自然主義文学の大家エミール・ゾラの半生を描く。
主演はポール・ムニ、共演はジョセフ・シルドクラウトでアカデミー助演男優賞を受賞した。
当時、ワーナーは労働者階級向けの暗黒映画が売りだったが、上級国民をターゲットにしたプレステージ(高級)映画も作っていて、「科学者の道」(パスツールの伝記)でアカデミー主演男優賞を受賞したポール・ムニを再起用してエミール・ゾラの偉人伝映画を撮った。
製作のワーナーブラザーズは、アカデミー作品賞を受賞している。
あらすじ
ゾラとポール・セザンヌは幼馴染で貧乏だが、いつもつるんでゾラは小説をセザンヌは風景画を描いていた。そんなゾラも出版社の就職口を見つけ、仕事をしながらジャーナリストの観点から小説を書き続ける。ゾラの視線は暗い世の中に向けられ、その作風は自然主義と言われるものだった。
ナナという娼婦と出会い、彼女を主人公にした「ナナ」という小説を書いて、大ヒットし、一躍文壇の有名人となる。その後、精力的に書き続け、フランスを代表する作家となった。
1890年代、ドレフュス事件が起きる。初めはゾラは興味がなかったが、事件がユダヤ人に対する差別を陸軍省を揺るがすスキャンダルと知って、ジャーナリスト根性がウズウズする。ついに新聞上でドレフュス裁判の弾劾記事を書いたため、名誉毀損で訴えられる。そこで名演説を行うが、陪審員は政府により圧力を掛けられ、敗訴し収監前にゾラはロンドンに逃亡し、文筆活動を続ける。
首相が交代し内閣改造が行われて、新しい陸軍大臣により参謀本部の粛清が行われてドレフュス事件の再審が決定した。
それによりゾラはパリへ帰還が許される。ドレフュスの名誉回復前の冬の寒い夜、暖炉の配管の故障により一酸化炭素中毒でゾラは死亡する。葬儀では劇作家のアナトール・フランスが、ゾラを讃える弔辞を読んだ。
雑感
前半は歴史を追っているだけで、詰まらない。やはり後半、ドレフュスの登場から物語が大きく動き、法廷劇へと変わる。陸軍に動員された無産階級は暴徒と化し、見ていて恐怖さえ覚える。
ところが、首相と陸軍大臣が進歩派に変わると、ガラリと状況が変化して、暴徒も消えて進歩的な民衆が集まってくる。
この変わり身の速さに笑ってしまうが、それが現実なのだろう。
エミール・ゾラは1840年の生まれ。日本の代表的な自然主義文学者島崎藤村より32歳年上である。やはりジャーナリスティックな視点を持ち、常に現代を見つめていた作家だった。彼がフランス陸軍内部の反ユダヤ主義(親ドイツ派)を倒さなければ、ナチスはもっと容易にフランス全土を占領していたかもしれない。
ただ、アメリカの上級国民に世界史の知識がないのか、全くリアリティがないのだ。普仏戦争とある事件が時系列で逆転していたり、ゾラが死んだのはドレフュスの名誉が回復される直前だったという描写があるが、実際は四年も前だったり。全体がほぼフィクションなのである。そのおかげで脚色者三名がアカデミー脚色賞を受賞した。伝記映画というフィクションと言うことだ。
スタッフ・キャスト
監督 ウィリアム・ディターレ
原案 ハインツ・ヘラルド 、 ゲザ・ヘルツェグ
脚本 ノーマン・ライリー・レイン 、 ハインツ・ヘラルド 、 ゲザ・ヘルツェグ (アカデミー脚色賞受賞)
台詞 アーヴィング・ラパー
撮影 トニー・ゴーディオ
音楽 マックス・スタイナー
ゾラ ポール・ムニ
ドレフュス大佐 ジョゼフ・シルドクラウト (アカデミー助演男優賞受賞)
ドレフュス夫人 ゲイル・ソンダーガード
ゾラ夫人 グローリア・ホールデン
ラボリ ドナルド・クリスプ
ナナ エリン・オブライエン・ムーア
シャルペンティエル ジョン・ライテル
ピカール中佐 ヘンリー・オニール
アナトール・フランス モーリス・カーノフスキー
ポール・セザンヌ ウラジミール・ソコロフ