長崎・佐世保での様々な差別の有様を描き、長編小説であるが故に芥川賞を落選した、井上光晴の原作小説を熊井啓と原作者が共同で脚色して、熊井啓が監督した社会派映画
主演は鈴木瑞穂紀比呂子、寺田誠(麦人)。
共演は松本典子奈良岡朋子、北林谷栄、宇野重吉その他劇団民藝、前進座。白黒映画。

あらすじ

昭和一六年、宇南少年は母を知らず炭鉱労働者である父の背中を見て育ち、いずれはここを出ていく夢を抱いていた。しかし少年は朝鮮人の朱宝子をレイプしてしまい、妊娠させる。姉の朱宰子に責任を追及されるが、少年は「俺は知らんよ」と惚ける。宝子は姉にも責められ、自らおろそうとして崖から転落するが当たりどころが悪くて死んでしまう。宰子は、それ以上少年を責めなかった。少年は逃げるようにやがて長崎医専に進学するが、1945年8月9日の原爆投下で父を失う。

戦後、宇南は共産党に一旦入党するが、農村に潜伏中亡くなった仲間の恋人英子と結婚して転向し、佐世保で診療所を開業していた。彼の往診患者である少女家弓安子は、戦後何年か経ってから生まれたが、原爆病と思われる症状を発した。母親の遺伝によるものと考えられたが、娘の母親光子は被爆者であることを認めようとしない。娘の父親はその頑迷さにほとほと愛想が尽きて、一年前に別れていた。
佐世保には、海塔新田(架空)と呼ばれる長崎原爆の被爆者が肩を寄せ合って生きている集落があり、周囲から強い差別を受けていた。光子の抵抗も、被爆者と思われて周囲から爪弾きにされるのを恐れてのことだった。宇南も父を爆心地で探し求めた経験があり、放射能の被害を受けていた。さらに宇南の実母は被差別部落出身者であったことや朱宝子に対する罪の意識などから、子供を作る資格がないと思い込んだ。妻英子は、何度妊娠してもその度に降ろさせる夫と喧嘩が絶えなかった。

被差別部落出身の福地徳子が強姦される。事件は警察沙汰になり、被差別部落全体に緊張が走った。徳子の学校の先輩である、海塔新田出身の不良青年津山信夫に警察は容疑を掛けた。信夫は浦上天主堂のマリア像を破壊した「前科」があったからだ。しかし警察は、確証が得られず釈放した。
徳子は一人で、宇南の元へ暴行された証明書の作成を依頼に来た。事情もわからずに書けないと頑なな態度を取る宇南に対し、徳子は「言ってもわからんとです」と怒りを打つけて立ち去る。

警察は、信夫に容疑を掛けた理由として徳子の証言を挙げていた。そこで信夫は徳子につきまとったが、徳子によればその証言は警察のでっち上げだった。犯人は左手にケロイドがあったのだ。信夫は、該当する人物として同じ集落に住む宮地真の名を挙げる・・・。

雑感

二流のホラー映画よりはるかに恐ろしい、素晴らしい社会派映画だ。
宇南の朝鮮人差別、光子の被爆者差別、宮地による部落差別があり、そして集落同士の憎しみ合いがついに壮絶な殺人事件を起こしてしまう。その結果、通い合いかけた徳子と信夫の心は二度と繋がらなくなる。
原作小説からして、恐ろしいほどに救いがない。1963年度の芥川賞は田辺聖子の短編小説「感傷旅行」が受賞するが、小説の出来としては「地の群れ」が圧倒していた。ノミネート作になった「地の群れ」があっさり敗れるのは、1964年東京オリンピックを前にして、日本中が浮かれていたからだろう。

白黒映像にすると、一段と凄みが増す。例えば、一羽の鶏をカゴに入れてネズミの群れに襲わせ、バラバラにするシーンはグロテスクだ。
ところが次のシーンでは、そのネズミの群れを一瞬にして火炎放射器が焼き殺すのである。合成映像もあるけれど、ネズミが焼殺されたシーンはリアルだ。おそらく原爆や原発爆発の暗喩だろう。鶏(英米人)を食い物にしたネズミが、我々日本人なのかもしれない。

それから松子役の北林谷栄の虐殺シーンも凄まじい。まるでネズミに喰われるかのようにして死んでいくのである。

差別いじめ、虐待)と言うのは、人間である以上必ず持っている原罪である。原罪とは、神の許しなくリンゴを食べたことでなく、蛇のせいにしたことである。自分と違う(区別した)ものに責任を押し付けたから差別になる。イエスはあくまで自分の責任として背負い込んだから、神の子になったのだ。

原爆に破壊された浦上天主堂を、かつては広島原爆ドームのように永久保存する声もあったらしい。確かに残しておいた方が、日米お互いの心に大きな古傷を残すことができただろう。新しい天主堂を建てたからと言って、それ以前の野蛮な行為は消えはしないのに、日本人もアメリカ人も記憶から消したつもりになっている。

徳子役の紀比呂子は当時19歳。女優三條美紀の娘で、中学生から劇団若草に入団し女優を目指した。すでにドラマには出演していたが、映画の重要な役は初めてである。劇団民藝や前進座と言う凄い面子を前に堂々と演技していた。
ちなみにこの演技が評価されて、テレビドラマ「アテンション・プリーズ」と「時間ですよ」と言う大ヒット番組にレギュラー出演して、一気に人気スターになる。

信夫役の俳優寺田誠は、のちに声優に転じて「麦人」と名乗る。寺田誠は芸能一家の出身で、前身座女形五代目嵐芳三郎の息子、六代目嵐芳三郎は兄、文学座の寺田路恵は姉である。
麦人になってからの有名な仕事はパトリック・スチュアートの吹き替えである。アニメでも主人公の祖父とか悪の首領の役柄で必ず出てきて、「うみねこのなく頃に」では祖父役の右代宮金蔵の声でお馴染みだ。

奈良岡朋子は、この作品と「どですかでん」の出演によって1970年度毎日映画コンクール女優助演賞に輝いている。

話は変わるが、ウルトラセブン第12話「遊星より愛をこめて」が放送禁止になったのは、スペル星人を小学館が1970年に発売した小学2年生の付録で「被曝星人」と表現したことから問題視されたからだ。
しかし「地の群れ」のような純文学やATG映画なら被爆やケロイドを扱うことが許されて、特撮ドラマだと許されないと言うのは差別ではないか?
もちろん、ウルトラセブンの表現手法が稚拙だったかもしれない。しかし表現すべきことは誰でもわかるような単純かつ深い内容だ。せめてリメイクを許してもらえまいか。

スタッフ

製作  大塚和、高島幸夫
原作・脚色  井上光晴
脚色・監督  熊井啓
撮影・スチル  墨谷尚之
音楽  松村禎三(毎日映画コンクール音楽賞受賞)

キャスト

宇南医師  鈴木瑞穂
妻英子  松本典子
津川信夫  寺田誠(のちに麦人
福地徳子  紀比呂子
家弓光子(安子の母)  奈良岡朋子(毎日映画コンクール女優助演賞受賞)
安子の父勇次  佐野浅夫
徳子の母松子  北林谷栄
宮地の父  宇野重吉
宮地真  岡倉俊彦
朱宰子  水原英子
信夫の祖母金代  原泉
駒一  坂東調右衛門
仲川  村田吉次郎
国領  杣英二郎
小松 市川岩五郎
笠  中村鶴蔵
宇南の父  瀬川菊之丞

ネタばれ

それを聞いた徳子は、信夫に案内させて、宮地の自宅に向かう。そこで宮地真とその父に会うが、真は知らぬ存ぜぬを押し通し、宮地の父は徳子をやっとのことで追い返す。
すると夜になって徳子の母松子が宮地家に単身乗り込む。ところが集落民は自衛意識から総出で、石礫を松子めがけて投げる。松子は身体中に投石を受けて、最後は血飛沫をあげて絶命する。


殺人事件を知った宇南は、妻英子に「診断書をもらいに来た娘に言ってやる言葉はないのか」と問い詰められ、診療所を飛び出す。すると信夫が殺人事件の犯人と看做され、暴徒と化した両方の集落民に追われていた。宇南には信夫にかけてやる言葉ももはやなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 
地の群れ 1970 えるふプロ製作 ATG配給 キネ旬ベストテン第五位の社会派映画

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