空軍設立を上申していたビリー・ミッチェル准将が自ら起こした上官批判事件とその軍法会議を描く映画。
監督はオットー・プレミンジャー、主演はゲイリー・クーパー。共演は下院議員役のラルフ・ベラミー、これが初映画のエリザベス・モンゴメリー、検事役のロッド・スタイガー、友人で墜落死するジャック・ロード、ピーター・グレイヴズ、元帥役のチャールズ・ピックフォード。
あらすじ
ウィリアム・ビリー・ミッチェル准将は第一次世界大戦中から、陸軍航空部のために尽力するが、戦後になり陸海軍ともに航空兵力の削減に力を入れていた。整備不足と旧式飛行機のため、訓練中に死亡事故が多発する。
そんなとき、無謀な上官の命令で友人の海軍将校ランスダウンが墜落死し、ミッチェルの怒りは頂点に達する。1925年に彼は新聞で軍上層部批判を行い、軍規違反で軍法会議に掛けられる。
弁護人には友人のリード下院議員が就いてくれる。軍法会議は、裁判長であるガスリー陸軍元帥が当初被告側の発言を一切認めなかったので、一方的に検察側の主張が認められていたが、世間の同情を集めるランスダウン未亡人の証人申請が認められ、海軍上層部に対する峻烈な批判をしたことから、判事側も被告の証人申請を積極的に認めるようになった。
すると、いずれの証人もミッチェルに有利な証言をして検察側は追い込まれたため、検事として切れ者で通るギロン少佐を呼ぶ。ミッチェルは被告人証言でギロンと対決するが、いつものミッチェルの戦略的考察も、ギロンはのらりくらりと交わすだけで噛み合わない。
結局、ミッチェルは有罪となり、退役し五年間の恩給停止となる。しかしミッチェルは、彼の証言が記録に残ることだけで満足して、表情は晴れ晴れしていた。
雑感
ミッチェルは、第一次大戦以降の戦争における航空機の重要性を考えていて、低空での爆撃の必要性を説き、ハワイが日本軍から狙われることも予言していた。第二次大戦前に亡くなるが、第二次大戦で航空機の重要性は証明され、戦後1946年に名誉が回復されている。
マサチューセッツ州出身の共和党クーリッジ大統領は減税軍縮派だったので、狂乱の二十年代(Rolling 20’s) を迎えることが出来たが、軍事的にアメリカを弱体化した。クーリッジ大統領(イアン・ウルフ)は映画でも1シーンだけ出てくるが、評判通り静かな男だった。どうやら軍上層部にイエスマンを置いていたようで、現場からの訴えを黙殺していたようだ。
こういう能天気な連中ばかりだったら、日本も負けなかったが、大恐慌で経済無策だった共和党が下野し、ルーズベルトの民主党政権が国債を売って、軍拡を実行していった。
ダグラス・マッカーサー(デイトン・ルミス)も判事役でワンシーンだけ出てくる。実際にミッチェルと友人だったため、軍法会議で彼は無罪票を入れたそうだ。
ゲイリー・クーパー老いたり。
ゲイリー・クーパーの戦後作品は、いずれも「衰え」を描いている。「真昼の決闘」では守るべき妻がいるから、かえって気弱なところを見せてしまう。「昼下りの情事」も年の差に引け目を感じている。
この映画に関しては、彼の衰えをカメラが直接捕らえる。前半は心ここに在らずの演技が散見されるが、私は集中できない何かがあったと考えている。
法廷シーンは緊迫感のあるものだった。ところがゲイリー・クーパーは表に出てこない。弁護士が全て発言して、ゲイリーは黙っている。被告人証言でも検事役ロッド・スタイガーに「日本がハワイを襲うなんて、水晶玉のお告げですか」とからかわれる。このころのロッドはアクターズスタジオ出身のデビュー2年目だが、ゲイリー・クーパーはこのトッチャン坊やと言い争う気力が湧いてこないのだ。
もしかしたらオットー・プレミンジャーは、それも含めて描こうとしたのではないか?
エリザベス・モンゴメリーは映画初出演で重要な役ということで、ずいぶん固かった。彼女が「奥様は魔女」のサマンサとしてお茶の間の顔になるには、さらに9年を要した。
彼女の夫役はやはりテレビドラマ・シリーズ「ハワイ5ー0」の主役を演じたジャック・ロードだ。
なお、脚本にクレジットされていないが、ダルトン・トランボ、マイケル・ウィルソンという赤狩りリストに載った脚本家も起用している。
スタッフ・キャスト
監督 オットー・プレミンジャー
製作 ミルトン・スパーリング
脚本 ミルトン・スパーリング 、 エメット・レイヴリー
撮影 サム・リーヴィット
編集 フォーマー・ブラングステッド
配役
ビリー・ミッチェル ゲイリー・クーパー
ガスリー元帥 チャールス・ビックフォード
リード下院議員 ラルフ・ベラミー
ギロン少佐 ロッド・スタイガー
ランスダウン未亡人 エリザベス・モンゴメリー
ランスダウン司令官 ジャック・ロード
エリオット大尉 ピーター・グレイヴス