1967年に東宝で「日本でいちばん長い日」を監督した岡本喜八監督が本当に作りたかった反戦映画。ほとんど自費製作である。
主役は文学座演劇研究所第一期生で当時売り出し中の寺田農。この演技で毎日映画コンクール主演男優賞獲得。
ヒロインの大谷直子は当時十八歳。台詞も辿々しいデビュー作なのに、体当たり演技を見せてくれる。
あらすじ
昭和二十年の夏、本土の兵学校。学徒出陣で応召した訓練生の「あいつ」(寺田農)は乾パンを盗み食いした罰として一日中全裸にされたが、それでも盗み食いは止められない。それぐらいお腹が空いていたのだ。そして八月六日、広島に原爆が投下され、「あいつ」は特攻隊員になった。
「あいつ」は特攻前の外出を許され、知的欲求には勝てず書店に立ち寄ったが、そこで店主老夫婦(笠智衆、北林谷栄)の純愛を知る。そして「あいつ」は人肌が恋しくなって初めて女郎屋を訪れた。因数分解の問題を解くおさげの少女(大谷直子)が応対して「あいつ」はときめいた。だが「あいつ」を床に引きずり込んだのは、前掛けをして太った中年女(春川ますみ)だった。少女はその女郎屋の主人だったのだ。ショックを受けた「あいつ」は店を飛び出した。雨が降っていて兵学校に帰ろうとしたが、再び因数分解の少女と出会う。インテリらしく、彼女に因数分解を教えてあげた。中年女だけでは「あいつ」の若い精力は尽きていなかったらしい。雨宿りをした小屋でついに二人は一つに結ばれた。
「あいつ」が命を賭けて守るべき少女ができた翌日には、地雷を一個渡され海岸に派遣された。敵軍が上陸するのに合わせて、自爆するためだ。しかし街は激しい空襲を受けて、おさげの少女や書店の夫婦は死んでしまった。
日本軍の指揮系統はおかしくなり、「あいつ」は魚雷を一本託されて、ドラム缶を漕いで海上で敵船を待機した。ある朝、「あいつ」は船を発見し、魚雷を発射したが、当たらなかった。実はその船は東京から来たし尿処理船だった。そこで終戦の事実を聞かされ、「あいつ」は愚かな軍に怒りを爆発させた。
それから23年経ち、海水浴客で賑わう海に古いドラム缶が一つ浮いていた。その中で「あいつ」は怒ったまま白骨化していた。
雑感
至る所に喜八節が見られて、懐かしい作品。上映後、50年経ってしまうと、さすがに少し古さを感ずる。
寺田農は最近役柄がほぼ固定してしまったが、デビュー当時は出演作の度に役作りを変えるため、その度に顔が変わって見えた。だから誰だかいつまでも覚えられなかった。
それと比べて大谷直子は今も変わらぬ鮮烈な印象を残した。この映画を戦争末期の青春を描いた傑作にしたのは、大谷の捨て身の演技があったからだと思う。
スタッフ
監督・脚本 岡本喜八
製作 馬場和夫
撮影 村井博
音楽 佐藤勝
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配役
あいつ 寺田農
少女 大谷直子
区隊長 田中邦衛
書店の老夫婦 笠智衆、北林谷栄
前掛のおばさん 春川ますみ
軍曹 小沢昭一
少年・兄 頭師佳孝
少年・弟 雷門ケン坊
船長 伊藤雄之助