日活がアクション路線に進む以前の作品。
原作は読売新聞に連載された獅子文六の小説。珍しく日活と新東宝が同じ作品を映画化し、同年同日に公開された。(1951年に「自由学校」を松竹と東宝で同時公開したことがある)
新東宝は手堅い阿部豊を監督に起用したが、一方日活映画は阿部豊の弟子だった市川崑監督を東宝から引っこ抜いて初起用した。もちろん和田夏十が脚色し撮影は峰重義。主演は北原三枝、三橋達也、轟タ起子と山村聡。さらに新人芦川いづみ(SKD出身)が日活初出演。
あらすじ
慎一はケチな実業家で都心にパチンコ屋を開いて稼いでいる。母蝶子は子供のような大らかな人物で慎一に幼馴染でバレリーナの奥村千春を娶らせたいと、奥村家へ挨拶に行く。千春の父徹也は悠々自適の暮らしをしているが、合理的な生き方をする慎一を気に入っており両者の婚姻に異議はなかった。
慎一は千春と待ち合わせをしている。千春はバレエの後輩のシンデこと新子を連れて来ていた。慎一は家事万端できる男で親しい相手といるときは、オネエ言葉を使う。千春は男勝りの性格で新子が憧れているのもそこだ。新子は千春が慎一と会うのが気になって仕方がないのだ。
慎一は船越トミが銀座のバーを買い取るのを手伝っていた。彼はいい機会だから、30万円を出資して共同出資者になる。慎一に関心を持つトミにとっても嬉しいことだった。
慎一の母が千春の父を気に入った。しかも生まれて初めての恋らしい。息子としても母の純情を成就させたい。そこで千春に相談すると、娘が父から独立するためにも良いことだと賛成する。それ以来互いに親を焚きつける。
しかし千春の父は妻をなくして20年寡夫暮らしをして今更妻はいらぬと言い張る。そこで若い二人が結婚すれば、少しは親も軟化するだろうと、婚約してしまう。
ところが慎一の元に千春は女ではないと言う手紙が届く。また千春がバイセクシャルだという新聞記事が出て、次回公演から降ろされる。
一方、蝶子は向島百花園での徹也とのデートでなかなか彼が煮え切らないので、池に飛び込む。と言っても膝までの深さだが、徹也は押し切られて再婚を承知する。
その頃、新子が喀血したという知らせが千春に届く。千春が病院に見舞いに行くと、新子は慎一に千春が女でないと手紙に書いたと告白する。しかし死ぬ気でいる新子を叱れなかった。慎一に結婚の中止を申し出るが、千春を愛し始めていた慎一は、新子が回復するまで延期にしようと答える。
ついに徹也、蝶子の華燭の典の日だ。トミが明治神宮に乗り込んで、新聞にネタを売ったのは私と白状して、千春と取っ組み合いの喧嘩を始める。どうやら結婚するのが慎一と千春と思い込んだようだ。誤解に気づくと、バツが悪い顔をして全てを謝罪して帰っていった。
お式が終わった後、新郎新婦を送り出して、慎一と千春は町に出てそれぞれ用事があり、片や左へ片や右へと別れて歩いていくところで終。
結末はあなた次第だ。
雑感
獅子文六や市川崑、和田夏十は当時セクシャリティの豊かさに関心を持っていた。男らしい男、あるいは女らしい女の時代は去ったのだ。
三橋達也はオネエ言葉だったが、付き合いが深まるうちに、男っぽい部分も出てくる。
北原三枝はいつまでたっても女優の中の親分格だった。芦川いづみも新しい映画会社に入って不安だったろうが、北原が守ってくれたそうだ。
もちろん芦川いづみの可憐な演技は良かった。
でも一番面白かったのは北林谷栄の婆やさんが、内心で徹夜に惚れていて、廊下で立ち聞きしてる徹也に蝶子との縁談が舞い込み、呆然として腰から崩れて立てなくなるシーンが一番面白かった。
さらにまだ32なのに50の大年増に化けた轟夕紀子のプロポーズ・シーンもある。
映画としては新東宝の方がオーソドックスだろうが、日活の方が遙かに新しい時節の映画である。
スタッフ・キャスト
監督 市川崑
製作 山本武 、 高木雅行
原作 獅子文六
脚本 和田夏十
撮影 峰重義
音楽 黛敏郎
配役
宇都宮慎一 三橋達也
宇都宮蝶子 轟夕起子
奥村鉄也 山村聡
奥村千春 北原三枝
バーのママ船越トミ 山根寿子
芸者筆駒 嵯峨美智子
新子 芦川いづみ(新人)
芦野 三戸部スエ
宇都宮の兄奥村 千田是也
阿久沢 滝沢修
小鎌田 宇野重吉
奥村家の婆や 北林谷栄