「忘れられた巨匠」清水宏監督の戦後第一作。
全員素人で、しかも戦災孤児らを使って撮った。
下関駅で復員兵は戦災孤児たちと出会う。浮浪児狩りを逃れた彼らは、身よりのない復員兵に同行して、職探しの旅を続ける。塩田や森林伐採に職を得た彼らは労働の喜びを感じていた。
しかしヨシ坊の体調が悪化する。海を見れば治るはずだ、という言葉に仲間の子の一人がヨシ坊を背負って、山を登り海の見える頂に達するが・・・
清水宏監督のトリビアを少々。
小津監督と同じ年生まれ(1903年生まれ)にも関わらず、生誕100年をごく一部で祝っただけの、「忘れられた巨匠」である。
若い頃からプログラムピクチャーを撮りまくっていたし、お金持ちだったので、戦後カラー映画の台頭と合わせて、60年代には映画から離れてしまった。
小津監督ほど人望はなかったが、清水監督も松竹にはじめは所属していたため、小津監督とは大の仲良しだった。田中絹代の最初の亭主である。
この映画の見所は、素人しかも現役戦災孤児を重用している点。
今でもアンゲロプーロス、キアロスタミ、チャン・イーモウ、ホウ・シャオシェンなど素人主体で撮る監督は多いが、清水監督はその先駆けだった。
子どもたちの台詞は完全な棒読みである。今どき学芸会でも見られない演技だ。
でもこの映画がセミドキュメンタリー形式を取ってるので、違和感は感じない。
テレビでよくある本人登場の再現ドラマのような感じだ。
さらに特筆すべきはキアロスタミに見られる、ロングショットを多用している。
長回しというほどではないのだが、ワンカメラで追えるところまで追っている。
復員兵が逃げた子どもたちを追って、畑のあぜ道を走ってるシーンを山の頂上から俯瞰で撮ってるところや、ヨシ坊を仲間が背負って山を登るシーンを隣の山から映している点が印象に残る。でもクローズアップの切り替えも速く、そのときは度肝を抜かれる。
子供ってこういうときの演技は凄い。台詞を棒読みしていても、表情を決めなければならないところは決める。
子どもを動かすことが出来る監督が本当の巨匠だ。その意味で清水監督は外国に再び紹介したら大喝采を浴びると思う。
でもその偉大さを日本人は分かっていない。