子供を押しつけられた男が父親を捜す旅と、彼に同行してルーツを求めようとする女を描くロードムービー。脚本は前田陽一ら3人の共同執筆であり、監督も前田陽一、撮影は坂本典隆が担当する。
主演渡瀬恒彦、桃井かおり。
あらすじ
女優の卵である森崎小夜子と漫画家志望の三浦晋作が同棲していた部屋に小学生新一がやって来た。家出した女の書いた手紙に晋作をはじめ五人の男の往所氏名が書いてあった。そこで近くに住んでいた晋作の部屋に子供は連れてこられたのだ。
晋作は新一を連れて父親捜しの旅に出かける。小夜子も帰郷を言い訳に付いてきた。父親候補の1人、尾道の田島は市長選挙に立候補中だった。ところが田島は十年前にパイプカットしていて、晋作は恐喝で逮捕される。秘書が田島の名をかたっていたことがわかり、晋作は30万円をもらうが血液型から父親ではないことが分かる。それ以来、二人の旅の目的は集金旅行になる。
二人目、別府の福田は結婚式のまっ最中だった。小夜子がご祝儀から百万円をふんだくった。長崎に行く途中、天草で母親の実家に寄った小夜子は母千代が長崎丸山の大野楼で働いていたこと、やがて唐津に移ったことを聞かされる。第三の男は元野球選手の桑野だがスッカラカンでライオンズ中西の200法ホームランのサインボールしかもらえない。小夜子は死んだ母を思い出して、その夜もの悲しくなり、久びさに晋作と燃え上がるのだった。
仲直りした二人は唐津へ行き、小夜子は子供の頃に見た唐津城の情景を二十年ぶりに思い出す。
最後の一人は若松の川筋者(石炭輸送業の親分)高田五郎だったが、父幾松は五郎が既に死んだことを告げ、三代目を継いだ未亡人まさは新一を引き取ると言う。五郎がよそで作った子供は新一で四人目だ。晋作と小夜子は一旦帰路に就くが、新一に情が移り再び引き取りに戻って行く。
雑感
いつ見ても素晴らしい作品である。
内容的には佐田啓二、岡田茉莉子主演の「集金旅行」(1957)の焼き直しである。だからオリジナルの原作者は井伏鱒二ということになる。
この作品も前作と同様に豪華出演者でお送りする。個人的には楠トシエが小夜子の母を演じている回想シーンが好き。また武知杜代子が昔から遊郭のそばでお店をやっているようで無性に懐かしい。
小夜子の自分探しの旅を付け加えたところが、この映画の特に優れた部分である。女優になりたいが、子供も欲しいという、まだふらふらした気持ちだった小夜子が母の人知れぬ苦労を知り、母になりたいと心から思うほど成長する。この演技と「まだ頬づえはつかない」の演技に対して、第三回日本アカデミー主演女優賞を受賞した。
タイトルは阪東妻三郎が主演した大映映画「狐の呉れた赤ん坊」(1945)に対するオマージュだ。
スタッフ
製作 大谷信義
脚本 前田陽一 、 南部英夫 、 荒井晴彦
監督 前田陽一
撮影 坂本典隆
音楽 田辺信一
キャスト
森崎小夜子 桃井かおり
三浦晋作 渡瀬恒彦
政治家田島啓一郎 曽我廼家明蝶
その秘書 河原崎長一郎
第2の男・新郎福田邦彦 吉幾三
川筋者高田幾松 嵐寛寿郎
三代目高田まさ 吉行和子
第3の男・バーテン桑野弘 小島三児
田中新一少年 鈴木伊織
子供を連れてくる女 悠木千帆(樹木希林)
母の友人房江 正司歌江
小夜子の母 楠トシエ
初恋の人達夫 森本レオ
福田の父 天草四郎
お好み焼き屋の婆 武知杜代子
晋作の友人大津 泉谷しげる
クラブの客 片桐竜次
果物屋 小松政夫