大東映画の第一回作品。
会津磐梯山を背景に、日本人娼婦と黒人MPの間に生まれた混血児の姉弟の成長を叙情豊かに描く社会派映画。
水木洋子のオリジナル脚本を、今井正が監督した。撮影は今井と前作「夜の鼓」でコンビを組んだ中尾駿一郎。
主演の姉弟役は、高橋恵美子(後に歌手高橋エミ)と奥山ジョージ(後に歌手ピート・マック・ジュニア)。
共演者は北林谷栄の他に超豪華ラインアップ。白黒映画。
あらすじ
キクは小学六年生で、体は大きいが頭が少し弱い。弟イサムは四年生で悪戯小僧だ。祖母しげ子は、姉弟を赤ん坊の頃から面倒見てきた。この子達の母親はしげ子の娘だが、早くに亡くなっていた。しげ子も年を取り、今や暴れん坊の二人を手におえなくなっていた。
そんなとき混血児をアメリカ人が養子に迎えてくれるという噂を聞く。
イサムは学校で黒ん坊と蔑まれる。小野寺先生は、贔屓をせずにどちらの側の話もよく聞いてくれた。
秋祭になって、しげ子や隣人夫妻に連れられて鎮守の森へ行った。キクは、揶揄われるので、その場から逃げ出そうとするが、イサムは逃げ場を失って柱に登り出して、大人に連れ戻される始末。
国際養子縁組を促進する組織がイサムを、アメリカの農園主に紹介したところ、引き取りたいと言って来た。イサムは、アメリカに行けると言われて喜ぶが、キクは哀しい。出発になって、イサムは不安になり、行くのを嫌がる。しかしイサムを男が離さなかった。一方キクは、自分が日本では受け入れられない存在だと知れないと不安を感ずる。
キクが子守していた赤ん坊をちょっと荷台に置いて、男の子と取っ組み合いをしている最中に松田先生に見つかる。学校をサボったのがバレてしまい怒られるが、先生はキクの不安を聞いてくた。
ところがキクが忘れていたため、赤ん坊が行方不明になってしまい、赤ん坊の母はカンカンになる。赤ん坊は見つかるが、キクは悪かったと素直に謝れない。しげ子は村人たちの前で、そんなキクを「尼寺に行ってしまえ」と言って引っ叩く。キクはさらにショックを受ける・・・。
雑感
昭和34年キネマ旬報ベストテン第一位・日本監督賞(今井正)、毎日映画コンクール大賞・脚本賞(水木洋子)・女優主演賞(北林谷栄)・特別賞(高橋恵美子、奥山ジョージ)、ブルーリボン賞作品賞・脚本賞(水木洋子)、主演女優賞(北林谷栄)受賞。
祖母役の北林谷栄は当時まだ40歳だったが、前年の「楢山節考」の田中絹代に次いで自分の歯を抜いて70歳の役を演じきった。
主役の二人は、オーディションで東京都荒川区の小学六年生高橋恵美子と横須賀の小学四年生奥山ジョージが選ばれ、今井正監督のもとで厳しい特訓を受けた。
しかし都会っ子の二人は、黒人差別を意識したことがあまりなかったので、芝居を甘く見て演じていた。従って撮影スピードは上がらなかった。
ところが脚本家水木洋子に旅館で一晩説教され、田舎の差別意識の中で初めて自分のアイデンティティと向き合うことになった。
だから映画の途中から、二人の表情が変わるのだ。
素人の子供を何人も撮ってきた今井監督としても、人種問題が絡むため、大変だったと思う。
先生に子供たちは夢を持てと口を酸っぱくして説教されるシーンがあるが、この二人は共に後に歌手になるという夢を見つけて実現させた。でもこの撮影中から歌手を目指そうと思っていたわけではあるまい。
その結果、何かを失おうとも好きなことを好きなだけやってみることがその人の個性だ。
まだ好きなことを見つけられなくとも、どこかにあると信じてほしい。
イサムがその後どうなったか描かれていないが、果たして篤志家の白人に育てられたのか、南部で奴隷扱いされたのか???
脇役に大物俳優が続々登場するが、ワンシーンしか映らない人は、ほとんど手弁当だ。
それだけ戦後14年経って、この問題が大きくなっていた頃なのだろう。みんながパンチの効いた歌手青山ミチになれたわけではないのだ。青山ミチだって、ああいう形で芸能界から干されたわけだし。
スタッフ
製作 角正太郎、伊藤武郎
企画 市川喜一
脚本 水木洋子
監督 今井正
撮影 中尾駿一郎
音楽 大木正夫
キャスト
高橋エミ子: 川田キク
奥の山ジョージ: 弟川田イサム
北林谷栄: 祖母しげ子
滝沢修: 養子調査員
宮口精二: 医者
東野英治郎: 交番巡査
清村耕次: 隣人の清二郎
朝比奈愛子: 奥さん きみえ
織田政雄: イサムの担任小野寺
荒木道子: キクの担任松田
三島雅夫: 劇団の座長
賀原夏子: 巫女
長岡輝子: 尼僧
三國連太郎: 新聞記者
高原駿雄: 新聞社カメラマン
中村是好: 兎吉
殿山泰司: 組合員
多々良純: 客の呼び込み
三井弘次: 雑貨屋
岸輝子: 大家のおかつ
***
翌日の夜明け、キクが家から消えた。しげ子が探し回り、納屋に入ると、キクが首吊り自殺に失敗して、ヘタレ込んでいた。しげ子は、キクを抱きしめて、泣いて叩いた。すると、キクのスカートを赤く染めていた。ついに初潮が来たのだった。
しげ子はめでたいと喜び、キクの弁当に赤飯を入れた。「ばあさんと一緒にいたいのなら、一人前の百姓になれ、学校さ行かなくてもいい」と言って、しげ子はキクを畑に連れて行った。登校する子供たちがからかっても、「年頃だから」と、キクは自慢げに歩いていった。