(☆)尾崎士郎の原作を、杉本彰中川信夫が脚色し、中川信夫が監督した、大関雷電為右衛門の青春時代を描いた伝記映画
主演は宇津井健
前編の共演は北沢典子、江見俊太郎、坂東好太郎。白黒映画。

あらすじ

浅間山のふもとのある長瀬村庄屋・上原源五右衛門の元で下宿している少年太郎吉は、水呑百姓の子供だが、大男で相撲を取らせたら近隣に敵うものがなく、相撲好きの主人が力士に育ててやろうと思っている。ある日、浅間山が噴火して周囲の村は火山灰に襲われる。
興行主がいなくなり地方巡業ができなくなった浦風親方の一門の力士衆が、上原邸に宿を取る。浦風は、太郎吉の成長ぶりに目を見張る。
浅間山噴火で助けられて以来、知り合った小諸娘おきんが、上田の店に売られた。それを知った太郎吉は、その店に行くと、おきんはヤクザ者の久六に襲われている。久六を倒した太郎吉を見て、おきんは将来は太郎吉の嫁になると決める。

当時は天明の大飢饉で、各地に百姓一揆が起った。太郎吉はその中に父を見つけて家に連れ帰る。そして関取になるのを諦め、家に戻る。
おきんが江戸に年季奉公に出てしまい淋しくなった太郎吉は、上原の主人と浦風親方に頭を下げて再び相撲の道に戻る。太郎吉は白鳥大明神の大相撲で五連勝して優勝し、江戸へ上り浦風部屋に入門する・・・。

雑感

寛政時代の名大関・雷電為右衛門の青春記前編。
上原家とか浦風親方との出会い、谷風や小野川との死闘などは史実だが、江戸に年季奉公に上がった「おきん」という恋人が雷電にいたかどうかはよく知らない。原作者尾崎士郎の創作だろうか。見ていると、どうも雷電にとってのファム・ファタールになるような気がする。中村寅彦が演ずる一木左門太(隼小僧)は、どう考えても尾崎士郎が作ったオリジナル・キャラクターだろう。

宇津井健は、体格が良いから相撲取りの役はぴったりだった。山口百恵の「赤いシリーズ」以降の宇津井健しか見ていない人には意外かもしれないが、彼は元早大馬術部出身だから馬の扱いはうまいのは当たり前が、アクションもチャンバラも新東宝でみっちり扱(しご)かれたのだ。
北沢典子は、お気に入りの新東宝女優だ。特に時代劇が似合う。東映の大川恵子も時代劇だと化けていたが、双璧だと思った。北沢典子をこの映画のヒロインに起用したプロデューサーは偉大だ。美人ではないが、目は大きく綺麗で、小柄で少し頭が大きい分、着物とカツラがバランスよく似合うのだ。今では、たまに映画祭でゲストに呼ばれるが、小柄なおばあちゃんになってしまった。

スタッフ

製作総指揮  大蔵貢
製作  山梨稔
企画  柴田万三
原作  尾崎士郎
脚色  杉本彰
脚色、監督  中川信夫
撮影  西本正
音楽  小沢秀夫

 

キャスト

太郎吉  宇津井健
おきん  北沢典子
谷風  坂東好太郎
浦風  林幹
上原源五右衛門  高松政雄
一木左門太  中村虎彦
江戸嵐  舟橋元
関ノ戸  御木本伸介
伊勢の海  山田長正
沓掛の久八  小林重四郎
本多中務大輔  江見俊太郎
おゆり  小畠絹子

***

おきんは、老中本多大輔に見染められ、屋敷に奉公に上っていた。彼女は、夜な夜な迫る殿様から何かと言い訳を見つけて逃げ回っていた。
浦風部屋の筆頭関ノ戸が本多家のお抱え力士に出世し、錣山(しころやま)部屋に移籍した。浦風親方が本多家中に馬鹿にされたため、太郎吉は怒って家臣を川に投げ込んだ。その帰り道に浦風は辻斬りに肩を斬られてしまい、他の弟子も離れていった。
仕方なく浦風は、太郎吉(白根山)を信頼する、伊勢ノ海部屋の谷風に内弟子として預けた。おきんは、いつも風呂場を覗く本多大輔夫妻の卑猥な目に耐えられなくなる。一方、白根山は、浦風親方や谷風親方におきんと会わないで修行だけに邁進すると誓った。
しかし、二人は出会ってしまった。世間の風は厳しく、太郎吉とおきんは心中するしか道はなかった・・・(前編終わり)。

雷電 (前編) 1959.11 新東宝製作・配給 江戸時代の名大関雷電の青春前期を描いた作品

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