1962年、吉永小百合主演の日活青春映画「キューポラのある街」は、松竹にとってショッキングだったようだ。
松竹は翌年SKD出身の倍賞千恵子を対抗馬に起用して、恋愛を巡る青春映画を撮る。
監督には、まだシスター映画「二階の他人」しか撮ったことが無い、東大卒のダメ助監督山田洋次を選んだ。
当時、上層部の信用を勝ち得ていない山田洋次に長編映画は任せられないが、師匠の野村芳太郎監督あたりが中編映画なら倍賞千恵子の良さを引き出すのに最適だと進言してくれたのだろう。

それぐらい、松竹ヌーベルヴァーグ騒ぎのおかげで、松竹家庭劇の伝統が崩れかけていたのだ。

 

 

Synopsis:

昭和38年、東京東部の下町工場街が舞台。町子は資生堂石鹸工場で働いている。道男は同じ工場事務所ではたらく事務職で上昇志向が強い。町子と道男は結婚を互いに意識している。
道男は本社の採用試験を受けた。ライバルは器用な金子という同僚だ。でも役員面接でもうまく笑いを取れた実感はあった。町子には受かったも当然だと言いふらした。
ある日、町子の弟健二が鉄道模型を万引きして補導される。人に聴くとテツ仲間として最近仲良くしている良介という不良がいるそうだ。悪い仲間ならとっちめてやろうと仕事場に出向くと、言葉使いは粗野な工員だが、鋼鉄を前にした真剣な姿に町子は見直してしまう。

道男は試験に次点ながら落ちて、金子が内定したらしい。道男は荒れて町子に当たった。二度と受験はしたくないとも言い出した。
そんなとき、良介から誘われて一晩付き合う。楽しい時間を過ごしたが、町子は彼氏がいるからと言ってこれ切りということになった。
数日後、金子が源吉おじさんを社用車で撥ねてしまい、その旨を道男は会社に報告した。金子が事故で内定を取り消されて道男が補欠合格できるからだ。町子は道男のその態度が正々堂々としておらず、気持ちが離れていった。
数日後、出勤中に良介が改めて交際を申し込んできた。我慢できないそうだ。町子はそっぽを向いたが、内心ニヤリとしたようだ。

 

 

注.
道男が会社に報告したのは、会社員なら当然のことだ。でも女はこういう問題を会社の危機管理と認識せず、男同士の卑怯な真似とみなすらしい。道男は町子の気付かないところで話を上にあげるべきだった。
日活映画(主演吉永小百合、橋幸夫、浜田光夫)の「いつでも夢を」でも浜田が大会社面接を受けて落ちるという似たような話があった。その時は浜田が職工として生きて行くと開き直って吉永と仲直りをした。
このどちらの場合も女性は男性の収入に無頓着だ。これを間に受けて結婚相手を選ぶのは、良いけれど後になって亭主の稼ぎが少ないとは言わないでよ。

 

 

 

Impression:

舞台は東京都墨田区の京成荒川駅(現・八広駅)の自宅と、京成曳舟駅から向島橘銀座商店街を通って行く資生堂石鹸工場(職場)。

スモッグだらけの工場街だった当時から倍賞千恵子下町の太陽だった。1960年にSKDに入団(同期はサザエさんの声優の加藤みどり)しSKDの地元浅草で研鑽して、3年経って親会社松竹映画の主役をついに張ったのだ。

 

まだ若い頃の倍賞千恵子は美人とは呼べない。吉永小百合も同様だ。そしてどちらも主役の時は100%全力演技型だ。それでいて暑苦しくない。爽やかでもある。この個性が、当時は受けたのだ。

1950年代後半に出てきた若尾文子の美貌とは好対照である。大映の場合は、第1回ミス日本山本富士子がいたから、その魅力に打ち勝つだけの若い美しさが必要だった。

 

下町の太陽」はものの見事に成功を収める。1964年から山田洋次監督はハナ肇の「馬鹿シリーズ」に起用され、倍賞千恵子と1965年に松本清張原作「霧の旗」を撮影し、1966年はハナ肇・倍賞千恵子共演の名作喜劇を二本撮った。1967年からいよいよ28年間にわたる「男はつらいよ」シリーズを開始する。
しかしこの「下町の太陽」がなければ、今の山田洋次監督は存在しなかっただろう。

 

 

相手役では、早川保が将来の悪役ぶりを彷彿とさせて、楽しみにしていたのだが、まさか実生活で倍賞千恵子を振ってしまうとは思わなかった。

脇役の中では東野英治郎が子どもを交通事故で失って頭のおかしくなった小父さんを演じていたが、「ガラスの仮面」北島マヤが憑いたのではないかと思うほどの怪演だった。最後の方は背筋がゾクゾクするほどの凄みがあった。倍賞千恵子も見ていて圧倒されたと思う。

それから歌手青山ミチがゴーゴー喫茶で二曲歌っているシーンが見られる。青山ミチがゴーゴー歌謡を歌っていた頃(要するに覚醒剤で騒ぎとなってから、クラウンに移籍して演歌歌手になる前)の映像は少ないので、嬉しい。

 

 

監督 山田洋次
製作 杉崎重美
脚本 山田洋次 、 不破三雄 、 熊谷勲
撮影 堂脇博
音楽 池田正義

 

 

主演
倍賞千恵子 寺島町子
勝呂誉 工員北良介
早川保 恋人毛利道男
石川進 鉄工所の仲間左衛門
待田京介 金子
葵京子 和子 (山田洋次第一作での主演)
武智豊子 祖母とめ
藤原釜足 父、平八郎
東野英治郎 源吉小父さん
青山ミチ ジャズ喫茶の歌手

 

 

下町の太陽 1963 松竹 監督山田洋次、主演倍賞千恵子の名コンビ誕生

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