日中戦争の真っ只中、太平洋戦争前夜にどうしてこんな明るい侍オペレッタ映画が生まれたのか。映画人が日中戦争の手詰まり感の中で将来を悲観して、遺言がわりに作り出した奇跡の作品だろうか。
大店の娘お富が丁稚を連れて江戸の往来を闊歩している。それを後ろから追っかけたちがしつこく声をかける。それに対してお富は歌って返す。そこへバカ殿様が通りかかりお富を見初めて配下の者に身元を探らせる。
続いて長屋の傘張り浪人、志村狂斎と娘お春の場面。狂斎は貧しいのに骨董気狂いでお春は生活が苦しいと愚痴をこぼす。すると狂斎は一節歌って聞かせて笑い飛ばすのだ。お春は頭に血が上ったまま傘の天日干しをする。そこへ長屋住まいの若い浪人浅井(片岡千恵蔵)が出てくる。浅井とお春は実は相思相愛だが、このとき浅井は親父殿を庇ってお春を怒らせてしまう。
そこへお富が父の介抱に隣の別宅にやって来る。そこで好きな浅井を見て一節聞かせる。それを聞いたお春はますます怒り出し二人で互いの悪口を歌にする。浅井は関わり合いになりたくないので逃げ出そうとすると、遠山家の息女藤尾とばったり出会う。実は藤尾は浅井の許嫁だった。浅井はもう気がない様子だったが遠山家ではそうではないようだ。その様子を聞いていて狂斎はお春に強敵が現れたと言って面白がる。そこに突然の雨が降り、浅井とお春は慌てて傘を取りに出る。雨に想いを託してお富とお春、浅井は急に歌い出す。
そこでバカ殿の部屋に場面は変わる。何と殿は一ノ谷の合戦で死んだ平敦盛の青葉の笛を手に入れたという。(ここのオケに合わせて歌うシーンが好き、初めは詩吟調なのだが合図で転調したらどこかで聞いたことのある流行歌に変わるのが最高)
狂斎も傘代を受け取った帰りに町の骨董屋で珍品?を見せられ、有り金全部払って手に入れる。
お春は浅井の部屋で楽しそうに話していた。そこへ恋敵お富が現れ、お春は怒って帰ってしまう。さらに狂斎が骨董を持って帰ってくる。傘代は全てつぎ込んだという話を聞いて、また浅井の家に飛び込んでしまう。
藤尾は浅井のことが忘れられず床に伏してしまう。父の遠山はバカ殿に相談するが、何はともあれ殿は骨董屋巡りだ。そこで意気投合した狂斎に50両で狩野探幽の絵を買い与える。
(上映時間後半に入る)
お富はいつものようにお供をぞろぞろ連れて浅井の部屋にやって来る。浅井はちょうどお春と恋の駆け引きを楽しんでいるところだったが、お富の連れに無理やり誕生日祝いに連れ出される。お春が嫉妬のあまり傘を引きちぎっている時に、狂斎はバカ殿を連れて帰ってくる。次々と狂斎が取り出した骨董品は、どれも偽物だった。ところがバカ殿はお春に夢中になってしまい、返事もそぞろ。
遠山は狩野探幽と交換に娘を妾に頂きましょうと提案して、使いとなって志村家へ出向く。狂斎は骨董と娘は変えられないと断るが、その場合は50両を返せと言われる。狂斎が骨董屋に絵を持っていくと、これは偽物と言われ3両しか払えないと言われる。そこで家のある品物全てを売り払うが、それでも12両にしかならない。こうなれば夜逃げしかない。
一方、バカ殿はもし50両返されたら困ると自らお春をもらい受けに行く。藤尾はそれを父から聞いて「そこまでして欲しくない」と病身を押してバカ殿を引き止めに行く。
夜逃げをするお春は、浅井にお暇乞いのためお富の家に出かけるが、丁稚に門前払いされた上、浅井はお富の婿養子に入ると聞かされる。しかもお富の家から出るところでバカ殿の家来に捕まりそうになる。その騒ぎに浅井が二階から飛び出してきて家来を次々と倒して、バカ殿は真っ先に逃げ帰る。
骨董屋が狂斎の持っていた茶壺は一万両する名品と言っているのを聞き、金持ちが大嫌いな浅井はお春から離れようとするが、お春が茶壺を割り狂斎も娘の幸せが大事と納得したので、結局二人は結ばれる。めでたしめでたし。
この映画は2週間足らずでプリプロダクションから編集まで全て作り終えたそうだ。その上、主演の片岡千恵蔵が風邪を引いて2日しか撮影に参加しなかった。直前で脚本も大きく変わったろう。殺陣シーンはBGMに乗って洋画ならリズミカルにやるところだが、撮影時間がなかったのか結構雑だった。
オペレッタ・シーンでは美人女優市川春代だけは下手だった。と言うより他で本職や本職並みの上手を使ってしまったので、下手が目立ってしまった。この作品撮影直前に長女を出産したらしい。練習時間も少なかったのだろう。
そういう粗を忘れさせるほど、この映画のクレイジーさには呆気にとられる。あの片岡千恵蔵、志村喬が楽しそうに歌っている。あの大歌手ディック・ミネが志村けんばりにボケている。ダンス要素が少ないのでミュージカルと言えないが立派な軽演劇、オペレッタである。クレイジーキャッツよりもクレイジーな映画だ。
音楽を主題にした映画はすでに日本にもあったが、オペレッタ風の映画は無かった。マキノ監督は海外のミュージカル映画を見て、こんなものを日本でも作りたいと考えていたのだろう。
でも時代劇でそれを実現するとはたまげる。もともとある物で早撮りするのは得意だったため、会社に談判して2週間の時間と人材を割いてもらって撮りあげた。
音楽部分はテイチクが監修している。したがってテイチク所属のディック・ミネと服部富子(作曲家服部良一の妹) が貸し出された。
監督、スタッフともに若さあふれる現場だからこそ、こんな無茶ができたのだ。志村喬もまだ30代で老け役を演じている。
個人的には好きな市川春代が見れて満足である。
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