日活や新劇の若手俳優の腕比べが見られる、フランス映画のような群像劇

伊藤整の原作小説を中平康監督が小粋なラブロマンスに仕上げた。

主演は劇団俳優座代表の千田是也、娘役に左幸子、その恋人役に葉山良二、洋品店の店員役に渡辺美佐子、そして後半に少し出るだけだが、芦川いずみが共演する。

 

Synopsis:

戦前に東京芸大を卒業した杉本昌吉は、今や銀座杉本洋品店の店主である。一人娘秀子は成人して笛吉(波多野憲)率いる前衛生け花グループに属し毎日楽しくやっている。対照的に若い洋品店員順子は気が付くのだが、客あしらいがドライで化粧っ気のない女である。彼女が売り場に出てから売上が下がった。

昌吉は空き家になっている二階に画廊を開くことにした。娘はグループの生け花の発表会を開きたがるが、昌吉はこけら落としは華やかに行いたい。そこで学生時代の親友である前衛洋画家岡本太郎東郷青児らの展覧会を開くことにする。次の機会に娘に発表会を開かせるつもりだが、使用料はちゃんと取ると宣言する。

秀子属する生け花グループだけでは赤字必至なので、松山小平率いる現代絵画グループと合同発表会の形を取る。秀子と小平は喧嘩もするが、次第に親密になる。それを笛吉は面白くない。

岡本太郎らの展覧会が終了した日、小平や笛吉が作品を搬入するが、その中でひときわ人目を引いたのが田所の描いた洋画だった。田所はシラミを湧かしているような不潔な青年だったが、なぜか順子に「(美人なのだから)もっと化粧をしなさい」と言う。順子はそれ以来シラミを移されても田所のことが気になって、化粧をすると下宿の奥さんにどこの美人と驚かれる。それ以来、杉本洋品店の売り上げも上がり始める。

合同発表会は評判になり田所の作品だけが全部売れる。しかし肝心の田所は放浪画家よろしく姿を消したままだ。他の作品が松山家に埋もれていると知れて、小平の妹章子が絵を画廊に運んでくる。昌吉は章子の顔を見て驚く。初恋の人栄子にそっくりだったのだ。田所はと言うと、ひょっこり順子の部屋に現れて金を無心するのだった。もう大金持ちになったことも知らずに。

小平と秀子の関係を怪しんだ昌吉は、知人に将来性のあるサラリーマン二人(宍戸錠、二谷英明)を紹介してもらい、合同発表会終了後のパーティーに秀子の見合い相手として招待する。しかし秀子は父の謀を知ってか知らずか二人を適当に相手しておいて、チークタイムには小平と抱き合っている。

章子を気に入った昌吉は、翌日から画廊の受付を任せる。聞けば松山家はやはり初恋の人の嫁ぎ先で、小平と章子は栄子の子どもだった。

売れっ子画家になった田所は順子と無事結婚する。結婚式の夜、章子は飲み過ぎて杉本家に一晩泊まることになる。章子の寝顔を見ているうちにムラムラした昌吉はつい接吻してしまう。我に返った昌吉は慌てて自室へ逃げ帰る。実は章子は起きていて、一度で良いから昌吉と接吻したかったと亡き母が書いた手紙を思い出していた。

翌日、昌吉も章子も何事もなかったように、店に出て行く。章子が窓から覗いていると、昌吉は保険外交員コト子と連れ添って、ニコニコして向かいの喫茶店に入っていった。もう昨日のことは忘れたらしい。

 

 

Impression:

この映画で特筆すべきは、重要人物それぞれがそのときの思っていることを敢えて演技で感情を視聴者に伝えるのでなく、独白形式で語るところである。それがこの映画にヌーベルバーグ以前のおしゃれなフランス映画の趣を持たせている。

女性陣で最も出番が多いのが左幸子(1930年生)、次いで渡辺美佐子(1932年生)だ。
左は初めから若く美しい。一方、渡辺は最初は陰気な顔をしていて、どう見ても左の方が年下だ。しかし田所役の安井昌二に化粧をしろと言われてから急に明るく美しくなる。この変身ぶりには目を見張る。二人を比べると、個人的には演技面でも容姿的にも渡辺が好きだ。

しかしその二人も日活のスター・芦川いづみ(1935年生)が現れると途端に影が薄くなる。仕方ないけれど、持って生まれた芦川のスター性もあった。

また大女優轟夕起子(1917年生)が千田是也に惚れる保険外交員の未亡人役で登場、コメディリリーフ的な立場だ。

千田是也の伝なのか、何と岡本太郎、東郷青児先生はご本人直々の登場で演技までして下さる。さらに台詞はなかったが、前衛生花で有名な勅使河原流家元の勅使河原蒼風(映画監督でもある勅使河原宏の父)までノンクレジットでカメオ出演している。もちろん日活はお車代しか出していないだろう。

黛敏郎の音楽も小洒落ていた。

総括すると、非常に楽しい映画だ。

 

 

Staff/Cast:

監督 中平康
製作 高木雅行
原作 伊藤整
脚色 大橋参吉
撮影 山崎善弘
音楽 黛敏郎
美術 松山崇

出演
千田是也  主人公杉本省吉
左幸子  娘杉本秀子  妻杉本優子 (二役)
安井昌二  画家の卵田所草平
渡辺美佐子  店員竹山順子
葉山良二  画家の卵松山小平
芦川いづみ  松山章子 三谷栄子(二役)
轟夕起子  保険外交員園谷コト子
小沢昭一  店員大橋参吉
長岡輝子  土方竜(生け花の師匠)
武藤章生  綾部得太郎(前衛生け花)
中原早苗  桜木光子(前衛生け花)
二谷英明  見合い相手・戸越
宍戸錠  見合い相手・安井
天本英世  画家の卵、池上恭三
殿山泰司  喫茶店のマスター戸部
浜村純  順子の下宿の主人
東郷青児 本人(特別出演)
岡本太郎 本人(特別出演)
勅使河原蒼風 本人(Uncredited)

 

誘惑 1957 日活 中平康監督作品 —左幸子、渡辺美佐子が美しいが、芦川いずみがもっと美しい

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