「リトル・プリンセス」と呼ばれて皆から愛される少女セーラは、幸せの絶頂で全てを失ってしまう。逆境に置かれても、明るく生きるセーラだったがある日、窃盗の疑いを掛けられる・・・。
製作ダリル・F・ザナック、監督はウォルター・ラング
フランセス・ホジスン・バーネットの原作を基にエセル・ヒルウォルター・フェリスが大胆に脚色している。

主演はアメリカの国民的子役スターであったシャーリー・テンプル。共演はイアン・ハンター、メアリー・ナッシュ。色彩はテクニカラーでスタンダード映像。

1979年公開された日本語版はミュージカルシーンをカットしているので、アマプラの吹替版を見た。

あらすじ

母を幼少期に失いインドで育ったセーラ・クルーは、父が南アフリカとのボーア戦争に出兵するため、上流階級子女を集めるロンドンのミンチン寄宿学校に入学する。ダイヤモンド鉱山を父が所有していると聞かされ、担任のローズ先生や乗馬教師のジェフリーを付けてもらう。それまでプリンセスと呼ばれていたラヴィニアに変わって校長の隣で食事を摂るようになり、リトル・プリンセスと呼ばれ皆から愛される。
お隣にはハミルトンという、お金持ちの頑固な老人が住んでいた。実はジェフリー馬術教師の祖父だったが、反りが悪くお互いに避けていた。セーラの部屋の窓からはインド人の秘書ラム・ダスとペットであるオウムの姿がいつも見えた。セーラはラム・ダスにヒンズー語で挨拶するうちに、親しくなった。

セーラは、誕生日に素敵なパーティーを開いてもらう。そのパーティの最中、父が戦死して鉱山も破綻したと聞かされた校長は、ガラリと態度を変える。その日のうちにセーラは屋根裏部屋に移され、借金のかたに住み込みの使用人として今までの学費を働いて返すことになる。ラヴィニアには虐められるが、下女ベッキーと励まし合って生きていく。偏った態度を取るミンチン校長の元から、弟のバーディー先生や担任のローズ先生が離れてしまう。
その頃からセーラは、父は戦死しておらず怪我をして英国に送り返されて来ると妄想を抱くようになる。バーディー先生は出征後、ロンドンの傷病兵病院に勤めていたため、病院に行って病室を覗かせてもらうが、父の姿は無かった。

寒い夜にセーラとベッキーを気の毒に思ったハミルトンは秘書ラム・ダスに命じて、本人が夢を見ている間に暖かな寝具と美味しい朝食を用意させる。ところがこれを見つけたミンチン校長から盗みの疑いをかけられる。二人は寄宿学校から逃亡するが、ベッキーは転けてしまい捕まる。セーラだけが病院に逃げ込むが、飛び込んだ病室には父親が入院していた。PTSDのせいで娘のことも気が付かない様子だったが、セーラが強く呼びかけると、父は初めて娘と気づき抱きしめるのだった。父の破産も誤解とわかり、セーラは元の生活に戻ることができる。

雑感

この作品は原作とは全く違う。映画では父親が実は生きていたことになっているが、原作ではインドで亡くなっている。原作では、隣人カリスフォードが父の遺産を渡してくれて、学生に戻れるが、映画の隣人ハミルトンは余計なことをする爺さんにすぎない。さらにミンチン先生の姉妹構成が違う。そもそも英国児童文学なのに、映画は随所にミュージカルっぽいアメリカ的演出がなされている。
世界名作劇場「小公女セーラ」(1985)を好きだった人には不向きかもしれない。1983年に一年間NHKで朝ドラとして放送された「おしん」の要素が多く見られるが、それがこのアニメの成功した要因だ。
一方シャーリー・テンプル演ずるセーラは、おしんセーラほどには、我慢していない。もう少し自由で破天荒である。正直言って、率直な態度がイヤミに感じられるところがあった。

ダリル・F・ザナック20世紀フォックスは、1930年代に入って経営不振に陥ったが、天才子役シャーリー・テンプルが現れて映画がヒットして業績もV字回復する。フランクリン・ルーズベルト大統領が、しばしば彼女をスピーチで引用したように、彼女が大恐慌後のアメリカ人の心を救っていたのである。ユニバーサル映画で言えばディアナ・ダービンであり、日本で言えば戦後の美空ひばりのようなものである。

この「小公女」シャーリー・テンプルの初テクニカラー作品である。当時のテクニカラーはかなり高熱を発するライティングが必要だったため、幼い子役俳優を使うには健康上問題があった。シャーリー・テンプルを起用するに当たって、まずライティングの発する熱量を半分に抑える技術革新がなされた。
なおそれ以前の作品(例、「テンプルの軍使」)も戦後カラライズされているが、最初からカラー作品なのは「小公女」からである。
1979年に日本ではミュージカル部分がカットされて、声優により吹き替えた日本語版が公開されている。でもミュージカル場面をカットして見せ場があるだろうか。

彼女の映画女優時代は1931年から結婚する1949年まで続く(その後はテレビ時代、外交官時代と続く)。そのうち1934年(6歳)から1939年(11歳)が全盛期(ピーク・ハイ)である。彼女は普通の子役と違って成長しても美しかったが、アメリカで指導的立場にある、身分階級の高いWASP(白人・アングロサクソン・プロテスタント)に属し、清く正しい振る舞うことを求められたため、お色気シーンはNGになってしまい映画業界では成功できなかった。その点がジュディ・ガーランドやディアナ・ダービン、ミッキー・ルーニーと違った。

ちなみにギャング映画の常連であるシーザー・ロメロが、意外にも友人になりセーラとハミルトン氏を結びつけるインド人秘書ラム・ダス役で出演している。WASP映画ではイタリア系俳優は使用人扱いだ。

スタッフ

製作 ダリル・F・ザナック
監督 ウォルター・ラング
脚本 エセル・ヒル、ウォルター・フェリス
原作 フランシス・ホジソン・バーネット

キャスト

セーラ・クルー  シャーリー・テンプル
乗馬教師ジェフリー リチャード・グリーン
ローズ先生  アニタ・ルイーズ
クルー大尉  イアン・ハンター
ミンチン校長  メアリー・ナッシュ
インド人ラム・ダス  シーザー・ロメロ
校長の弟バーティー・ミンチン  アーサー・トリーチャー
下女ベッキー  シビル・ジェーソン

 

 

 

 

 

テンプルちゃんの小公女 The Little Princess (1939) 20世紀フォックス製作・配給 インターナショナル・プロモーション(IP)1979年日本語吹替版配給

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