九州の漁師たちと鯨神と呼ばれる凶暴な鯨の対決を描く。
宇能鴻一郎の芥川賞受賞作品がハーマン・メルビルの名作「白鯨」にそっくりとは、どういう事かと思ったが、これはこれで上手く脚色できた小説だ。
文芸作品に遂に特撮要素が入ってきたので、特撮に弱かった大映は他から人を借りて何とか特撮映画で撮るが・・・。

 
主演、本郷功次郞、勝新太郎。共演、江波杏子、藤村志保
監督田中徳三で、脚本新藤兼人
 

あらすじ

 
舞台は長崎県平戸の閉鎖的な島。鯨神と呼ばれる凶暴なセミクジラが年に一度現れ、漁師は一斉に掛かるが、その度に多大な犠牲を産んでしまう。祖父、父ともに海に引きずり込まれ殺されたシャキは復讐を誓い、名主も鯨神を捕まえた暁には娘トヨと身代をくれてやると宣言する。そこへ最近流れてきた紀州という男が「俺が捕まえたら、俺にも身代をくれるか」と尋ねる。どうせ誰も倒せはしないと思っている名主は、お前にもやると答える。

 
エイはシャキを愛するが、シャキは鯨神をたおすのが目的だった。そんなエイを紀州は犯して妊娠させる。
翌年春エイは赤ん坊を生んだ。誰の子供でも良い、名主に挨拶をしてシャキは子供の父親になる。トヨが嫌いなわけではなかった。どうせ死にゆく運命だから。

 
やがて鯨神が和田浦付近に来ているという知らせが入った。紀州とシャキいずれも鼻面を譲るつもりはない。船団は一せいに出航した。名主の合図に十数本の銛が投げ込まれる。鯨神は沖に向かって泳ぐ。名主が止めるのを聞かず、紀州が真っ先に海に飛び込んだ。彼は鯨神に飛び乗ると、槍で急所を突いた。鯨神は一旦潜ったため、紀州男は死んだが鯨神に掛かった縄に絡んで足場になった。シャキは鯨神の頭にとりつき、鼻に庖丁を刺して、鼻血が噴き出した。鯨神は死んだがシャキも重傷を負った。シャキが鯨神の近くにいたいというので、棺に入れられて鯨神の頭の側に置かれる。鯨神を憎み愛していたシャキは、自分が鯨神に同化するのを感じた。
 

雑感

 
上手く脚色した作品だと思う。しかしオリジナリティは薄い。井上靖が激賞したらしいが、芥川賞選考委員は「白鯨」を読んでない?読んでなくても良いが、映画も観ていないのか。東大出の宇能鴻一郎は原書で読んでいたんだろうな。
その時のライバルだったのが吉村昭だったから、ザル選考と言われても仕方がない。おかげで宇能鴻一郎は、元々お金持ちだったこともあり三島由紀夫の死後、純文学を捨ててポルノ小説を量産した。
 
特殊撮影は小松原力とクレジットされているが、実はウルトラシリーズの的場徹が担当している。初めは「ガメラ」の特撮を担当する築地米三郎が担当するはずだったが、別な現場に移ったので、急遽交替した。そのドタバタのおかげで、前半の特撮シーンは失敗していた。的場徹が円谷プロから招かれるのは翌年のこと。
鯨神の造形は大橋史典、ミニチュア製作は高山良策が担当している。
アニメ合成は、うしおそうじ(ビープロ)が受け持った。
 

 

スタッフ・キャスト

監督 田中徳三
製作 永田雅一
原作 宇能鴻一郎
脚色 新藤兼人
撮影 小林節雄
音楽 伊福部昭

 
配役
シャキ 本郷功次郎
紀州 勝新太郎
エイ 藤村志保
トヨ 江波杏子
鯨名主 志村喬
ユキ 高野通子
ヨヘエ 見明凡太朗
シャキの母 村田知栄子
土地ザメ 上田吉二郎

鯨神 1962 大映京都 宇能鴻一郎の芥川賞受賞作品の映画化

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