エルンスト・ルビッチ監督グレタ・ガルボ主演喜劇「ニノチカ」(1939)のリメイク。ただしブロードウェイで上演されたコール・ポーター音楽の舞台を基にレナード・ガーシュとレナード・スピーゲルガスが脚色しルーベン・マムーリアンが監督したミュージカル映画である。撮影はロバート・ブロナー、音楽監督は名指揮者でもあるアンドレ・プレヴィン。
主演はフレッド・アステア、シド・チャリシー、共演はジャニス・ペイジ、ピーター・ローレ。
あらすじ
ソ連の作曲家ボロフは演奏会のためにパリへ派遣されたが、アメリカの映画プロデューサーであるキャンフィールドに口説かれ、ハリウッド映画音楽を作流ことになった。そんなボロフを帰国させるため、ソ連はブランコフら3人の文化委員をパリに派遣した。ところが三人組もパリの享楽的な生活にうつつを抜かす。
そこでソ連はニノチカという厳格な女性共産党幹部をパリへ派遣する。笑わないニノチカは資本主義社会の頽廃ぶりを軽蔑し、4人をソ連に連れ帰ろうとした。
それでは都合が悪いキャンフィールドはニノチカを懐柔しようとする。二人で肩を並べて見るパリの夜景に鉄仮面をかぶったような彼女もぐらりと来る。
ハリウッドから映画の主演女優ペギー・デイトンがパリにやって来た。キャンフィールドの命で彼女はボロフをすっかり落としてしまう。ニノチカもキャンフィールドを次第に愛し始めた。
しかし映画のリハーサルでボロフの音楽「トラクター組曲」はジャズ風にアレンジされたため、彼は怒りだしてしまう。ニノチカとボロフ、三人組はその日のうちにソ連に帰ってしまう。
だがソ連に戻った彼らはソ連の現実に幻滅してしまう。ニノチカもキャンフィールドへの愛情を捨てられなかった。ブランコフら3人組は映画輸出で再びパリに派遣されたが二度と帰ってこなかった。ニノチカは彼らを連れ戻しにパリへ出張するが、再会したキャンフィールドにプロポーズされてついに受諾する。
雑感
シド・チャリシー35歳の油が乗り切った時期。それぐらいダンサーとして成熟した美しさを感ずる。おそらくグレタ・ガルボと同じ役と言われても動じなかっただろう。
モスクワに帰ってからの「赤のブルース」の振付は秀逸。
フレッド・アステア58歳の最後の見せ場は8ビートの「リッチ・ロール・アンド・ロック」(コール・ポーター)だった。しかし黒人なら普通に乗りこなす次世代のダンスに付いていけず、完全な失敗に終わった。アステアの次の映画はストレート・プレイの映画「渚にて」だった。その後1967年にミュージカル映画「フィニアンの虹」に出演するが、ミュージカル映画のダンサーとしての彼の時代は「絹の靴下」で終わりを告げようたようだ。代わりに「アン・イーヴニング・ウィズ・フレッド・アステア」「アステア・タイム」などと言ったテレビ時代に入っていく。
ピーター・ローレの三人組も面白い。三人組のセンターは背の高さからジュールス・マンシンが座ったが、オチを取るのはいつもピーター・ローレだった。「シベリア送り」は良い曲だった。まさにローレは笑わない名コメディアンだった。
スタッフ
製作 アーサー・フリード
監督 ルーベン・マムーリアン
脚本 レオナード・ガーシュ 、 レナード・スピーゲルガス
原案 メルシオール・レンギール
作詞作曲 コール・ポーター
原作戯曲 ジョージ・S・カウフマン 、 リューイーン・マクグラス 、 エイブ・バロース
音楽監修・指揮 アンドレ・プレヴィン
撮影 ロバート・ブロナー
キャスト
スティーブ・キャンフィールド フレッド・アステア
ニノチカ シド・チャリシー
ペギー・デイトン ジャニス・ペイジ
ブランコフ(三人組) ピーター・ローレ
ヴァシリ・マルコヴィッチ(文化委員長) ジョージ・トビアス
ビビンスキー(三人組センター) ジュールス・マンシン
イヴァノフ(三人組) ジョセフ・ブロフ
ピター・イリイッチ・ブロフ(作曲家) ヴィム・ゾンヴェルト