巨大な白い鯨に足を食いちぎられた狂気の船長エイハブは復讐を果たすため、最後の戦いを挑む。
ハーマン・メルビルの原作小説三度目の映画化にして最高傑作。製作・監督ジョン・ヒューストンは、当時ダブリンに住んでいてSF作家レイ・ブラッドベリーをアメリカから招いて、脚本に起用している。鯨の模型製作、特殊技術、特殊撮影共にクレジットされていないが、当時としてはなかなかの出来。
主演はグレゴリー・ペック、共演リチャード・ベイスハート、レオ・ゲン、ハリー・アンドリュース、オーソン・ウェルズ。
海の上は、やはり男の世界だ。
あらすじ
1814年、マサチューセッツ州ベッドフォードにやってきたイシュマエル(リチャード・ベースハート)は“、全身刺青だらけのポリネシア人クィクェグ(フレデリック・レデバー)と親しくなる。翌日イシュマエルとクィクェグはエイハブ船長(グレゴリー・ペック)の捕鯨船ピークォド号の乗組員に雇われる。彼は白鯨を追い詰めてあと僅かのところで、逃げられた上に片足を奪われたことがあり、今回も機会があれば白鯨を倒そうと考えている。合理精神の持ち主一等航海士スターバック(レオ・ゲン)は反対したが一蹴された。
エイハブ船長はサミュエル・エンダビイ号のブーマー船長(ジェームズ・R・ジャスティス)から白鯨を出会ったことを聞き、その地点に向けて舵を切る。
そして遂に白鯨を発見し、ボートに分乗して戦闘を開始する。エイハブは白鯨の背中へよじ上り銛をぶちこむが、白鯨共々海中に姿を消す。次に海上に上がってきた時、エイハブは死んでいたが綱に絡まってまるで白鯨の背中からおいでおいでをしているようだ。船員たちの乗ったボートは白鯨の尾ひれによって砕け散り、体当たりを食らったピークォド号も沈没した。ただ一人生き残ったイシュマエルは、クィクェグが船大工に作らせた棺桶に乗って漂流した後、通りがかったレイチェル号に救出される。
雑感
帆船で鯨を捕りまくったのは米国が始まりだ。当時は鯨油を採取して、鯨肉は自分たちの食料にして、数年続けて遠洋に出ていた。つまり捕鯨はエネルギー産業だった。アメリカはゴールドラッシュが起こり、さらに石油や天然ガスが取れるようになって捕鯨業は廃れた。
私は鯨肉が好きでないから、鯨なんかどうでもいい。生態系はできるだけ乱さない方が良いと思うが、オカルトではなく科学的に議論して欲しいと思うだけ。
初めてこの映画を見たのは、親が好きだったからだ。子供心にエイハブの死体が「おいでおいで」をしているシーンはホラーにしか見えなかった。
成長してからは、この映画に男の執念の凄まじさを見せつけられる。と同時に、オーソン・ウェルズの演じたマップル神父が自然の驚異を神の成せる業とも思わず、何でも挑んでしまう人間の浅ましさを戒めていたことに気付く。
それはまるで、現代の科学のようである。ここにレイ・ブラッドベリを使った意味があるのかも知れない。
しかし前作「海の巨人」(ジョン・バリモア主演トーキー)、前々作の「海の野獣」(ジョン・バリモア主演サイレント)と違い、ハッピーエンドでなかったので興行収入は普通で並のヒットに過ぎなかった。それより、捕鯨国日本で人気が出たと思う。
グレゴリー・ペックは評判が良くなかったので、この作品をあまり気に入らなかったそうだ。
ブラッドベリは豪快なジョン・ヒューストン監督にアイルランドで振り回されたそうで、のちにアイルランドの記録を自伝的小説に書いている。
吹替版はノーカット(全編日本語)で、グレゴリー・ペックの声は城達也だがイシュマエルが小川真司になっている。記録を見るとTBS1984年5月26日版「名作洋画ノーカット10週」(提供ソニー)だそうだ。
シアトルに本拠のあるスターバックス・コーヒーの名前の由来は、映画に出てくるスターバック一等航海士だそうだ。
スタッフ・キャスト
監督・製作 ジョン・ヒューストン
原作 ハーマン・メルヴィル
脚本 レイ・ブラッドベリー 、 ジョン・ヒューストン
撮影 オズワルド・モリス
音楽 フィリップ・ステイントン
配役
エイハブ船長 グレゴリー・ペック
イシュマエル(語り手) リチャード・ベイスハート
スターバック レオ・ゲン
ブーマー船長 ジェームズ・ロバートソン・ジャスティス
スタッブ ハリー・アンドリュース
マンクスマン バーナード・マイルス
船大工 ノエル・パーセル
ダグー エドリック・コナー
ペレグ マーヴィン・ジョンズ
クィーケグ フレデック・レデブール
マップル神父 オーソン・ウェルズ