彼女も姿を消す。
(前編終わり)
雑感
この二部構成の映画をメビウスの輪と呼んだ人は慧眼だ。
それをヒントにして、何度も見なければわからないと脅されていたが、一発で全体的構成は掴めた。
監督は前半は夢や願望であり、後半はダイアンの現実と考えているかもしれないが、例えば、後半もまた夢という見方もある。「夢十夜」ならぬ「夢二夜」というわけだ。しかも二晩で終わるわけではない。恐らく翌日は最初の夢をまた見ることになり、エンドレスに悪夢を繰り返すだろう。ヨーロッパ映画を見過ぎると、良くあることだが、デビッド・リンチもそれに近いところがある。
前半のナオミ・ワッツの美しさは非凡だ。特に可愛らしさでは同郷ひとつ年上のニコール・キッドマンに劣っていない。ただ妖艶さ、娼婦役が似合う点でニコールが世間的には上なのかな。個人的にはこの頃のナオミ・ワッツはめちゃくちゃ好きだった。下ぶくれのレニー・ゼルヴィガーよりずっと好きだった。
この映画の傷は2時間半近くと上映時間が長い上に性的表現が過剰なところだ。これは適当に間引いてくれたら、もっと見やすい2時間映画に編集できただろう。
この映画は、ヨーロッパ資本が入っているから、夢幻が多く描かれるが、どうでもいいセックスシーンも多い。主役二人のレズビアン設定はヨーロッパに渡ってから付け加わったようだ。それが残念な点だ。
嬉しいところは、かつてのMGM映画のダップダンサーのアン・ミラーが健在ぶりを見せたこと。公開後3年経って亡くなった。
スタッフ
監督・脚本 デヴィッド・リンチ
製作 ニール・エデルスタイン、ジョイス・エライアソン、トニー・クランツ、マイケル・ポレール、アラン・サルド、メアリー・スウィーニー
製作総指揮 ピエール・エデルマン、デヴィッド・リンチ
音楽 アンジェロ・バダラメンティ
撮影 ピーター・デミング
キャスト
ナオミ・ワッツ:ベティ・エルムス/ダイアン・セルウィン
ローラ・ハリング:リタ/カミーラ・ローズ
アン・ミラー:管理人ココ(ミセス・ルノワ)/ココ(アダムの母親)
ジャスティン・セロー:アダム・ケシャー
ダン・ヘダヤ:ヴィンチェンゾ・カスティリアーニ
ロバート・フォスター:ハリー・マックナイト刑事
レベッカ・デル・リオ:レベッカ・デル・リオ
ミシェル・ヒックス:ニッキー
メリッサ・クライダー:ウィンキーズのウェイトレス
リー・グラント:ルイーズ・ボナー
メリッサ・ジョージ:カミーラ・ローズ
チャド・エヴェレット:ウディ・カッツ
パトリック・フィッシュラー:ダン
ネタばれ
ここから物語は後編に入る。
どうやら前編は夢だったようで、ベティだった女が実は「ダイアン」という売れない女優であった。彼女は女優リタこと「カミーラ」と出会い、女性同士なのに恋人になる。大女優の道を着々と歩み、夢の中ではベティが住んでいた家に暮らすカミーラとは反対に、ダイアンは前編の夢の中でダイアンが死んでいた一室を借りて、細々と端役女優を続けていた。
突然パーティーで、カミーラは映画監督アダムとの婚約を発表する。アダムの実母はココであった。ダイアンはカミーラに対して憤りを覚える。
ダイアンはウィンキーズで殺し屋に会い、カミーラの殺害を依頼する。そして現金とカミーラの屋敷に入るための青い鍵を渡す。
カミーラ殺害は成功するが、自責の念と警察に追い詰められたダイアンは自室のベッドの上で自殺する。