女性映画の成瀬巳喜男監督が自ら製作もした少年映画笠原良三のオリジナル脚本をベースに自分の幼少期の経験に基づいて成瀬監督が大幅に翻案した。
長野から親戚を頼り上京した小学六年生が母に捨てられ心の支えだったGFも転校する、ひと夏の苦い思い出を描く。
主演は当時の東宝映画の常連大沢健三郎少年、共演は乙羽信子、夏木陽介ら。白黒映画。併映は黒澤明監督の「悪い奴ほどよく眠る」。

あらすじ

秀男は夏休みに母の実家のある銀座界隈に引っ越した。父はすでに亡くなり母は仕事を求めて地元にもどったのだ。長野県で生まれた秀男には何もかもが珍しかった。
秀男は伯父さんが経営する八百屋に間借りし、母は住み込みで近くの旅館の給仕に仕事を得た。伯父さんには伯母さん、従兄妹二人がいた。秀男は従兄弟と八百屋の手伝いをした。
秀男は母が働く旅館の娘と仲良くなった。休みの日にデパートに連れていってもらい、屋上から初めて海を見た。海は水色に見えなかったが船がたくさん行き交っていた。娘は夏休みの宿題で昆虫の標本を作るという。秀男は長野からカブトムシを持ってきたのでそれを貸すことにしたが、カブトムシは逃げていた。

ある日、母が客と逃げた。あとで熱海の旅館から手紙が来て、こちらで働いて仕送りをすると言う。秀男は八百屋にいたたまれなくなった。
別の休みの日、娘と晴海の海岸まで行った。海は綺麗だったが、水色ではなかった。彼は娘のために虫を取ろうとしたが、脚を挫いてしまった。夜になって警察に送られて帰ったが、伯父さんには大目玉を食った。
夏休みも終わろうとする日、長野の祖母からリンゴを送ってきた。その中にカブトムシが入っていた。秀男は娘に見せてやろうと思い旅館に急ぐが、旅館は廃業されていた。旅館の買い手が見つかって、パトロンが郊外のアパート経営に転業したからそちらに越したらしい。秀男は唯一の友を失い、トボトボと一人帰っていくのだった。

雑感

哀しい童話。
友達が夏休みに転校してしまうなど我々もしばしば経験したことだが、母親が客と逃げてしまうのは強烈な経験だろう。

この映画を松竹時代の同僚小津安二郎の映画「お早よう」に対抗して作った説がある。成瀬巳喜男が作ると少年映画もこうまでペーソスあふれるものになる。

子役の大沢健三郎はおそらく笑う演技は人並みだったため、コメディより悲劇向きの子役だった。十年後までは映画に出たり、夏木陽介の青春ドラマに出演していたがその後の音沙汰がない。廃業したのだろう。

劇中登場するデパートは銀座松坂屋である。

スタッフ

監督・製作 成瀬巳喜男
脚本 笠原良三
撮影 安本淳
音楽 齋藤一郎

キャスト

深谷秀男 大沢健三郎(子役)
母深谷茂子 乙羽信子
GF三島順子 一木双葉(子役)
宿の女将三島直代 藤間紫
伯父山田常吉 藤原釜足
伯母山田さかえ 賀原夏子
従兄弟山田昭太郎 夏木陽介
従姉妹山田春江 原知佐子
旅館の客富岡 加東大介
旅館の小母さん 菅井きん
女将の愛人浅尾 河津清三郎
山下 西条康彦

秋立ちぬ 1960 東宝東京製作 東宝配給 成瀬巳喜男製作・監督作品

投稿ナビゲーション