初代「ゴジラ」の次に公開された円谷英二特撮映画で、東宝の「変身人間」シリーズの先駆けとなった(白黒映画)。H.G.ウェルズの原作とは違って、透明人間は戦争の犠牲者であった。監督は小田基義、撮影・特技監督は円谷英二、主演は河津清三郎、悪役は高田稔、植村謙二郎、ヒロインは三條美紀、近藤圭子。
あらすじ
東京で車が見えない何かをはねた。車体の下を覗くと、血が滴って次第に死体が姿を見せる。彼は戦時中の「透明人間特攻隊」の生き残りであり、死なない限り元の姿に戻れないゆえに死を選んだという遺書を持っており覚悟の自殺だった。さらに透明人間の生き残りがもう一人いることが分かり、東京の町は騒然とする。やがて包帯ずくめの男を首領とする透明人間ギャング団が現れ、銀行や宝石店を襲い始める。そんなとき新聞記者小松は街で見掛けたピエロに不審を感ずる。ピエロは南條と言い、アパートでは誰でも声を掛ける優しい男であり、とくにまりという盲目の少女を不憫に思っていたが、人前ではメイクを取ることは無かった。小松は南條の部屋に忍び込み、南條の着替えを盗み見ると、やはり彼が透明人間であった。しかしかえって南條がギャング団の首領であり得ないと確信する。小松は南條と組んで、捜査に乗り出すと、黒幕はバーのマスター矢島だと分かる。しかしまりの唯一の肉親である祖父がギャング団に殺される。南條は怒り、透明人間になり、偽透明人間矢島と対決する。警官隊に包囲される中、矢島は屋上に逃げて透明人間南條に対して銃を放つが当たらず、周囲の化学コンビナートを次々と爆破する。最後に矢島は墜落死してしまい、死体の下から南條の遺体が発見される。南條が矢島を道連れに落下したのだった。
雑感
この映画でH.G.ウェルズの原作からは元に戻れないという設定は生かしつつ、凶暴化するという設定は除いて日本流の透明人間を作っている。ピエロであるがゆえにペーソスを感じさせる作品に小田監督(トニー谷の「家庭の事情」シリーズ、柳家金語楼の「おトラさん」シリーズ)は仕上げている。
円谷英二はこれに先だって公職追放により1948年に東宝を辞めた後、月形龍之介に拾われて、フリーとして大映映画で「透明人間現わる」(1949年、監督安達伸生、主演月形龍之介、共演喜多川千鶴)に特殊効果担当として参加している。こちらも透明人間になる薬を発見した博士(月形龍之介)は悪人ではない。大映では1957年に特技監督的場徹(後に円谷プロ入り)で「透明人間と蝿男」を撮っているが、ここでは透明人間が科学の力による正義の味方(品川隆二)で戦争の結果蝿男になる薬を得た方が悪役(伊沢一郎)だ。
透明頭巾を被って透明になる話は神話や民話で良くある。現在では光学迷彩コートが開発されて、米軍も日本もこちらを実用化するつもりだ。
河津清三郎は戦前に新興キネマ(後に大映)で時代劇スタアとなり、戦後はフリーとして活躍した。この頃はマキノ雅弘監督の「次郎長三国志」シリーズ(東宝、大政役)を終えた後で、東宝と再び主演二本契約で小田監督の映画を撮った。一本目は金田一耕助の「幽霊男」で二本目がこれだ。
三條美紀は戦後のスタアだったが、当時26歳で世帯やつれしているように見える。これは役作りではなく、1950年に紀比呂子(テレビドラマ「アテンションプリーズ」主演)を出産していた。
盲目の娘役は、アイドル童謡歌手の近藤圭子(キングレコード)が演じているが彼女のデビュー映画だ。のちにテレビドラマ「ジャガーの眼」「怪傑ハリマオ」にも出演して、挿入歌も歌ったから覚えている人も多いだろう。大人の歌手に転身してすぐ妻子ある男性と心中未遂事件を起こして芸能界から消えてしまった。
スタッフ・キャスト
監督 小田基義
製作 北猛夫
原案 別府啓
脚本 日高繁明
撮影 円谷英二
特技監督 円谷英二
音楽 紙恭輔
配役
南條 河津清三郎
矢島 高田稔
小松 土屋嘉男
健 植村謙二郎
美千代 三條美紀
まり 近藤圭子
龍田警部 大友伸
警視総監 恩田清二郎
代議士 沢村宗之助
まりのおじいさん 藤原釜足
社会部長山田 村上冬樹