京都祇園での舞妓のあり方が戦後になって次第に変化する様を描いた、川口松太郎の原作連載小説を依田義賢が脚色し、監督を溝口健二、撮影を宮川一夫が担当する「雨月物語」と同じスタッフによる芸者映画。白黒スタンダード。
主演は木暮実千代若尾文子
共演は浪花千栄子進藤英太郎河津清三郎菅井一郎

あらすじ

祇園の芸妓美代春の元へ舞妓志願に来た少女栄子は、かつての同僚芸妓と問屋沢本の間に生まれた娘だった。母はすでに亡くなり、父に縁を切られた栄子を、美代春は舞妓に仕込む決心をした。
そして美代春は、一年間栄子を女紅場に通わせ、舞妓美代栄として店出しする事となる。美代春はその費用として三十万円を、祇園一のお茶屋「よし君」の女将お君から借りた。

やがて美代栄の美貌とアプレな行動は俄然お客の人気を呼んだ。中でも車輛会社の専務楠田は彼女に食指を動かし始めた。実は美代栄の披露費用は楠田から出ていたのだ。

楠田は、官庁課長神崎と上京する事となり、美代春と美代栄も同行した。その夜、楠田は美代春に神崎を客にとるように言いつけ二人の寝室へ連れて行った。楠田は別室に美代栄を呼び、接吻しようとするが、彼女は悲鳴を上げて楠田の舌を思い切り噛んで、出血した。美代春が飛び込んだ時は、もの言えぬ楠田が倒れて美代栄が口を血で染めていた。

この騒ぎで、神崎を好きになれない美代春は事なきを得たが、これを聞いた女将お君は、上京は課長さんと美代春が結ばれることが目的であったので、すっかり面目が潰れてしまった。
お君は怒り、各お茶屋に触書を回して、二人を出入差留めとした。祇園祭が近ずいても美代春のやかたは淋しいものだった。

楠田の部下佐伯が、「よし君」にやって来てお君に、神崎を祇園祭に迎えるため、美代春に一晩接待させてくれと言う。プライドの高い美代春は一度は断るが、佐伯が美代栄を許すと言ってくれたので、美代春もこの話を受けることにする。

翌日、昼過ぎにお土産をいっぱい買って帰ってきた美代春を見て、美代栄はこんなものいらないと言って泣いて抗議する。美代春はそんな甘ったれた美代栄の横っ面を張り飛ばす。そして肉親同然に思っていると伝え、生まれも考え方も違う姉妹の力を合わせて生きていこうと約束する。途端に3本も仕事の予約が舞い込んだ。やかたにも賑わいが戻ってくる。二人は着物に着替えて、祇園の街へ二人並んで歩いて行った。

雑感

この作品はNHK朝ドラ「おちょやん」の主演のモデル浪花千栄子が唯一ブルーリボン賞を受賞した作品である。

確かに木暮美千代は円熟した女の色気を感ずるし、まだ新人のような若尾文子溝口健二監督に絞られたのがよくわかる作品だ。
若尾文子のポーズや表情に細かい演出が感じられる。特に美代春に叱られた後の表情は、それまでに何テイクも泣かされていて瞼が腫れていた。この時に二人は本物の義姉妹になれたのである。

しかし、いつもは和装の浪花千栄子が洋装で寛いでいる姿から振り返るシーンがあまりに自然でそれゆえ印象的だった。
彼女のお君と言う役は、優しくなくて、厳しくもするが、言うことを聞けば懐の広さを感じさせる役だった。こう言うしっかりした女将がいる間は、若い舞妓がいくら出てこようと、彼女らもいつか芸妓になるわけだから、結局はお君の言うことを聞かざるを得ない。

受賞
1953年 (第4回)ブルーリボン賞
   助演男優賞(進藤英太郎
   助演女優賞(浪花千栄子
1953年 (第27回)キネマ旬報ベストテン第9位

 

スタッフ

企画 辻久一
原作 川口松太郎
脚本 依田義賢
監督 溝口健二
撮影 宮川一夫
音楽 齋藤一郎

キャスト

美代春  木暮実千代
栄子(美代栄)   若尾文子
楠田専務  河津清三郎
メリヤス問屋沢本  進藤英太郎
楠田の部下佐伯   菅井一郎
官庁の課長神崎  小柴幹治
幸吉   石原須磨男
今西   伊達三郎
客小川  田中春男
女紅場の教師  毛利菊枝
お梅   小松みどり
かなめ  柳恵美子
お茶屋「よし君」の女将お君  浪花千栄子

 

祇園囃子 1953 大映製作・配給 溝口健二監督作品

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