(☆)アガサ・クリスティーやアルフレッド・ヒッチコックにも影響を与えた、「館ものサスペンスの元祖とも言えるブロードウェイ戯曲やハリウッド映画の英国リメイク版。
監督・脚本はラドガー・メツガー、製作はリチャード・ゴードンで、普段はポルノ映画を製作しているチーム。

実質的主演はキャロル・リンレイマイケル・カラン
共演はオナー・ブラックマン、ウェンディ・ヒラー、エドワード・フォックス、ピーター・マケナリー。カラー映画。

ストーリー

20世紀初頭、カナリヤの籠がぶら下げられている。それを猫が狙っている。女の子を傍に連れた老人が男の子を呼んだ。男の子が飛び出した足元では、猫が殺され吊るされていた。

1934年、古びた屋敷に女性弁護士クリスビー、家政婦プレザント夫人、そして20年前に亡くなった大富豪サイラス・ウェストの孫が六人集まった。今日は、20年間信託されていた遺産の相続人を発表する日だった。しかも発表は20年前には実験段階だったトーキー・フィルムを使ってサイラス・ウェストの肉声で発表すると言う。
いよいよ発表となり、アナベラ・ウェストが全遺産を嗣ぐことになる。しかし妙な付帯条件が付いていた。明日までに相続人が亡くなったり発狂した場合は明日の朝もう一つの遺言の発表をすると言うのだ。
スーザンとシシリーは、アナベラ一人が遺産を独占して不服そうである。孫のうち男性三人は、アナベラの心を射止めようと活発に運動を始めた。そのとき、近くの病院の医師ヘンドリクスが窓を打ち破って入ってきた。聞けば、危険な精神病患者が逃げたと言う。その患者は爪を伸ばしているので、「猫」と呼ばれた。ヘンドリクスは他を見回ると言って玄関から出ていく。
アナベラは弁護士に呼ばれるが、アナベラが目を離したすきに弁護士は姿を消してしまう。さらにアナべラが部屋に戻ると、突然「猫」らしき人物に襲われる。孫の一人ポールは、部屋の裏にクリスビーの死体が隠されていて、その向こうに隠し通路があることを見つける。怯えたアナベラを他の部屋に移して、他の孫五人は「猫」を探し始める・・・。

雑感

原題である「猫とカナリア」は、1922年のブロードウェイ舞台劇であり、サイレント末期1927年にはハリウッドで映画化された名作サスペンス・スリラー。この作品は、戦前に少なくとも2回ハリウッドでリメイクされている。ユニバーサルで2回製作されたときはスリラー調で、パラマウントで1回製作されたときはコメディ要素を含んでいた。

この映画は、英国で初めて作られた「猫とカナリヤ」のリメイクである。「館もの」だけに英国向きの話だから、英国風に脚色して作っているが、コメディでなければスリラーでもない中途半端な映画だった。大体、第一の相続人が殺した犯人は、自動的に第二の相続人になるだろう。ポルノ映画ではなく英国映画なのだから、もう少し緻密な脚本を使って映画を作らなければダメだ。

ラドリー・メツガーポルノ映画専門監督であり、この作品は彼が作った唯一の一般映画、つまり誰も裸にならない映画である。メツガーは、製作のリチャード・ゴードンと話し合って、当時のアガサ・クリスティ原作映画ブームにあやかり、柳の下のどじょうを狙ったらしい。
だから、脚本は穴だらけで、セットやロケには超低予算だったのだが、キャストだけは豪華である。もっとも撮影日数は、かなり短い。ウィルフレッド・ハイド-ホワイトは、一日で撮影完了である。おそらく、実働半日だったろう。ロケ地は全てイングランドのサリー州である。

オナー・ブラックマンは、イギリスの美人女優としてアメリカでも有名であり「007ゴールド・フィンガー」(1964年)のボンドガールであった。最も当時ですでに39歳だった。
ウェンディ・ヒラーは、「ピグマリオン」(1938年)で主演イライザ役を演じ、「旅路」(1958年)でアカデミー助演女優賞を受賞し、「オリエント急行殺人事件」(1974年)のドラゴミノフ伯爵夫人役を演じている。
キャロル・リンレイは、1950年代に子役スターとしてアイドル扱いされたが、1960年代には「バニー・レイクは行方不明」「太陽の爪あと」のようなカルト映画に出演した。1970年代に入り30歳代になると「ポセイドン・アドヴェンチャー」に出演して復活した。
さらにエドワード・フォックス(1980年「クリスタル殺人事件」でクリスティー映画に出演)、オリビア・ハッセー(1978年「ナイル殺人事件」でクリスティー映画に出演)、ウィルフレッド・ハイド-ホワイト(クリスティの名作小説「そして誰もいなくなった」二回目の映画化である「姿なき殺人者」に出演)まで出演している。

スタッフ

監督・脚本  ラドリー・メツガー
原作戯曲  ジョン・ウィラード 「猫とカナリヤ
製作  リチャード・ゴードン
撮影  アレックス・トンプソン
音楽  スティーヴン・キャガン

 

キャスト

スーザン・シルスビー(孫の一人)  オナー・ブラックマン
ポール・ジョーンズ(アメリカの音楽家)  マイケル・カラン 
ヘンドリックス医師  エドワード・フォックス
アリソン・クリスビー弁護士  ウェンディ・ヒラー
シシリー・ヤング(スーザンの同居人、孫の一人)  オリヴィア・ハッセー
プレザント夫人(召使)  ベアトリックス・レーマン
アナベラ・ウェスト(相続人)  キャロル・リンレー
ハリー・ブライス(元医師)  ダニエル・マッセイ
チャーリー・ワイルダー(俳優)  ピーター・マケナリー
サイラス・ウェスト(20年前に亡くなった大富豪)  ウィルフリッド・ハイド=ホワイト

***

スーザンは、居間に安置された死体を再確認しようとして背後から「猫」に殺される。そしてアナベラにも、再び毒牙が襲い掛かる。
アナベラは、「猫」にサイラスの隠し部屋に監禁される。「猫」の正体は、俳優でもある孫の一人チャーリーだった。彼は、祖父のお気に入りで、第二の遺言書の相続人に指定されていた。そこで彼は、アナベラに恐怖を与えて発狂させようと考え、ヘンドリクスと組んで架空の「猫」を作り上げたのだ。
そのときチャーリーは、落とし物に気付き部屋から出て行く。ヘンドリクスは、アナベラに対して卑猥な目を向ける。
ポールが、安置された死体のそばからチャーリーの持ち物を見つけ、真相を掴む。そこにチャーリーがやって来るが、ポールが殴り合いをしてチャーリーを倒す。
ポールは、アナベラが犯される寸前にヘンドリクスを引き剥がし、最後はチャーリーが持っていた銃を拾った家政婦プレザント夫人が、ヘンドリクスに二発の銃弾を打ち込んで悲劇に幕を閉じる。

遺産シネマ殺人事件 The Cat and the Canary (1978) 英グラナディア映画製作 ガラ・フィルム配給 日本未公開

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