ガンマニア作家大藪春彦の処女作で、後にフランク・ケーンの「特ダネは俺に任せろ」(1954)からの盗作と指摘された原作を須川栄三監督が映画化した。
昭和34年のある夜、「岡田さん」と呼びかけて岡田刑事に近づいた男は、刑事の胸に拳銃を押し当て引き金を引いた。犯行を終えた男は乾いた笑みさえ浮かべた。男は伊達邦彦、関東大学の英文科大学院生だった。彼は焼け跡世代の一人で、犯罪に対する興味が高じて実体験することでしか満足できなくなっていた。同僚の妙子と関係を持つが、女は深入りすると厄介なので2回しか抱かなかった。
彼はアメリカへ留学したかったが、金がなかった。そこで非合法カジノの上がりをくすねるため、ヤクザを襲い強奪する。そのことでヤクザから追われる身となる。しかし二人のヤクザに尾けられても彼は恐るべき射撃の腕で二人を倒す。そんな彼に真杉刑事が興味を持つ。記者から伊達の身分を聞いた真杉は、妙子や伊達が通うジムに聞き込みを開始する。しかし伊達は慌てる様子がない。
伊達の留学のためには、もう少し資金が必要だった。そこで大学の入学料を強奪することを思いつく・・。
伊達がなぜ殺人鬼になったかは映画を見る限り、想像するしか無い。原作の前半には、伊達の幼少期や人格を形成する時期が描かれているが、映画では全て省略されている。ただし安保反対の学生運動が描かれていて、戦後のドサクサを生き抜いた人間の虚無を感じた。
ラストシーンは少し映倫を意識したか。原作ではアンチヒーローが見事完全犯罪を成功させるというものだが、映画では伊達の逮捕を示唆して終わっている。
須川監督の演出は、前半説明的で眠い展開もあったが、強盗のアクションシーンはジェームズ・キャグニー映画のようでなかなか見ごたえがあった。
仲代達矢は狂気を孕んだ役にピッタリだ。どこかユーモアのある松田優作と違い、焼け跡世代のニヒルさを体現している。また花売り婆役の三好栄子に「星は何でも知っている」を歌って踊らせるシーンは映画オリジナルらしいが、伊達の狂気を表現していて印象的だった。
団令子は仲代達矢と組む映画を以前にも見たが、今回は伊達とどこかで精神的に同調する妙子というキャラクターを好演している。仲代のニヒルさと、とてもよくマッチしていた。まだ若かったこともあり、体当たりシーンもあって、ファン必見である。
監督 須川栄三
製作 藤本真澄 、 金子正且
原作 大藪春彦
脚色 白坂依志夫
撮影 小泉福造
音楽 黛敏郎
配役
伊達邦彦 仲代達矢
真杉刑事 小泉博
妙子 団令子
真杉の恋人洋子 白川由美
ヤクザ三田 佐藤允
手塚 武内亨
花売婆 三好栄子
杉村教授 中村伸郎
桑島刑事 東野英治郎
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野獣死すべし 1959 東宝 ハードボイルド作家大藪春彦の処女作を初の映画化