敬慕する女性に代わり、復讐のため男に抱かれる女。その静かだが激しい情念は見る人に強い印象を残す。全編通して、加賀まりこ&八千草薫の美しさ、存在感がすごい。
監督篠田正浩、音楽武満徹。共演 山村聰、山本圭、渡辺美佐子。
あらすじ
大木はかつて、妻子のある身でまだ少女の音子を身ごもらせた過去を持つ。音子は死産し、自殺未遂をするが、彼女をモデルにした小説は彼の出世作となった。それから20年経ち、大木は画家として大成した音子を訪ねる。そこで音子の弟子・けい子と出会う。けい子は音子を愛しており、大木に対して激しい嫉妬を抱く。けい子はたびたび自作の絵を見てくれと言って、鎌倉の大木邸に出かける。そして大木と関係を持つ。次に大木の息子太一郎に気に入られ、京都に招く。太一郎は音子と父の関係を知っていたが、けい子の肌には抗しきれなかった。そして二人で琵琶湖にボートで出て、遭難する。夜になって、けい子だけは生還した。その病室で、音子と大木の妻文子は対峙する。
雑感
八千草薫が亡くなった。1931年生まれで享年88歳だそうだ。八千草薫は人の良いお婆ちゃんだとか、清楚なお嬢さんだとか言われるが、大阪生まれの女がそんなわけがない。「赤い疑惑」で主演山口百恵が忙しすぎるので、切れてしまって第6話で母役(本当は違うけど)を降板して、第7話から渡辺美佐子が代役に立った。
この映画は昭和40年2月公開の作品で、篠田正浩監督がロマネスク文学作品として上手く撮っている。とくに加賀まりこ、八千草薫が艶めかしい。映画は、若い加賀が愛する八千草(二人はレズビアン)に代わり、復讐のために男とその息子に抱かれる。八千草の静かだが激しい情念は、強い印象を残す。渡辺美佐子は男の正妻役で出演している。
この映画を見て印象に残るのは、八千草薫の足の指、第2指から第4指が拇指よりかなり長いのである。決して綺麗な足には見えないのだが、篠田監督はその特徴を知っていて、敢えてアップで撮影したと思う。
続いて昭和40年4月には岩下志麻主演による川端康成原作「雪国」が公開される。「雪国」一回目の映画化(昭和32年)で駒子は岸恵子、義妹葉子は八千草薫が演じ、二回目の映画化(昭和40年)では駒子は岩下志麻、葉子は加賀まりこが演じ、言わば八千草と加賀はダブルキャストの関係にある。川端自身は八千草も岩下も加賀もファンだったようだ。
しばしば八千草が子供を作らないのは、夫谷口千吉の前妻である若山セツ子(第一回「青い山脈」出演して元祖メガネっ娘アイドル女優だったが、55歳で亡くなる)に気兼ねしたと言われる。しかし結婚後のインタビューに子供は大勢欲しいと答えている(デイリースポーツ1957年7月22日号)。夏目漱石の「三四郎」のマドンナ美彌子役を、1955年の映画でもNHKの1961年正月テレビドラマでも演じているが、このNHKドラマの後、一年以上仕事を休んでいる。その辺りに本当の理由があるんだと思うが、他人がとやかく言うべき問題ではない。
スタッフ・キャスト
監督 篠田正浩
製作 佐々木孟
原作 川端康成
脚色 山田信夫
撮影 小杉正雄
音楽 武満徹
配役
坂見けい子 加賀まりこ
上野音子 八千草薫
大木年雄 山村聡
大木文子 渡辺美佐子
大木太一郎 山本圭
音子の母 杉村春子