丸山明宏(現在の美輪明宏)が銀座のクラブ「銀巴里」の専属歌手として世に出てきた頃、シスターボーイという言葉が流行った。女性的な男を指す言葉なのだが、暗にホモセクシャルを揶揄していた。(実際はそう単純でない) このシスターボーイの語源と言われているのが、この映画あるいは原作となった舞台劇である。
元々は同性愛問題をテーマにしたブロードウェイ演劇であり、デボラ・カー、ジョン・カー、リーフ・エリクソンが主演して大ヒットした。
MGMで映画化する際にも、三人を同じ役柄で起用し、原作者ロバート・アンダーソンが脚本を書き、ヴィンセント・ミネリ(後に「恋の手ほどき」でアカデミー監督賞受賞)が演出を担当している。
しかし映画界には当時「ヘイズコード」があった。それには性的倒錯(精神疾患の一種)を描いてはならないとハッキリうたっていた。同性愛は当時、性的倒錯として扱われた。そこで映画制作者はこの舞台劇をどういう形で映画化したのか。
(ただし1973年からアメリカで同性愛は性的倒錯と見なされなくなった。日本の厚生省は94年から)
あらすじ
トムは、久しぶりに彼が住んでいた学生寮のホーム・カミング・デーにやって来た。彼のいた部屋に通してもらい、窓から風景を眺めると、様々なことを思い浮かんだ。
戦後、この学生寮はトムの父親もかつて住んでいたところで、バンカラな校風で通っていた。舎監のレイノルズ先生もガッチリした体つきで如何にも体育会系だった。ところがレイノルズ夫人(ローラ)は学生達を三時のお茶に誘う、優しくて美しい人だった。(要するにまるで美女と野獣だった)
ある日、新入生トムはローラら教授夫人達にお茶に呼ばれて、裁縫の腕を披露している姿を男子生徒に見られてしまう。それ以来、彼はシスターボーイ(オカマ)と呼ばれ、いじめの対象になる。レイノルズ先生も、トムが夫人の亡くなった前夫にそっくりだったため、あからさまに嫌った。
同室のアルだけは彼の気持ちを汲み、苛めに加わらなかった。アルはトムに、女の子をデートに誘い、男を上げてやれと励ます。そこでトムは食堂のウェートレスをしているエリーの部屋に夜行くが、結局怖じ気づいてしまい、彼女に馬鹿にされると、刃物を振り回して警察に突き出される。
結局、彼は放校となるが、転校先で文学の才能を花開かせることが出来て、今や人気作家となって結婚していた。久しぶりにレイノルズ夫妻に挨拶しようと、夫妻の部屋に立ち寄ると・・・
雑感
同性愛の問題をどのように誤魔化すかが映画制作の焦点だと考えていたが、唖然とするほど全く的外れだった。
これは、もう叙述ミステリーと言って良い。監督と脚本家に完全にしてやられたのだ。
流石にこの作品で謎解きは失礼なので省略するが、上段の構えから胴を抜かれるどころか尻を蹴られた気持ちだ。
こういう感情を最近感じたことがあったなあと思ったら、テレビアニメ「ケムリクサ」第11話だった。
スタッフ・キャスト
監督 ヴィンセント・ミネリ
製作 パンドロ・S・バーマン
原作戯曲・脚本 ロバート・アンダーソン
撮影 ジョン・アルトン
音楽 アドルフ・ドイチェ
配役
トム ジョン・カー (「哀愁物語」「南太平洋」)
舎監夫人ローラ デボラ・カー
舎監ビル リーフ・エリクソン (「アラビアンナイト」)
父ハーブ エドワード・アンドリュース
ルームメートのアル ダリル・ヒックマン
ウェイトレスのエリー ノーマ・クレイン