隣人愛の大切さを全米に説いて有名になったホームレスの男を利用して、スポンサーの大富豪は新党立ち上げを計画するという風刺映画

監督フランク・キャプラ、脚本ロバート・リスキンのコンビによる最後の作品。
撮影はジョージ・バーンズ、音楽はディミトリ・ティオムキン

主演はゲイリー・クーパー、バーバラ・スタンウィック
共演はエドワード・アーノルド、ウォルター・ブレナン、ジェームズ・グリースン。白黒映画。

ストーリー

ブルテン新聞社は大富豪ノートン氏に買収されリストラが行われた。記者のアンも対象になったが、彼女はジョン・ドウ(名無しの権兵衛)の署名で「社会に抗議するため、クリスマス・イヴの真夜中に公会堂の上から飛び下りる」という自殺予告を書く。記事は全米で話題になり、コネル編集長は、ジョン・ドウ関係の記事を書き続けると言う条件で、彼女を復職させる。
適当な人間をジョン・ドウに仕立てるために新聞社がホームレスを募集すると、ジョン・ウィロビーという草野球の元投手が現れる。彼は、肘を壊して相棒の「大佐」と放浪生活を送っていた。しかし、アンに一目惚れして、ジョン・ドウになり済ますことを承知する。そして、彼女の書いた「隣人愛」についての原稿(彼女の亡くなった父の思想)を見ながら、話題のジョン・ドウとしてラジオの全国放送で演説を打つ。

しかし、ジョンにとってホテル生活は非常に窮屈だったので、再び「大佐」と西部へ放浪の旅に出た。しかし、立ち寄った街では既にジョン・ドウ・クラブが設立され、彼が希望の星になっていることを知る。大佐は茶番だと言うが、彼は使命だと思い、アンと一緒に全国を遊説して回る。
やがて、ジョン・ドウ・クラブが各地で立ち上がり、全米大会が開かれることになる。その直前にジョンは、コネル編集長からこの運動のカラクリを教えられる。実は、ノートン氏が大統領選挙に打って出る為の道具にされていたのだ。彼はノートン宅に乗り込み、大会で真相を暴露すると言い放つ・・・。

雑感

この映画で、フランク・キャプラは、群集心理をマスコミなどが容易に操作して戦争に人々を向かわせるということを訴えたかったのだ。

1941年と言えば、喜劇監督として30年代に三回もアカデミー監督賞を受賞したフランク・キャプラ(35年から39年までアカデミー会長)がアメリカ全土を覆う戦争の不安に応えて、コメディから風刺劇(群衆)やブラック・ユーモア(老嬢と毒薬)に挑戦した年だった。おそらく、チャールズ・チャップリンの「モダンタイムズ」「独裁者」に刺激された部分もあったと思う。

では1941年当時のアメリカ人は、「隣人愛」に飢えていたのか?確かに移民に紛れてスパイが入り込んでいたから、日本人移民も強制収容所送りになったのだし、全米が「秋深き隣は何をする人ぞ」という気分だったのだろう。だから「隣人愛」を求める群集心理や宗教が生まれてもおかしくない。
そして、これに付け込み、大量寄付をすることにより選挙戦に利用しようとする輩がいるのも、当然だ。アンは生活のために、ノートンのボーナスと交換にノートンを支持する演説原稿を書く。
しかし、ジョンは人々に政治不介入を誓っていたため、スポンサーのノートンと真っ向から衝突して、袂を分かってしまう。ノートンは群衆を扇動し、ジョンが偽物だったと言いふらす。

最期の公会堂屋上のシーンは、いくつかの脚本案があったと思う。しかし、自殺を煽る風潮は禁じられていたから、ああいう結末になった。これが、1960年以降のニュー・アメリカン・シネマ以降なら、きっと自殺していると思う。あるいは、教組が自殺したところから映画は始まり、回想シーンに移っても傑作が作れそうだ。

キャプラ監督の「オペラ・ハット」に主演したゲイリー・クーパーは、芸達者なバーバラ・スタンウィックとの共演を望んでいたので、一も二もなくOKした。1941年中にはハワード・ホークス監督の「教授と美女」でも二人は共演した。
バーバラ・スタンウィックは、何時もながらすごい演技力を見せる。ゲイリー・クーパーは、彼女の前ではただの大根役者だった。同年の「教授と美女」で、バーバラ・スタンウィックはインテリからガラリと変わって品の悪いマフィアの愛人役を演じていたが、ゲイリー・クーパーはシャイな教授役ではなかった。クーパーはいつもクーパーだった。

スタッフ

監督、製作  フランク・キャプラ
脚色  ロバート・リスキン
原案  リチャード・コネル
原作  ロバート・プレスネル
撮影  ジョージ・バーンズ
音楽  ディミトリ・ティオムキン

キャスト

ジョン・ドウ  ゲイリー・クーパー
アン・ミッチェル  バーバラ・スタンウィック
D.B.ノートン  エドワード・アーノルド
「大佐」  ウォルター・ブレナン
ミッチェル夫人(アンの母)  スプリング・バイントン
カネル(編集長)  ジェームズ・グリースン
ロイェット市長  ジーン・ロックハート
テッド・シェルダン  ロッド・ラロック
ビーニー(会員)  アーヴィング・ベーコン
バート  レジス・トゥーミー
スパーパス(頑固者地区会長)  J・ファーレル・マクドナルド
エンジェルフェイス  ウォーレン・ハイマー

 

***

ジョンは、急いで会場に行く。しかし、ノートンは新聞各社にジョン・ドウが偽物であるという記事を書かせた。新聞は会場でもばら撒かれて大騒ぎになる。そして、ジョンのマイクの電源が切られて、彼が発言する前に会場から追い出されてしまう。
それからジョンは、人々の前から姿を消した。クリスマス・イヴの夜にアンは、彼が自殺する気ではないかと思って公会堂に駆けつける。ノートンらも屋上で待ち伏せして、ジョンを止めようとしていた。しかしジョンは、隣人愛を尊ぶジョン・ドウ・クラブを守るためにも、自分が死ぬ気だった。アンは「貴方が死ぬなら私も死にます。愛してます」と言って、気絶してしまう。ジョン・ドウ・クラブの会員も集まってきて「死なないで」と懇願した。やがて、もう一度草の根活動から始めようと決心したジョンは、アンを抱いて病院へ急いだ。

群衆 Meet John Doe (1941) フランク・キャプラ・プロ製作 ワーナー・ブラザーズ配給 NCC国内配給[1951] ゲイリー・クーパー主演の傑作映画

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