ルーマニアのフォンタナ村で静かに暮らしていた一家が戦争に翻弄されていく姿を描く。
フランスの名匠アンリ・ヴェルヌイユ監督とイタリアの名プロデューサー、カルロ・ポンティがタッグを組んだ。
主演はアンソニー・クイン、共演は「黒いチューリップ」のヴィルナ・リージ。
原作はルーマニア出身のC.ビルジル.ゲオルギュ。
題名は24時を人間の一生と例えてその先のこと、つまり最期の時を意味する。
同種の映画「ひまわり」より三年早く公開されている。
(スパイク・リー監督の同名作品とは全く違う)
あらすじ
ヨハンとスザンナはルーマニアのフォンタナ村で二人の息子を儲け幸せに暮らしていた。しかしナチスドイツが台頭してルーマニアも枢軸国となり、ユダヤ人狩りが行われる。スザンナを愛する憲兵隊長ドブレスコはヨハンが邪魔なため、ヨハンをユダヤ人として申告し強制労働を課する。
しかしルーマニアのユダヤ人対策はドイツほど厳しくなく、賄賂さえ払えばハンガリーに逃げることが許された。そんな時、スザンナがヨハンと離婚するという知らせが届いた。絶望するヨハンはハンガリーに逃げる。
しかしヨハンは旅券不所持で逮捕され、ルーマニア人であることは認められるが、ドイツで強制労働を課せられる。親衛隊の人類学者ミュラーは、ヨハンの体型に興味を持ち、典型的アーリア人種だと発表した。以来、ナチスの広告塔になったヨハンは強制労働から解かれ看守職を得る。
1944年、ソ連軍がルーマニアを征服し、ドブレスコはナチス協力者として裁かれる。スザンナは元夫がナチスにシンボルとなったためにソ連から逃げてドイツへ移る。やがてヨハンも仲間たちと脱出して、連合軍に投稿する、
しかしヨハンだけは数年経っても解放されなかった。そしてニュールンベルク裁判で広告塔になった罪を裁かれる。しかし弁護人は一通の手紙を取り出した。検閲で読むことが出来なかったスザンナからの手紙だった。ソ連兵に乱暴され、子供を産んでしまったが、どうか許して帰ってきて欲しいと書いてあった。
無罪になったヨハンは、ドイツのある駅に降り立つ。そこには、スザンナと息子たち二人、さらに暴行により生まれた子マルコがいた。新聞記者がやって来て一枚写真を撮らして欲しいと言う。しかし何度撮っても、ヨハンの笑顔は引きつっていた。
雑感
ルーマニアは同じラテン民族のイタリア同様にファシストが政権を奪取して第二次大戦で枢軸国に属した。つまり日本と同じ側だったのである。
従って、ユダヤ人でなくルーマニア人である事が判明した時点で強制収容所に入る必要はなくなり、軽犯罪者は強制労働を課せられた。
その中でもアーリア人種(インド・ヨーロッパ語族の祖)の特徴を有するヨハンはドイツ的人種として扱われて、看守役を仰せつかったわけだ。
しかしそれが徒になって、広告塔になった罪でニュールンベルク裁判に掛けられる。
原作はC.ゲオルギウの小説で、1950年にフランス文学者河盛好蔵により翻訳された。
ゲオルギウはルーマニア出身でいながら、共産化した祖国を離れてフランスで戦後暮らしたため、この作品は反ソ連的立場を鮮明にしている。
実は名作「ひまわり」は当時のソ連領ウクライナで撮影しており、イタリア以外にソ連資本が入っている。もしや、この「25時」に対抗して作ったのではないか。
アンソニー・クインは小市民の役を見事に演じのけた。ナチス・ドイツに拉致されてから4年さらに連合国に逮捕されてもう4年、合わせて8年離れて暮らした妻スザンヌ(ヴィルナ・リージ)と再会したとき、お互いに20才は年を重ねたように見えた。しかし二人は互いに相手のことを「変わらない」と言うのだ。
スタッフ・キャスト
監督 アンリ・ヴェルヌイユ
製作 カルロ・ポンティ
原作 C・ビルジル・ゲオルギュ
脚色 アンリ・ヴェルヌイユ 、 フランソワ・ボワイエ 、 ウォルフ・マンコウィッツ
撮影 アンドレアス・ヴァインディング
音楽 ジョルジュ・ドルリュー
配役
ヨハン・モーリッツ アンソニー・クイン
妻スザンナ ヴィルナ・リージ
ドブレスコ憲兵隊長 グレゴワール・アスラン
ストルル マルセル・ダリオ
トレイアン セルジュ・レジアニ
マルコ ステイアン・デツエルミク
親衛隊ミュラー中佐 マリウス・ゴーリング
ニュールンベルク裁判の弁護士 マイケル・レッドグレーヴ