エルンスト・ルビッチ監督のトーキー後初のシリアスな反戦映画。結末はある意味でとても厳しく残酷。
モウリス・ロスタンの原作戯曲をレジナルド・バークレーが翻訳した。主演はライオネス・バリモア、ナンシー・キャロル、フィリップズ・ホームズ。
あらすじ
第一次世界大戦直後のパリ。戦勝ミサが開かれるが、終わっても席を立とうとできない若者ポールがいた。神父が尋ねると、芸術家だった彼は終戦直前にドイツ軍兵士を戦闘で殺して以来バイオリンが弾けなくなったと懺悔する。神父に促され、彼は遺族に一言謝罪を述べたくて、ドイツへ旅立つ。
ドイツでは亡くなった兵士ヴァルターの父ホルダリンは年老いた医師で母も存命だった。さらに婚約者エルザも診療所を手伝っていた。
彼は夜訪れるが食事中だと言われて追い出される。翌日ヴァルターの墓参をしてから、改めて父を訪れる。父は初めはフランス人というだけで怒っていたが、父母もエルザも彼がヴァルターの友人だと誤解してしまい、彼を歓待する。いけないことと知りながら、彼らについ甘えてしまいポールはしばらく当地で過ごす。エルザともデートを重ね、二人は愛し合うようになる。
しかしエルザに振られたシュルツはポールのことを得体を知れない敵国人だと言いふらす。それに対してホルダリンは戦争は我々老人の責任であり、ドイツやフランスの若者たちに責任はないと騒ぎ立てる周囲を黙らせる。
その話を聞いたポールは、もうパリへ帰るとエルザに告白する。しかし真相を聞いてエルザは、罪のない老人から笑顔を奪わないでほしいと言い、父母を呼びポールがドイツに永住する気になったと告げる。
喜んだ父がヴァルターのバイオリンを彼にプレゼントすると、覚悟を決めた彼は「トロイメライ」を弾きそれに応えた。エルザも封印していたピアノで伴奏し、久々にホリダリン家に団欒が戻ってきた。
雑感
これからドイツに住めば、ポールにとっては地獄の責め苦のような毎日になる。そういう意味でエルザの選択は、たとえ実際にポールを愛するようになっていたとしても残酷である。
名作だが、実際には歴史はどんどん悪い方に事態は遷移する。1932年というとナチスが政権を奪う直前の年であるが既にかなりきな臭くなってきた。
そういう時代背景でこの映画はドイツ人の感情に訴えたのだろう。この作品はヴェネチア国際映画祭に出品された。しかしナチスドイツの返答は1935年ルビッチの国籍剥奪だった。
フランス語の原題の“L’Homme que j’ai tué(=The Man I Killed)” は十戒の5番目に似ているので、”Broken Lullaby” に変えられた。日本語題は仏語の原題によっている。
スタッフ
監督 エルンスト・ルビッチ
原作戯曲 モウリス・ロスタン
脚本 レジノルド・バークレー
脚色 サムソン・ラファエルソン 、 エルネスト・ヴァイダ
撮影 ヴィクター・ミルナー
キャスト
ホルダリン医師 ライオネル・バリモア
エルザ ナンシー・キャロル
仏人ポール フィリップス・ホームズ
ホルダリン夫人 ルイズ・カーター
シュルツ ルシアン・リトルフィールド