ジャッキー・ロビンソンはMLB史上初の黒人選手として、1947年にメジャーデビューし、プレーを通して差別や偏見を打破して黒人のみならずあらゆる人種に希望を与えた。この作品は、彼の苦悩を描いたヒューマン・ドラマである。
映画初主演のチャドウィック・ボーズマンがジャッキー役を演じている。共演はハリソン・フォード、ニコール・ベハーリー。
監督・脚本はブライアン・ヘルゲランド。
あらすじ
1945年のアメリカ。ブルックリン・ドジャースのGMブランチ・リッキーは二グロ・リーグの26歳黒人選手ジャッキー・ロビンソンに目を付ける。
ロビンソンはブランチのオフィスにやってくる。ブランチはロビンソンに黒人が差別される環境においても我慢できれば、マイナー・リーグのモントリオール・ロイヤルズ(ドジャーズ傘下)への入団を勧める。
ロビンソンはロイヤルズへ入団する。しかし黒人選手と言うことで差別的なヤジが飛ぶ。ある夜、人種差別的なファンから脅迫を受け、ロビンソンはスミス記者とともに居住地を転々とする。
そんな中でロビンソンの妻は出産する。家族が増えたロビンソンは翌年昇格を掛けてキャンプに合流する。その頃、黒人選手のドジャースへの合流が気に食わない選手達が署名活動を行った。署名活動の事実はリッキーの耳にも入り、ドジャースのドローチャ監督に白人選手が署名を撤回しなければトレードに出すと通告する。その件はひとまず収まったが、シーズン開始直前になりドローチャ監督が不倫事件で一年間休養させられてしまう。
ロビンソンは不安だったが、キャンプで好成績を残した彼はドジャースとのメジャー契約を締結する。ナショナルリーグ開幕戦で早速ロビンソンはホームランを放つ。
フィラデルフィア・フィリーズ戦でロビンソンは敵将チャプマン監督から口撃される。ブランチは、チャプマンを結果で見返してやれとロビンソンを激励する。さらに激化するバッシングにドジャースの同僚エディも抗議する。ロビンソンに対する環境は、同僚たちから変わりはじめた。
ドジャースとカージナルスとの試合でロビンソンが一塁を守っていると、敵のスパイクで踏まれて負傷する。チームメイトは抗議しようとしたが、ロビンソンは必死で立ち上がり回りを制止した。
終盤になりドジャースはナ・リーグ制覇までマジック1になった。ロビンソンの野球への想いを見てきた同僚や客席のファンはロビンソンに温かい声援を送り、それに応えるようにロビンソンはホームランを放って、チームは1947年度ナショナルリーグ優勝を果たす。自らも盗塁王に輝き新人王を獲得する。
雑感
ブランチ・リッキーの、黒人に大リーグの門戸を開くという実験は成功し、翌年からも新しい黒人選手をドジャーズは獲得する。他チームも追随し、実力のある選手は人種に関係なくアメリカ・スポーツ界へ進出していく。最後まで白人純血主義に拘ったのは、ニューヨーク・ヤンキースだったが、それも方針を転換せざるを得なかった。
そしてロビンソンは引退後、野球殿堂入りする。彼が着けていた背番号42は全球団の永久欠番となっている。
アメリカ人にとって黒人差別の前にカトリックに対する差別(イタリア人差別、アイルランド人差別)やユダヤ人差別があった。アメリカ人はイギリス人を見習って差別が好きなのだ。しかし本家英国と違い、ほとんど根拠のない差別なのだ。
同時にアメリカ人は戦士は白人も黒人も第二次世界大戦で同じ死地をくぐり抜けてきた。その後も朝鮮戦争やベトナム戦争で共に戦い、白人の一部には黒人も同じアメリカ人であるという人権意識が生まれていた。
メジャー・リーグだけが特殊だったとは思わない。ドジャーズの会長ブランチ・リッキーに黒人市場を開拓するだけの先見の明があったのだ。
彼のスタジアムであるブルックリン・エベッツ・フィールドの周囲は、ユダヤ人、イタリア人や黒人が多くて環境が悪い。
それを逆手にとってユダヤ人を集めたければユダヤ人の選手を出場させる、イタリア人を集めたければイタリア人選手を使えばいい。そして黒人を観客にしたければ、黒人の選手を使えば良い。金儲けをしたければ、黒人を使うべき時代だったのだ。
リッキーはこういう戦略家の弁護士であり元プロ野球選手だったのだ。
実はジョージ・シスラーの素晴らしいスカウト眼も大きかったと思う。リッキーは1946年から何人かの黒人をテストしたのだが、シスラーが見抜いたロビンソンだけがマイナーリーグの洗礼やキャンプでの競争に勝ち残ってメジャー行のチケットを手に入れた。
シスラーはイチローがシーズン最多ヒット数の記録を塗り替える時にも話題になった前記録保持者である。白人も黒人も入り乱れて大盛況となったワールドシリーズでは、ヤンキースが2連勝してドジャーズが追いつき、さらにヤンキースが王手をかけると、ドジャーズも逆王手をかける。そして最終戦はヤンキースタジアムで行われて、2点をドジャーズがリードするが、すぐヤンキースに追いつかれて突き放され、ドジャーズのワールドシリーズの制覇の夢は8年後ロスに移転した後まで待たされる。
ドローチャー監督は翌年ドジャーズに復帰するが、シーズン途中で事もあろうかライバル球団のニューヨーク・ジャイアンツに引き抜かれ、6年後監督としてワールドチャンピオンになる。
チャドウィック・ボーズマンはジャッキー・ロビンソンからジェームズ・ブラウンまでどんなタイプでも演じる好俳優だったが、ガンで亡くなった。余りに早すぎる。
スタッフ
監督 ブライアン・ヘルゲランド
脚本 ブライアン・ヘルゲランド
製作総指揮 ディック・クック 、 ジェイソン・クラーク 、 ジョン・ジャシュニ
製作 トーマス・タル
撮影 ドン・バージェス
編集 ピーター・マクナルティ 、 ケヴィン・スティット
音楽 マーク・アイシャム
キャスト
ジャッキー・ロビンソン チャドウィック・ボーズマン
ブランチ・リッキー会長 ハリソン・フォード
妻レイチェル・ロビンソン ニコール・ベハーリー
レオ・ドローチャー前監督 クリストファー・メローニ
ウェンデル・スミス記者 アンドレ・ホランド
ピーウィー・リース(遊撃手主将) ルーカス・ブラック
ラルフ・ブランカ(投手) ハミッシュ・リンクレイター
ディクシー・ウォーカー(外野手主砲) ライアン・メリマン
ハロルド・パロット会長秘書 T・R・ナイト
ハッピー・チャンドラー現監督 ピーター・マッケンジー
ベン・チャップマン監督(フィリーズ) アラン・テュディック