監督篠田正浩が長年の夢を実現させた歴史映画。戦争へ突き進む日本に潜入した、ソ連のスパイ・ゾルゲと彼の野望に巻き込まれる尾崎秀実、宮城与徳らを軸に、激動の昭和初期から太平洋戦争までを描く。

主演は英国人イアン・グレン
共演は本木雅弘、葉月里緒奈、永澤俊

あらすじ

1931年満州事変の頃、大阪朝日新聞記者・尾崎秀実は上海に駐在していた。そこでリチャードと名乗る男と知り合う。二人は共通の友人アグネス・スメドレーを通して知り合う。尾崎は日本が中国に進出することに危惧を抱いていた。リチャードの正体はソ連のスパイ・ゾルゲ(ドイツ人)であり、記者仲間を作り巧みに情報を得てソビエト共産党に報告していた。ところが、上海事変が起きて三人に帰国命令が出て、三人はバラバラになった。

1933年ゾルゲは、ソ連から日本に派遣された。早速、ドイツの記者としてドイツ大使館付属武官オットーと親しくなった。オットー夫妻は仮面夫婦だったが、ゾルゲが妻の愛人になった。それは、オットーも認めていることだった。
1934年に再会した尾崎とゾルゲは、旧交を温める。当時は尾崎も薄々、ゾルゲの正体に感づいていた。ゾルゲは、政府へも太いパイプを持つ尾崎を情報源として利用する代わりに、対価としてソ連側の情報も流した。
1936年2月26日、二・二六事件が起きて、ドイツ大使館はクーデターかと緊張が走る。ゾルゲは事件の最中、大使館内にいたが、落ち着くと日本陸軍省のネットワークを使って事件の詳細を分析し、ドイツにもソ連にも報告してスパイとしての評価を上げた。
オットは、大使に昇進し、話をする時間がなくなった。
東京朝日新聞から満鉄に移っていた尾崎は、近衛文麿首相の嘱託となる。ソ連は、早い段階で日独対ソ軍事同盟が成立するのではないかと疑っていた。しかし1939年の時点では、軍事同盟に対しては、ソ連を刺激したくなかったので日本は消極的だった。ドイツも対英国戦を優先していると、ゾルゲは分析し、モスクワにレポートを提出する。
その結果、1939年8月に独ソ不可侵条約が成立し、9月にドイツ軍のポーランド侵攻が始まり、第二次世界大戦が開始された。
戦争が始まり、ゾルゲはオットー大使から重用されるようになる・・・。

雑感

篠田正浩監督は、長めの映画を撮っていたが、最終作は三時間映画になった。
歴史通りに淡々と進んでいくので長くは感じないが、歴史マニアに撮って発見が少なくて、面白みがない。
スパイにとって、女との肉体関係を利用して情報を引き出すことが重要な任務である。ゾルゲも相当なスケコマシであった。

最後は、あっさりしていた。スパイは、いつの時代も捨て駒なのだ。気の毒なのは、世界平和という理想を餌に、巻き込まれた尾崎秀実だ。

スタッフ

監督、原作、製作、脚色  篠田正浩
製作  岩下清ほか多数
プロデューサー  鯉渕優
脚色  ロバート・マンディ
撮影  鈴木達夫
音楽  池辺晋一郎

キャスト

リヒャルト・ゾルゲ  イアン・グレン
尾崎秀実(新聞記者、満鉄職員)  本木雅弘
吉河光貞(検事)  椎名桔平
特高”T” 上川隆也
三宅華子(愛人)  葉月里緒奈
山崎淑子  小雪
尾崎英子(尾崎の妻)  夏川結衣
宮城与徳(画家)  永澤俊矢
近衛文麿(首相)   榎木孝明
オイゲン・オットー(ドイツ大使館付き武官) ウルリッヒ・ミューエ
アグネス・スメドレー(米国新聞記者)  ミア・ユー
マックス・クラウゼン(運転手)  ヴォルフガング・ゼヒマイヤー
ブランコ・ド・ヴェケリッチ  アーミン・マレフスキー
カーチャ(ゾルゲの妻)  キャサリン・フレミング
ヘルマ・オット(オットの妻、ゾルゲの愛人)  カレン・フリージッケ
東條英機  竹中直人
近衛千代子(文麿の妻)  岩下志麻
西園寺公望  大滝秀治
杉山元(陸軍将軍)  麿赤兒
三宅華子(1990年)  加藤治子
ゾルゲの墓守  佐藤慶
中橋中尉(2.26事件の皇道派青年将校)  石原良純
昭和天皇  花柳錦之輔
西園寺公一(嫡男)  吹越満
牛場友彦(文麿の秘書)  鶴見辰吾
能楽師/善知鳥  観世榮夫
アンナ・クラウゼン  レナ・レッシング

***

1940年末、ドイツ大使館では独ソ戦開始の機運が高まってきたことに気付いていた。ところがソ連政府は、ゾルゲの意見もオットーの意見も無視してしまった。そのためにドイツが大部隊を投入して攻め込んだ緒戦、ソ連は大敗した。
1941年に入ると、日本の参戦も時間の問題になってきた。尾崎は御前会議で東南アジアへの南進論が主流になったことを掴み、ゾルゲはオットーに進言し、これをドイツに報告した。

そのころ日本の警察は、ゾルゲを疑い出し、彼に関わるネットワークを明らかにする。その中で宮城という画家は左翼思想に被れていた。彼を逮捕すると、スパイ仲間として尾崎とゾルゲの名前を白状した。
ゾルゲも尾崎も、日米開戦直前に逮捕された。
日本は、捕虜と交換にするためゾルゲをソ連に返還しようとしたが、ソ連が断ってきた。ソ連はゾルゲを二重スパイと考えていたのだ。モスクワにいるエカテリーナ(ゾルゲの2番目の妻)は、収容所に送られる。
そしてゾルゲと尾崎は、1944年11月7日に処刑された。
無縁仏となったゾルゲの遺骨は、戦後発見され、日本の愛人花子が墓を建てて弔った。

 

 

スパイ・ゾルゲ 2003 スパイ・ゾルゲ製作委員会製作 東宝配給 篠田正浩監督の最終作

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