70年代初頭のカリフォルニアを震撼とさせた未解決連続殺人事件を執念で追い続けた、ある漫画家の足跡をデヴィッド・フィンチャー監督が描いた映画。
原作はロバート・グレイスミスだが、脚本ではグレイスミスのプライバシーにも突っ込んで描いている。製作と脚本はジェームズ・ヴァンダービルト。
主演はジェイク・ギレンホール、共演はマーク・ラファロ、ロバート・ダウニー・Jr。
あらすじ
1969年7月4日の独立記念日、カルフォルニア州バレーホで人妻に誘われた青年がドライブに出た。人気のないところに行くと、ついてきた車の男に拳銃を撃たれ、青年は一命を取り留めたが、人妻は亡くなる。
その後、サンフランシスコ・クロニクル新聞社に手紙が届くが、そこには「ゾディアック」と名乗る男が犯人しか知りえない事実を書き記してあった。また暗号文が添えられていて、一面記事に掲載しなければ大量殺人を行うと手紙には書かれていた。その暗号文は歴史教師によって解かれた。内容は戦前映画「猟奇島」の中で語られたものだった。
9月27日の加州ナパの湖に遊びに来ていたカップルが襲われる。今回は手と足を後ろから縛り上げたうえでナイフで女性を刺殺す。数カ所刺されたが生き残った男性は、黒い覆面を被ったゾディアックの風体を証言する
ゾディアックから手紙が再び届いた2週間後、サンフランシスコは夜間外出禁止令が出されるも、タクシー運転手がワシントン通りの高級住宅街で射殺される。
サンフランシスコ市警ではデイヴィッド・トスキーとビル・アームストロングのコンビがゾディアック事件の捜査を担当する。加州だけの事件のため、FBIではなく各警察本部が独自に捜査をしており、連携がうまくいかない。
それでも浮かび上がった容疑者の名はリー・アレンで、映画「猟奇島」を見ており、辞める直前に友人に「大きな事件を起こす」と宣言していた。しかし、筆跡や指紋は左手で書いたものしか取れず、逮捕は持ち越しとなった。彼は両利きだったのだ。
トスキー刑事たちはリーのトレーラー・ハウスに侵入し、銃器類を発見して、リーが犯人と確信するが、検事は証拠不十分で逮捕状は下さなかった。
エイブリー記者とビル・アームストロングはゾディアックを追う生活に疲れて、それぞれ異動していく。トスキー刑事さえもゾディアックの手紙を捏造した疑いを受けて異動してしまう。
それでも風刺漫画家グレイスミスだけはは事件に対する熱意を失わなかった。1969年の暮れに弁護士に電話をしたゾディアックが「今日は誕生日だから殺人を犯す」とメイドに話していたことを聞き込みで知る。その日は12月18日か19日だったが、リー・アレンの誕生日が12月18日だった。
さらに、バレーホの被害者女性ダーリンの姉リンダが刑務所に収監されていることを知り、面会に行く。違う容疑者の情報を得るために行ったのだが、それが「リー」だったことを聞き出す。
やがてグレイスミスはリー・アレンこそがゾディアックとして、書籍を出版してベストセラー作家となる。
1991年以来、行方不明となっていたバレーホの被害者男性が発見されリーの顔写真を指差し、「十中八九」でこの男が俺を撃ったと証言する。しかし警察が逮捕の準備をしている最中に、リーは心臓発作で他界する。 2004年のDNA鑑定でリーを犯人とする鑑定結果は出なかった。
雑感
アメリカの劇場型犯罪の一つとして有名な未解決事件。容疑者は病死を遂げたそうだが、サンフランシスコ市警ではリストから外されず35年間捜査が続けられた。
なぜリック・マーシャルの面通しをリンダにさせなかったのか、よく分からなかった。確かに被害者ダーリンは容疑者リー・アレンをストーカーとして考えていたようだが、その事実に拘りすぎたのではないか?
デヴィッド・フィンチャー監督の独自性はあまり見られない。製作サイドが強い映画だったのだろう。
だから、映画としての面白味は殆どない。ラストあたりに主人公が単独調査を始めて、怖い目に遭うシーンも安っぽいホラー仕立てである。デヴィッド・フィンチャー監督がわざわざ撮る必要のないシーンだろう。
しかしセミ・ドキュメンタリーなのだから、仕方がない。下山事件もいまだに未解決だが、その映画化は終盤ほどもたついていた。もっと社会批判精神旺盛な監督を起用した方が良かった。
スタッフ
監督 デヴィッド・フィンチャー
脚本 ジェームズ・ヴァンダービルト
製作 ジェームズ・ヴァンダービルト 、 マイク・メダヴォイ 、 アーノルド・メッサー 他
原作 ロバート・グレイスミス
製作総指揮 ルイス・フィリップス
撮影監督 ハリス・サヴィテス
音楽 デイヴィッド・シャイア
音楽監督 ジョージ・ドラクリアス 、 ランドール・ポスター
キャスト
漫画家グレイスミス ジェイク・ギレンホール
デイブ・トッシ刑事 マーク・ラファロ
ウィリアム・アムストロング刑事 アンソニー・エドワーズ
ポール・エイブリー ロバート・ダウニー・Jr.
メルビン・ベリー ブライアン・コックス
アーサー・リ・アレン ジョン・キャロル・リンチ
メラニー(後に妻になる) クロエ・セヴィニー
ジャック・ムラナックス巡査部長 イライアス・コティーズ
ケン・ナロウ ドナル・ローグ
マティ・リ警部 ダーモット・マローニー