ブロードウェイの大ヒット・ミュージカルを、ビヨンセ、ジェイミー・フォックス出演でミュージカル映画化した。スプリームスを模した女性コーラスグループの波乱の道のりを描くドラマである。
監督・脚本はビル・コンドン。
主演はジェイミー・フォックス、ビヨンセ・ノウルズ、ジェニファー・ハドソン。
アカデミー助演女優賞(ジェニファー・ハドソン)と音響編集賞を受賞。
あらすじ
アフリカ系アメリカ人の三人娘ボーカル・グループ「ドリーメッツ」は、カーティスという中古車ディーラーと独占マネジメント契約を結ぶ。カーティスは、音楽ビジネスに興味があった。三人娘のセンターを張っているエフィは、カーティスのアクの強さに惹かれる。
彼女たちの初仕事は、マティがマネージャーをしているジミーのバックコーラスとしてツアーを回ることだった。カーティスはエフィの兄のC.C.の曲も、ジミーに売り込む。C.C.作詞作曲の「キャデラック」が、ジミーとドリーメッツの歌として発売され、黒人チャートで小ヒットする。
しかしこれに目をつけた白人は、曲をパクって白人歌手のオリジナル曲として発表する。カーティスは大いに怒り、黒人歌手の権利を守るために動き出す。カーティスは有力DJに贈賄してジミー・アーリーとドリーメッツの新曲を取り上げてもらう。ついに全米ポップチャートで1位を獲得し、ジミーとドリーメッツは人気者になる。
カーティスは「レインボー・レコード」というレコード会社を設立する。カーティスは、さらに上を目指してジミー・アーリーとドリーメッツを、白人向けに売り込む路線を採った。しかしマティはジミーの売り込み方を巡ってカーティスと対立し、ジミーのもとを去る。
カーティスの戦略はなかなか実を結ばず、大衆向きの音楽ビジネスでジミーの限界を感じて、ドリーメッツの3人を「ザ・ドリームズ」と名乗らせ、シングルデビューさせる。カーティスはリードボーカルにディーナを指名したため、恋人エフィは激怒する。カーティスはディープな魅力のエフィよりスラッとしたディーナの方が、白人にも黒人にも受け入れられると感じていた。カーティスの思惑通り、ザ・ドリームズは国際的スターとなる。リードボーカルのディーナに注目が集まり、エフィは面白くない。そしてある日、怒って脱退宣言をして飛び出す。
エフィは気を落ち着けて、みんなのところへ戻るが、カーティスは、エフィの代わりの新メンバーであるミシェルを加えていた。短気のためにエフィは全てを失ってしまう。
6年の歳月が経った。ザ・ドリームズは次々とヒットを飛ばし、ディーナは大スターになっていた。カーティスはやはりディーナと浮気していて、エフィが消えたのを良いことにディーナと結婚していた。
一方、エフィはデトロイトへ帰り、娘を出産した。彼女はどうしても歌を諦めきれず、マティにマネジメントを依頼する。
ライトソウルを歌ってきたジミーは、C.C.と共にベトナム反戦歌を作る。しかしカーティスは売れることを優先していたために、発売を認めなかった。ジミーはやる気を失い、次第に麻薬に溺れていく。
レインボー・レコードの10周年記念コンサートが開かれる。ジミーもそのステージに立つが、直前に麻薬を使用していたジミーはステージ上でズボンを脱いでしまう。カーティスは、ジミーを解雇する。ジミーはその後すぐにヘロインの過剰摂取で死亡する。
C.C.もまた、音楽から黒人らしさを消そうとするカーティスのやり方に反発して、ついに決裂する。
エフィはジミーの追悼ライブへ出かける。C.C.もそこへやってきて、妹エフィのために曲を作ったことを伝える。エフィはC.C.と和解しローカル・レーベルから「ワンナイト・オンリー」という歌を発表する。ところがカーティスは、それをパクってディーナのソロ曲として発表する。
ディーナは、エフィのレコードを見つけ、カーティスがかつての白人ソングライターのように曲をパクったことを知る。ディーナはエフィに謝罪する。ディーナは、エフィに9歳になる娘がいることを告白する。娘の父親はカーティスだった。ディーナは今度こそ離婚を決意する。
マティやエフィ、C.C.は弁護士を雇ってレインボー・レコードに乗り込み、カーティスを盗作で訴える。
ザ・ドリームズの解散コンサートで、ディーナはエフィを呼び込み、もうひとりのメンバーとして観客に紹介する。客席では、エフィの娘が母親の舞台を見守っていた。カーティスは、その子が自分の娘であることに気づいて愕然とする。
雑感
なかなか良く出来たミュージカル映画である。
ビヨンセが主役と思っていたが、ジェニファー・ハドソンが新人ながら断然の主役扱いだった。デビュー前の「アメリカン・アイドル」決勝大会で7位だったらしいが、審査員に見る目があるのか?大型新人ではないか。ハドソンの歌声をビヨンセと比べるのは、ビヨンセに酷だ。
この映画の原作であるミュージカルの原案は、スプリームスのメンバーであるメアリー・ウィルソンの自分より優れた歌手を客観的に見てきた伝記である。
スプリームスは1959年「ザ・プライメッツ」としてダイアナ・ロスとメアリー・ウィルソン、フローレンス・バラード、ベティ・マグロウンの四人組で結成された。
ベティが抜けた後、1961年に3人組「ザ・スプリームス」としてモータウン・レコードと契約を結んでいる。モータウン社社長ベリー・ゴーディ・ジュニアのプッシュもあって、1964年から全米シングルチャート1位を続ける。
1967年ダイアナ・ロスに偏った売り出し方を気に入らないフローレンス・バラードは脱退してしまう。その後フローレンスはソロ活動をするが、1976年に急逝する。スプリームスはロス在籍の1969年まで12局連続シングルチャート1位を続けた。ロスのソロ転向後はメアリー・ウィルソンがリーダーとなって1977年まで活動を続ける。
このフローレンス・バラードに相当する役柄をジェニファー・ハドソンが演じている。
この映画はディーナとエフィの葛藤を描いている前半と、二人が和解する後半に分けているが、実際にはエフィに相当するフローレンスは立ち直れなかった。つまり後半は創作である。
メアリー・ウィルソンもダイアナ・ロスに対してよく思っておらず、再結成の噂はギャラの按分方法で揉めて、常に立ち消えになった。
モータウン社長とスプリームスのメンバーに関係があったかについては知らない。しかし社長の力の入れ方を見ると、何かあったかも知れぬと思っている。ジェイミー・フォックスは夢を追った前半と全てを手に入れた後半で別人のようになってしまった。カーティスのような男が共和党支持者になるのだろう。
エディー・マーフィーの勇姿も久しぶりに見た。エディがいると画面が引き締まる。
スタッフ
監督・脚本・振付 ビル・コンドン
製作 ローレンス・マーク
製作総指揮 パトリシア・ウィッチャー
音楽 ヘンリー・クリーガー
歌詞 トム・アイン
撮影 トビアス・シュリッスラー
キャスト
カティス・テイラー・Jr(社長) ジェイミー・フォックス
ディナ・ジョンズ ビヨンセ・ノウルズ
ジェムス・“サンダ”・アリ エディ・マーフィ
マティ・マディソン (マネージャー) ダニー・グローヴァー
エフィ・ホワイト ジェニファー・ハドソン(アカデミー助演女優賞)
ロレル・ロビンソン アニカ・ノニ・ローズ
C.C.ホワイト(ソングライター) キース・ロビンソン
ミシェル・モリス シャロン・リール
ウェイン ヒントン・バトル